文=岩井貞憲 構成=ゴールドスタンダードラボ 写真=Getty Images

シュートに持ち込むまでに多彩なスキルで相手を翻弄する

バスケットボール・プレーヤーに向けて、NBA選手のスキルを解説する連載も4回目になりました。今回は2015-16シーズンのNBAファイナルで素晴らしいパフォーマンスを見せたカイリー・アービングのスキルをご紹介します。

NBAファイナルでは、シーズン記録となる73勝を挙げたゴールデンステイト・ウォリアーズが圧倒的な優勝候補と目されていました。ファイナルの第4戦を終えて3勝1敗と先行したウォリアーズの優勝を誰もが確信していたことでしょう。しかし、ここで気を吐いたのがレブロン・ジェームズであり、そしてアービングでした。

アービングの強みは、ペネトレイトからの多彩なフィニッシュです。今回のファイナルだけでも、目を見張るフィニッシュが多数ありました。ペネトレイトからのフィニッシュは、多くの日本人選手にとっての課題です。是非アービングをお手本に、フィニッシュの精度を高めていってください。

プレーオフにおけるアービングはそのフィニッシュスキルを駆使し、ペイント付近のショットで50.9%(218本中111本成功)と、高い成功率を残しました。ペイントエリアでの平均得点は、両チームトップのレブロン(16.9点)に次ぐ得点(9.4点)となります(3位は7.7点のトリスタン・トンプソン)。

アービングは身長191cmと、NBAの中では決して大きいわけではありません。むしろサイズ面ではハンディを抱えていると言えます。ペイントフィニッシュのシチュエーションで自分よりも大きい選手と対峙して、アービングのように高確率で得点を奪うには、ディフェンスに対して「空間」と「時間」のズレを作ることが必要になります。ディフェンスに対してどれだけ「ズレ」を作った状態でフィニッシュに持っていけるかがポイントになります。


パーカー・ステップ(前後の空間:ブロックされないスペースを作り出す)

スパーズのトニー・パーカーが得意とするステップで、送り足と呼ばれることが多いステップです。抜き去ったディフェンスに対して前後に空間を作るようにしてレイアップに持っていくスキルです。フィニッシュに繋がるステップのタイミングをずらすことで、相手とのスペースを作りつつシュートを放ち、相手のブロックショットをやりづらくします。抜き去ったディフェンスの身長が高い場合、空間が作れていなかったり、タイミングが読まれやすかったりすると、ブロックされる可能性が高くなります。


ドリブルシェイク~ステップ(左右の空間:ブロックされないスペースを作り出す)

1on1ドライブ、ピック&ロールでボールマンを抜き去った後、ヘルプディフェンスの選手と対峙した場面にて使用するスキルになります。

ビッグマン(ヘルプディフェンス)が待ち構えているところにステップを踏みに行くため、ブロックされないためには左右どちらにステップを踏むか、またどのタイミングでステップを踏むか、できる限りビッグマンに読ませないようにする必要があります。そのためこの動画でのアービングは、ステップ直前に右手から左手へとドリブルチェンジしながら、フェイクを入れたステップを踏み、相手に動きを読まれないままフィニッシュに持ち込んでいます。

②’ アウトフットのワンステップ・レイアップ(左右の空間:ブロックされないスペースを作り出す)

アイザイア・トーマスの記事でも紹介したアウトフットのワンステップ・レイアップです。振り上げた大腿部とプロテクトハンドでディフェンスをガードし、わずかながら左右の空間を作り出すことでブロックショットをさせません。


ロングステップとフローター(上下の空間:ブロックされないシュートラインを作り出す)

レイアップにおけるシュートラインを作り出す前のステップスキルです。1歩目と2歩目が同じリズムのランニングステップはリズムが読みやすいため、ブロックされる可能性が高くなります。そのため、いつシュートを打つか相手に読ませず、ブロックを先に飛ばせる状況を作り出すことが必要になってきます。

この動画では、2歩目のステップを大きくゆっくり行なっています。ステップはリング方向かつ相手ディフェンスの足の前の位置にステップを踏み出すと同時にリズムを変えており、対峙する選手がブロックに行くタイミングをつかめず迷っているのが分かります。ディフェンスが先にブロックに飛んだので、ショットタイミングを遅らせてシュートを放っています。

ベースラインドライブからボードを使う(上下の空間:ブロックされないシュートラインを作り出す)

レーンドライブ(フリースローレーンに沿ったドライブ)、ベースラインドライブ(ベースラインに沿ったドライブ)から、バンクショット(ボードに当てるシュート)でフローター(ブロックを交わすような高い軌道のシュート)を行います。

このときボードを使うことにより、ボールが左右に多少ズレていても入る確率が高くなります。またビッグマンはシュートライン(ボールとリングのライン)にブロックに飛んできますが、ボードを使うことでこのシュートラインを少しだけズラして打つことができます。こういった小さい工夫の積み重ねが、大きい選手と対峙しながら高いシュート成功率を保つには大事なポイントになっていきます。フローターバンクは竹原コーチ(熊本大学のヘッドコーチ)よりご教示いただきました。


今回はかなりたくさんのスキルを、駆け足でご紹介する形になりました。「NBA選手だからこれだけの工夫をしている」のではなく「これだけの工夫をしたからNBAで活躍するまでに至った」と考えて、皆さんも励んでいただければと思います。さて、1on1における空間・時間については、こちらのブログ書籍でも紹介していますので、よろしければ参考にしてみてください!

NBAのスキル解説
vol.1 コービー・ブライアント「センター顔負けのポストムーブ」
vol.2 ジャマール・クロフォード「クロスオーバー~バックチェンジ」
vol.3 アイザイア・トーマス「スモールプレーヤーの得点スキル」
vol.4 カイリー・アービング「ペネトレイトからのフィニッシュワーク」

PROFILE 岩井貞憲(いわい・ていけん)
1987年生まれ、千葉県船橋市出身。「バスケットボールを通じて、最善をつくす喜びを知る選手を育てたい」を指導理念とする。