文=岩井貞憲 構成=ゴールドスタンダードラボ 写真=Getty Images

スモールプレーヤーは「タイミングをずらすスキル」で勝負

バスケットボール・プレーヤーに向けて、NBA選手のスキルを解説する連載。その第3回目となる今回は、惜しくもプレーオフ1回戦で敗退してしまった、ボストン・セルティックスのアイザイア・トーマスを取り上げます。

トーマスは175cmとNBAではかなりの小柄。ドラフト時は全体最下位の60位指名と、低身長がネックとなり大きな期待をされていませんでした。ところが、ルーキーシーズンから平均2桁得点を記録。その後も数字を伸ばし、今シーズンはわずか30分程度の出場時間にもかかわらず、平均22点を記録。48分間で換算すると、なんと全体7位の33点を取っていることになります。

この身長で、いったいどうすればこれほど点が取れるのでしょうか? トーマスのプレーには、スモールプレーヤーならではの工夫が随所に見られますが、「トーマスのスキルを真似れば大きい選手に打ち勝てるか?」というと、実際難しいものです。

その上で今回は、「タイミングをずらすスキル」を2つ紹介します。ただしこれだけで技術が成立するのは難しく、トーマスがNBA屈指のクイックネス、フィジカル、ボールハンドリング能力を持っていることに注意してください。

背が低い選手は、今回のスキルだけでなく、優先順位を決めて様々な能力を伸ばしていく必要があります。その上で自分なりに工夫して、大きい選手に対抗する術を身に着けていくべきと考えています。


アイザイア・トーマスの「プロテクト・ヘジテーション」

オフェンスの際、身体が前を向いてディフェンスと向かい合っている状態を「オープンスタンス」、背中向きの状態を「プロテクトスタンス」と呼びます。トーマスのシグネチャームーブは、プロテクトスタンスでのヘジテーション(チェンジ・オブ・ペース、緩急を付けることで相手のタイミングをずらすこと)です。

このプレーのパターンは2つあります。

アタック(ディフェンスが反応しない場合) プロテクト・ヘジテーション

ボールを守りながらディフェンスに背中を向け大きくステップを踏みます。ディフェンスのワンステップアヘッド(ディフェンスフットの真横の空間)に足を置くようなイメージでステップし、ディフェンスが反応しなければそのまま加速します。ここのポイントは、出した前足を一旦止めてから加速することです。

カウンター(ディフェンスが反応した場合) リトリート~クロスオーバー

ここでディフェンスが反応した場合は、②のリトリート(ディフェンスから離れるように下がるドリブル) からカウンタードライブなどのオプションが生まれてきます。リトリートドリブルとはディフェンスに対して半身の状態にドリブルをつきながら下がる動作のことを言います。

また注意する点として、②のリトリートはボールを守りながらディフェンスを見る時間を長くすることができる一方、オープンスタンスと違いシュートのオプションがないことです。スキルの長所、短所を理解して、スキルを練習・発揮していくことが大事になります。


アイザイア・トーマスの「ワンフット・レイアップ」

もう一つ、トーマスらしいタイミングを外すためのスキルを紹介します。リング、ディフェンスに対して外側の足でワンステップ、外側の手でレイアップに持ち込むスキルです。タイミングのズレを作るとともに、内側の手と腿でディフェンスとのスペースを作り出します。

通常のランニングステップでは、身体が流れないよう、そして高く飛ぶために腿を上げます。一方、外側ワンステップレイアップで腿を上げる目的は、ディフェンスとの間にスペースを作ることです。

ジュニア期の選手ですとなかなか腿が上がらない選手がいます。もちろんスキルトレーニングの中でのアプローチが必要になってきますが、目的を知り必然性を理解してトレーニングをしていくと、動きに対する意識が変わってくるのではないかと考えています。

NBAのスキル解説
vol.1 コービー・ブライアント「センター顔負けのポストムーブ」
vol.2 ジャマール・クロフォード「クロスオーバー~バックチェンジ」
vol.3 アイザイア・トーマス「スモールプレーヤーの得点スキル」
vol.4 カイリー・アービング「ペネトレイトからのフィニッシュワーク」

PROFILE 岩井貞憲(いわい・ていけん)
1987年生まれ、千葉県船橋市出身。「バスケットボールを通じて、最善をつくす喜びを知る選手を育てたい」を指導理念とする。