取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎

桜花学園はウインターカップで過去21回の優勝、そしてこの10年間で7大会を制している『高校女子バスケ界の巨人』だ。昨年はインターハイ、国体、ウインターカップと『3冠』を達成。その強さをあらためて世に知らしめた。

ところが、ウインターカップを1カ月後に控えた11月末に取材すると、井上眞一監督の口調が重い。優勝しても内容が満足できなければ反省の言葉ばかりが出てくる監督ではあるが、「今年は強みがないね。どこで負けてもおかしくない」と、いつも以上に厳しく現状を見ている。『優勝候補』と評価されつつも、チームの状態は上がってこない。それでも勝利に強い意欲を燃やす井上監督に話を聞いた。

[INDEX]ウインターカップ2017プレビュー 出場校インタビュー

「チームが成り立たないところからのスタート」

──『3冠』を達成した1年前から新チームに代替わりし、ここまでどういう状況ですか。

180cm以上の選手がいなくて、近年では一番サイズが小さいチームになっています。下級生に頼らないとチームが成り立たないところから、インターハイに行けるか行けないか、愛知県で優勝できるかどうかも分からないところからのスタートでした。なおかつ、本来ならエースになるモハメド(早野夏)が前十字靭帯をやってしまったので、非常に苦しかったです。

高さがない分、失点を減らすためのディフェンスはある程度できたのですが、やっぱりインサイドでパワーのある選手がいないので、強いチームと対戦するとビッグマン相手に守れない、リバウンドが取れない。インサイドの得点も非常に少ないです。例年だとサイズでは相手が上でも何とか点を取ってこれたのですが、そういう選手がいません。

──11月には台湾遠征を行い、現地のチームと戦いました。収穫はありましたか?

サイズのある選手に対してディフェンスが効いたのは収穫です。だいたい40点くらいに抑えられたので、ディフェンスは相手に相当なプレッシャーをかけられたと思います。準決勝で当たると予想されるのは東京成徳もしくは大阪桐蔭。このあたりにはサイズのある選手がいるので、そこに対してのディフェンスがどれだけできるか。高さで勝てなくても、センターがパワーで何とかしてくれれば良いのですが、今年はインサイドにパワーのある選手がいないので苦しいところです。

インターハイ決勝で岐阜女子に負けて、国体予選でまた負けて。今年は国体に出ていないですから、当然「今度こそは」と思ってウインターカップに臨みますが、厳しいことに変わりはありません。

「これだけケガ人を抱えて大会を迎えるのは初めて」

──昨年に『3冠』を達成していても、やはり負ければ変わらず悔しいものですか。

インターハイでは立ちっぱなしと怒鳴りっぱなしで体調を崩しました。1回戦から、その前の合宿からリードが30点になるまでは座らないと決めていたんです。試合の最初から立っているのはおかしいとも思ったんだけど、選手に「もっと頑張れ」と伝えたかったんです。それで選手を鼓舞して、戦うモチベーションになればと。その結果、ふくらはぎの毛細血管が切れて湿疹が出たんです。最初は虫にでも刺されたのかと思って皮膚科で薬をもらったんですが治らない。それで別の皮膚科に行ったら、怒鳴りすぎて毛細血管が切れていますよ、と。それで、負けたら監督の責任と覚悟して、大声は出さないでおこうと。

負ければやっぱり悔しいです。夢にも出てきます。負けた瞬間のことが何度も何度も出てきます。メンタルを切り替える方法はないですが、次のチャンスで勝とうと思うだけです。勝負の世界だから、負けたことのストレスをあまり引きずっていたら病気になりますよ。

──ウインターカップの話に戻ります。大会に向けて必要なのは高さ対策ですか?

大きさの部分で言うと、やはり岐阜女子との対戦が問題だと思っています。190cmあってパワーがあってリバウンドにも強い。あれだけの選手(バイ・クンバ・ディヤサン)は岐阜女子の中でも初めてだからね。高さ対策はまだ、試験が終わってからです。国体ではボックスアウトを2人いくのをやってみたのですが、うまくいかなかったので。今はアウトサイドのシュート確率を上げて、スタートの4人が3ポイントシュートを打てるようにしたいです。アウトサイドのシュートじゃないと戦えないので。

──インサイドを何とか止めつつ、トランジションからアウトサイドで攻めるイメージですね。

トランジションもまだまだだね。台湾遠征でもアウトナンバーになる場面がもっと欲しかったけど、そこまでできていませんでした。これはケガ人の多さも影響しています。主力クラスの選手だけで3人、十分な練習ができていません。モハメドのプレータイムを何とか作りたいのですが、前十字なのでちょっと今の感じだと厳しい。あとは疲労骨折が2人います。

これだけケガ人を抱えて大会を迎えるのは初めてです。これまでもケガ人は多くいたのですが、だいたい完治して大会を迎えることが多かったので。練習内容も考慮しながらやっています。

「難しい点はあるが、何とかして優勝したい」

──今のチームには強みがないとおっしゃいましたが、強いて挙げるなら?

山本麻衣のリーダーシップとディフェンス力です。また藤本愛瑚はケガを抱えて今までは5分で交代してきましたが、ウインターカップの大事なゲームではフルで使おうと思っています。今年の3年生はケガがあったのが残念です。藤本はもっとスーパースターになってほしかったけど、途中でケガをしてしまったので。ただ、これからもっと期待できます。

山本は入学からずっとプライドを持って頑張っています。歴代を見ても1年生からスタートで使われている選手はたくさんいるわけではありません。しかもポイントガードだから、桜花のシステムを覚えるのも相当大変だったはずです。山本の中学校はあまりシステムを使っていなかったので。しかも、それを上級生に指示しないといけない。それでも山本はすんなりやってみせました。

やはりポイントガードは一番大事なんです。ビッグセンターよりも良いガードがいないと勝てない。そういう意味では1年生からスタートで出ているのはすごいことですよ。

ポイントガードは相手のポイントガードを潰せ、というのが私の持論です。そこは山本は頑張っています。あとはもう少し点数を取ってほしいので、ウインターカップでは積極的に得点を狙っていけと言っています。

──ここまで勝てていないチームですが、それだけに最後のウインターカップでは勝ちたいところです。ポイントとなるのはどこでしょうか。

もうちょっと走れるようになって、アウトサイドのシュートが入るようになれば、というところが課題です。最後は勝ちたい、というのが私の本音です。いろいろと難しい点はありますが、何とかして優勝したいです。