文=大島和人 写真=B.LEAGUE、鈴木栄一

ペイントエリア内での破壊力は抜群

ハッサン・マーティンは1995年11月22日生まれの21歳。ロードアイランド大を昨夏に卒業したばかりの『大卒ルーキー』だ。9月上旬にBリーグ関西アーリーカップで彼のプレーを初めて見たとき、「とんでもない選手が来たな」と一目で魅入られたことを思い出す。

203cm109kgという体格は外国籍選手、インサイドプレイヤーとして際立つものではない。しかし彼がBリーグ最高レベルのアスリートということは一目で分かった。彼がすごいのは「跳べる」ことで、NCAAのアトランティック10カンファレンスでは4年連続でブロック王になっている。

一方で、逸材だからこそ少し心配になった。琉球ゴールデンキングスは元NBAのヒルトン・アームストロング、Bリーグ最強帰化選手のアイラ・ブラウンも獲得している。だから「良い選手だけど3番手の外国出身選手としてプレータイムが抑えられる」という危惧も感じた。

しかしマーティンは25日の京都ハンナリーズ戦を終えた時点で、1試合平均24.6分のプレータイムを確保。9試合を終えた時点で得点、リバウンドはチーム最多で、両項目ともリーグ全体のトップ15に入っている。

京都戦は25分28秒のプレータイムで19得点8リバウンドを記録した。外国籍選手のオン・ザ・コート数が「1-2-1-2」だったため先発はしていないが、第1クォーターには残り3分19秒のダンクなど計6得点。その後も利き手の左腕を大きく回旋させるフック、力強いジャンプショットと決め続けた。スリーやミドルを放つタイプではないが「リング回りでフィニッシュできたことが良かった」と語るように、ペイントエリア内での破壊力は抜群だった。

「運動能力や積極性といった自分の強みを出すだけ」

彼に目標とする選手を聞くと「アンソニー・デイビス(ペリカンズ)、ポール・ミルサップ、ケネス・フェリード(ともにナゲッツ)といった選手のプレーをお手本にしている」と口にしていた。「パワフルだけど俊敏で、ハッスルするインサイドプレイヤー」という部分がマーティンの強みであり、今後も伸ばすべき方向性なのだろう。

マーティンにとって琉球は人生初のプロキャリア。しかも初海外という日々だが、加入後の3カ月を彼はこう振り返る。「今のところ上手く対応できている。開幕直後なので成長しなければいけない部分はあるけど、自分個人としては一つひとつのことにチームへアジャストしようとして、良くなっていく過程が踏めている」

琉球の外国出身選手はブラウンが35歳、アームストロングが32歳で、マーティンとはかなり年の差がある。そんな2人とプレーすることで得られるものもあるようで、マーティンはこう彼らへの感謝を口にする。「2人は自分のメンターとして、気持ちの支えになっている。他の人にとっては小さいかもしれないけど自分にとっては大きいことを、バスケット以外も含めて普段から教えてもらっている」

経験は乏しくてもコート狭しと走り回り、ボールへ機敏に反応し、ゴール下で「まさか」という動きを見せるのがマーティンの存在価値だ。彼は言う。

「毎回毎回ハッスルして、運動能力や積極性といった自分の強みを出すだけ。自分の良さはエナジーがあって、フィジカルな、アスレティックなところ。ベテランの選手は経験もあるし、競争は難しいところでもあるけれど、与えられた時間を一生懸命やるだけだ」

マーティンはまさにそういう選手だ。とはいえ彼もまだ21歳で、プロとして成長していかなければいけない。自身の課題として2点を挙げていた。「ディフェンスは自信がありますが、中間距離のディフェンスをもう少し強化したい。ゴール周りのフィニッシュも、まだまだやっていかなければいけないところがある」

覚えた日本語は「オーイェー」と少々天然キャラ!?

「最初の2,3週間は大変でしたけれど、今は慣れていい暮らしをしています」というマーティン。「日本語は何か覚えましたか?」と尋ねると「オーイェー!」という自信満々のリアクションが返ってきた。

しかしすぐ「リトルビット……」(ちょっとだけ)と小声になり、通訳に助け舟を要求。「サンキュー」と横から声が入ると「ありがとうございます」を思い出し、続いて「はい」、「おつかれー」と言ったボキャブラリーが出てきた。

多少『天然』なところはあるようだが、マーティンの常に元気いっぱい、一生懸命のプレーは見る人を引き付ける。彼のフィジカルで、アスレティックなプレーはバスケを知らない人にも一瞬で凄味が伝わる。

昨シーズンは川崎ブレイブサンダースのライアン・スパングラーがカレッジ出身のルーキーながらB1で大きなインパクトを残しており、NCAAからストレートで来日する選手には「これは」という人材が少なくない。マーティンもそんな中でも要注目の才能だ。