近年は桜花学園との『2強』のイメージが定着した岐阜女子だが、全国で常に勝てるチームというわけではない。インターハイは24年連続26回目の出場となった今年が初優勝。26年連続26回目の出場となるウインターカップも、過去の優勝は1回のみ。長く努力を重ね、少しずつチームとして強くなってきた。
チームを率いる安江満夫監督は、就任なんと42年目。赴任してきた時にはバスケットボール部がなかったが、自らバスケ部を立ち上げ、まさに40年がかりでチームをここまで引き上げてきた。まずはそこから、岐阜女子バスケットボール部のことを語ってもらった。
[INDEX]ウインターカップ2017プレビュー 出場校インタビュー
「最初は試合をするたびに負ける素人集団です」
──就任42年目、またバスケ部は安江監督が作ったと聞きました。本当にご自身でバスケ部を作ったのですか?
私は岐阜の出身で、高校時代は当時強かった岐阜農林でインターハイに3年間出させてもらいました。大学は大東文化大で、今年インカレで優勝しましたが、私が入学した時は関東3部リーグのBというレベルでした。2部の手前まで行って卒業して、社会科の教員として岐阜女子に新卒で赴任したのが1976年のことです。
教員になって「さあバスケットをやるぞ」と思ったらバスケ部がないんです。1年目は当時結構強かったソフトボール部の監督になって、県の決勝までは行ったのですがインターハイには出られませんでした。2年目にソフトボール専門の先生が来たので、それならとバスケ部を作りました。最初は試合をするたびに負ける素人集団ですよ。何もないところから立ち上げてここまで経験させてもらいました。いろんな失敗をして、いっぱい負けさせてもらったことが、私にとっても岐阜女子バスケ部にとっても大きな財産になっています。
──学校側も、もともと「強豪バスケ部を作って有名になろう」との考えはなかったんですね。
全然なかったですね。私がバスケットが好きで、どうしてもバスケを指導したくてチームを作っただけです(笑)。最初は同好会で、外のグラウンドで練習していました。雨が降ると廊下で練習です。コートがありリングがありボールがあるのは当たり前のことではありません。そういう思いは今も大切にしています。
指導者としても素人だし、創部したばかりで良い選手は集まりません。それでも必死に教えていく中で、子供たちもいろいろなものを得て巣立っていってくれました。創部3年で県のベスト4になりました。地方の県だから、必死になれば何とかなるんです。情熱に勝る指導はないと思いました。若い頃はそれしかなかったんですけどね。
それでも指導の素人だからこその強みもあります。私は体育教師ではなく社会科の教員で、トレーニングの方法も知りません。だから人に教わりました。身体を強くするにはどうするか、足を速くするにはどうするか。そこを「お願いします」と頭を下げたって、人間の価値が下がるとは思いません。いろんな人のところに足を運び、見させていただき、話を聞きました。ただがむしゃらにやっていた時代ですね。今も形は変わったかもしれませんが、その姿勢は変わっていないつもりです。
「ベースになる力をちゃんと積み上げて勝つ」
──長らく監督をする中で、全国大会に出続けるようになるタイミングがあります。地道に努力を続けた結果なのか、あるいは何らかのブレイクスルーがあったのか、どちらでしょうか。
1989年に初めてインターハイに出ましたが、その後の2年間で勝てるチャンスがあったのに勝たせてあげられなかった。私は県の準優勝の賞状を22枚持っています。指導者としてもう少し勉強していれば、子供たちにもっと良い思いをさせてあげられた。だから私からすれば準優勝は指導者としての技量不足の証です。その悔しかった思いを大切にするために、準優勝の賞状を大切に持っています。
それを経て、ベースになる力をちゃんと積み上げて勝つことを意識するようになりました。つまり、負けないチームを作るということです。勝ちたい勝ちたいでは、やっぱり勝てません。この時期から県内の勝ち方の目安をちゃんと持てるようになったと思います。
──負けないチーム、負けない戦い方というのはディフェンスですか?
そうです。結果的に相手を上回るのが大事だけど、負けないというのは失点をいかに少なくするかです。オフェンスはいくら調子が良くてもシュートが落ちることはあります。マイケル・ジョーダンだって外すわけですから。そういう意味で、一番計算できるのはディフェンスなんです。
トーナメントを何試合もやっていく中で、どんなに苦しくても、点が取れなくてもディフェンスをちゃんとやれば活路が見いだされる。ディフェンスから2点を取る、という考え方を普段からやることで、選手にも浸透していきます。
「気付く力、判断する力を養ってあげる」
──選手たちは多感な年頃だし、しかも女子です。日頃の指導ではどんなことを意識しますか?
基本的には同じバスケットボールを教えるので、男子とか女子とかの隔たりを考える必要はないと思います。気を付けているのは『Good Play』と『Bad Play』をしっかり教えてあげることです。指導はより合理的に、選手が納得できる方法で教えるべきだと考えています。よくありがちなのは、指導者が大声を張り上げて、選手たちが「ハイ!」とやっている。私も最初はそういう指導もしていましたが、やっぱり結果が出ないんです。そこは指導者が納得するんじゃなくて選手が納得する方法を持っていないといけないですよね。
指導者はたくさん言葉を発すれば、なんなら大きな声を出せば教えたつもりになってしまいますが、じゃあ受け取る側にどれだけ染み込んでいるのか。本来はそちらが大事なんです。ウチの練習では選手が「ハイ」と返事をすることはあまりありません。私が「この方法とこの方法、どっちがいいか」という問いかけをするからです。
──それだと無意識のまま「ハイ!」と言うわけにはいきませんね。
2つの料理があって、「こっちが美味しいから食べなさい」と言うのではなく、選手が両方の味をみて、自分の口に合うほうを選んで食べる。それが人として一番納得できる方法です。というのも、バスケットで一番必要なのは判断力だからです。それは指導者から「判断しろ!」と言われてできるものではありません。気付く力、判断する力を養ってあげる。それが岐阜女子のチームカラーになっていると思います。
それはバスケットに限らず、学校生活の中で培われる部分もあります。例えばクラスでちょっと顔色の悪い子がいたら、気付いて声を掛けられる。ゴミが落ちていたら拾ってゴミ箱に捨てる。それだけのことですが、気付く力、状況判断の力になっていくんです。コートの中で練習するのは24時間のうち3~4時間です。あとは普段の生活をしているわけで、そこでバスケット選手として成長するために培われるものもあります。それを指導者が気付かせてあげるのが非常に大事だと思います。
──その考えに至ったのは何かきっかけがあったのですか?
いや、これは創部の頃から一貫しています。なぜかと言うと、私は校長先生に随分無理を言ってバスケットボール部を作ってもらったからです。それでバスケ部の生徒が校則違反をしてたら困るんです。だから生活指導には気を付けました。ある意味、自分たちがバスケットをしたかったら、当然やらなければいけないことだったんです。人間は自分の都合の良いことだけやって生きていけるわけではありませんから。