文=岩井貞憲 構成=ゴールドスタンダードラボ 写真=Getty Images

NBAで屈指の「アンクルブレイカー」、その特徴的なスキルを解説。

バスケットボール・プレーヤーに向けて、NBA選手のスキルを解説する連載の第2回目は、NBA史上初めて、シックスマン(スターターではなく、ベンチから一番にコートに送り出される役割の選手)・アワードを3度受賞したジャマール・クロフォードです。クロフォードはミシガン大学からアーリーエントリー(大学4年次終了前にプロにエントリーすること)でブルズに入団。これまでにニックス、ウォリアーズ、ホークス、トレイルブレイザーズ、クリッパーズと様々なチームを渡り歩いたジャーニーマンです。

私が思い付く中でも、NBAで屈指のアンクルブレイカー(ディフェンスのバランスを崩して転ばせてしまうこと。アンクル=足首を、ブレイク=壊すことから)です。ドリブルスキルは魅せる要素もありながら、切れ込んで得点に結び付けることができ、アーチの高いシュートで4ポイントプレーやクラッチシュート(決めれば逆点や同点になるなど、勝負がかかったシーンの重要なシュート)など、アウトサイドにおけるシュート力もある選手です。

そのクロフォードもプロキャリア初期には、シュートが多くセルフィッシュ(自分勝手)な選手と言われることが多かったのですが、スターターからシックスマンに役割を変え、ベンチからの起爆剤として起用されるようになってから、高い評価を得るようになりました。

クロフォードのドリブルスキルに関しては、言語で整理して理解を深めることも大事ですが、映像がたくさんあるので、ドリブルのバリエーションだけでなくリズムやフットワークなどをたくさん見て真似してみるとよいのではないでしょうか。


ジャマール・クロフォードの「クロフォードムーブ」。

今回はクロフォードの多様なスキルの中でも、クロスオーバーやレッグスルー(足の間を通してドリブルを左右に切り返すスキル)からのバックチェンジ(身体の後ろを通してドリブルを左右に切り返すスキル)によるペネトレイトスキルを解説します。

「こんなスキル、試合中に使えるのか?」と考える方もいるかもしれません。実際、私の1on1における考えでも、素早く少ない動作でゴールに向かう方が優先順位が高いです。しかしドリブルスキルは、手と足の動きを自由に組み合わせ、無数のバリエーションを作ることができます。試合で使えるかどうかは別としても、動きの選択肢を広げるという意味で、ジュニア期ではこういったドリブルスキルのトレーニングも必要だと考えています。

このクロフォードムーブの一連の動きを分解すると、以下に分けられます。
A.セットアップ:クロスオーバー&レッグスルー
B.アタック①:クイックチェンジ
C.アタック②:ホップチェンジ
D.バリエーション:アタック①と②の様々な組み合わせ

次から、それぞれを詳しく見ていきましょう。


A.セットアップ:クロスオーバー&レッグスルー

クロスオーバーとは、ドリブルを左右に切り替えるスキルの総称。ここでは身体の前で切り返すケースを指します。すぐさまクイックorホップチェンジに移行する場合もありますが、その前の予備動作にてレッグスルーやクロスオーバーを入れた後に移行するパターンが多く見られます。


B.アタック①:クイックチェンジ

ここでは、バックチェンジの移動距離に応じて「クイック」と「ホップ」という言葉で区別しています。このクイックチェンジは、ボールを背中越しに足の間で素早くバウンドするようにチェンジし、ディフェンスの逆を突いてフリーズ(動けない状態にする)させます。クイックチェンジでは、レッグスルーからバックチェンジまで素早いリズムでの切り返しがが続く形になります。


C.アタック②:ホップチェンジ

ホップチェンジは、背中越しでボールを足よりも外側にバウンドさせ、ディフェンスとの空間・タイミングのズレを作り出します。ドライブに移行する瞬間はディフェンスの足が反応し終わった瞬間か、反応した瞬間の逆を突くことになります。要はディフェンスのスタンス、足の位置、バランスが崩れた瞬間です。私はこれらをバッドスタンスと呼んでいます。

またディフェンスのタイプを大きく分けると、①反応や読みが優れているディフェンス、②脚力がありオフェンスのアクションを見てから反応できる、リアクションが優れているディフェンスです。

クイックチェンジとホップチェンジも厳密にこのタイミングとは言えませんが、技術の特性を踏まえると、クイックチェンジのような素早いチェンジは①読みが上手な選手に有効です。ディフェンスの足が反応しやすいため、素早いチェンジにてディフェンスをバッドスタンスにさせましょう。ホップチェンジのようなズレを作るチェンジは、②リアクションが上手な選手に有効です。ディフェンスを見る時間を作り、ディフェンスが遅れて反応した瞬間にドライブへ移行します。


D.バリエーション:アタック①と②の組み合わせ

またバリエーションとして、クイックチェンジとホップチェンジを組み合わせて使うケースが多いのですが、クイックチェンジからホップチェンジに移行する動きをよく見ることができます。


ポイント:バックチェンジからオープンスタンスを作り出す

ホップチェンジにおけるフットワークのポイントは、ボール側の足を逆側の足よりも後ろ側でクロスするようにしてスキップを行い、チェンジ後オープンスタンスを作り出すことです。

オープンススタンスを作り出すことにより、シュートやドライブなど攻撃の選択肢を作り出し、次の動作へと移行しやすい状態を作ります。このオープンスタンスについては、また別の機会で詳しく説明します。


さて、今回はNBAでもトップクラスで、かつユニークなドリブルスキルを持つジャマール・クロフォードを紹介しました。他にもまだまだ紹介したいスキルがありますので、次の機会に紹介できればと思います。

NBAプレーオフも1stラウンドが終わり(クロフォードのクリッパーズは主力の怪我で敗退してしまいましたが)、様々な戦い方やスキルがあってとても勉強になりますね。その中で共通する事象があったりと、発見するものがたくさんあります。この記事をスキルアップの活用にしつつ、プレーオフ観戦を別の目線で楽しむことにも活用していただけたら幸いです。次回は1stラウンドで散っていった選手の中からスキルを解説したいと考えています。お楽しみに!

NBAのスキル解説
vol.1 コービー・ブライアント「センター顔負けのポストムーブ」
vol.2 ジャマール・クロフォード「クロスオーバー~バックチェンジ」
vol.3 アイザイア・トーマス「スモールプレーヤーの得点スキル」
vol.4 カイリー・アービング「ペネトレイトからのフィニッシュワーク」

PROFILE 岩井貞憲(いわい・ていけん)
1987年生まれ、千葉県船橋市出身。「バスケットボールを通じて、最善をつくす喜びを知る選手を育てたい」を指導理念とする。