文=丸山素行 写真=©JBA、鈴木栄一

藤岡の体調不良というピンチに「チャンスだと思いました」

ユニバ女子日本代表は50年ぶりとなる銀メダルを獲得し、昨日『笑顔』で帰国した。ポイントガードとして日本を引っ張った安間志織は「銀メダルもうれしいですけど、あそこまで行ったらやっぱり金メダルは取りたかったですね」と話す。

日本はグループリーグから相手を圧倒して決勝に駒を進めた。だが、順調に見える戦いぶりの裏では一つのアクシデントが発生していた。アジアカップ優勝に貢献し、大会ベスト5に選ばれてA代表から唯一ユニバ代表に合流した藤岡麻菜美の体調不良だ。大会直前のチーム合流ではあったが、実力も経験もある藤岡の不調はチームを揺るがす問題だった。

それでも、この不測の事態が安間の意識を変えた。「最初は麻菜美さんの次というか、サポートするつなぎという気持ちでいました。でも麻菜美さんの体調が悪く、自分が1番手のポイントガードで出させてもらい、スタッフからも『ガンガン行け』と言ってもらって、チャンスだと思いました」

思わぬ形で巡ってきたチャンスを安間は生かした。素早くボールをプッシュする意識を常に持ち、日本の『走るバスケ』を演出した。強くて速い正確なパスを、利き手だけでなく左右の手で繰り出すことができる安間は「みんなが決めてくれたので」と謙遜するも、カナダ戦での16アシストを筆頭に、平均8.8アシストと突出した数字を残した。

「パスやドライブなど、麻菜美さんとは違った自分らしいプレーもできたかな」と手応えを語るように、初の国際舞台で堂々としたプレーを披露した。佐藤智信ヘッドコーチも「藤岡の存在が刺激になって、よく周りを引っ張っていた」と安間の働きを評価した。

怒涛の追い上げを先導「負けた感はあまりない」

決勝までの日本の戦いぶりは、まさしく「小よく大を制す」というもの。粘りの堅守とトランジションバスケットで、サイズのある相手を撃破してきた。しかし決勝ではオーストラリアの高さに屈する形に。「高さは正義」というバスケットボールの一面を痛感させられた。リバウンドで24-43と圧倒され、しかも18ものオフェンスリバウンド奪われた。さらに1試合を通してフリースローを獲得できず。これは高さに屈しインサイドを攻めこめなかった結果だ。

「センター陣は大きい相手に身体を張って頑張っていました。もっとボールマンへのプレッシャーだったり、ボールの逆サイドが寄るとか、周りのサポートでもっとセンターを助けてあげられたかなと思ったりもします」と自分を含め、バックコート陣のサポートが足りなかったと安間は悔やむ。

それでも「負けた感は個人的にあまりないです」という言葉が出てきたのは意外だった。最終クォーター開始時点で22点のビハインド。普通であれば勝利をあきらめてもおかしくはない点差だったが、決してそうではなかった。「20点差くらい離れた時もまだ行けると思っていました。負けたくないし、日本でライブで見てるよって応援してくれる人もいたので、あきらめるという選択肢はなかったです」

その後、安間の強気のドライブをきっかけに反撃を開始。最終的に7点差まで詰め寄った。この不屈の闘志も安間の魅力の一つだ。

『女王』撃破を狙うトヨタ自動車での活躍に期待

ユニバ代表はこれで解散。安間が代表でのプレーを続けるのであれば、この先はA代表に割って入るしかない。ユニバでチャンスを生かしたことは安間の中で自信になったはず。A代表について「近づけたかなと思います」と遠慮気味ではあるが手応えを語る。

「ドライブはできたので、そのドライブを自分の武器にして、全体的にはシュート確率を上げたいです」

この後、安間はトヨタ自動車アンテロープスに戻り、Wリーグ開幕に備えることになる。昨シーズンはアーリーエントリーで途中参戦、ファイナルへと駒を進めた好調なチームの中で貴重な経験を積んだ。しかし、今シーズンは正式なメンバーとして結果を出すことが求められる。

刺激には事欠かない。レジェンドである大神雄子が健在である上に、リオ五輪組の三好南穂が加入。A代表の主力である長岡萌映子、エブリンとステファニーの馬瓜姉妹、そしてアメリカ帰りのヒル理奈と大型補強を行い、『女王』JX-ENEOSサンフラワーズを倒す一番手に挙げられる。

安間にとってユニバで結果を残せたことは、Wリーグの新シーズンに向けて大きなプラスになる。トヨタ自動車とJX-ENEOSの覇権争いは興味深いし、ユニバでともに戦った安間と藤岡のマッチアップも注目だ。Bリーグのみならず、10月7日のWリーグ開幕も楽しみだ。