文=深川峻太郎 写真=鈴木栄一

私が現場で肩入れしたチームはたいがい負ける

ウルグアイ代表を迎えて行われた男子日本代表国際強化試合のうち、負けたほうの試合(7月29日)を青山学院記念館で見た。土曜も日曜も空いていたので、どっちに行ってもよかったんですけどね。ツイてないといえばツイてないのかもしれないが、このコラムをずっとお読みの方はご存知のとおり、私が現場で肩入れしたチームはたいがい負けるので、もう慣れた。ウルグアイ人といえばレコバとフォルランとスアレスぐらいしか知らなかった私としては、「デカいウルグアイ人」を見られただけでも得難い経験である。

それより何より、背番号36の頼もしい「番長」に会えたのが、私にはうれしいサプライズだった。私が勝手に番長呼ばわりしているのは、サンロッカーズ渋谷のサンディー君である。昨年11月、同じ青山記念学院記念館で初めて彼と出会った私は、一発で大ファンになり、売店で人形まで買ってしまった。※「彼方からのエアボール」第7回参照

聞けば、そのサンディー君が今回は日本代表特別選手に選出されたというじゃないか。これは大英断といってよかろう。あのカリスマ番長がコート周辺を歩き回り、腕組みをしてあちこちを睨みつけているだけで、勇気がわいて勝てそうな気がしてくる。まあ、その11月の試合も、私が応援したサンロッカーズが負けたわけですけども。

日本陣営でいちばん地に足がついているように見えたのは

それにしても、あらためてバスケの試合は立ち上がりが大事だと実感した試合ではあった。第1クォーターのティップオフから3分程度で、0-11。最終スコアが10点差(69-79)だったことを考えれば、「入り方」がいちばんの反省点であることは間違いない。ノースコアのまま相手に2ケタ得点されるのは、将棋でいえば、初手から無駄に長考している隙に相手が三手ぐらい続けて指したようなものだ。終盤に無類の強さを発揮するといわれる藤井クンであっても、これを逆転するのは厳しい。べつに将棋にたとえる必要はないし、そもそも続けて指すのは反則だが、ちょっと時流に乗ってみた。

序盤で強く印象に残ったのは、ふたつのパスミスである。ひとつは、富樫勇樹がインサイドに出したパスが竹内公輔の背中を直撃したシーン。あれを「取れ」というのは酷だろう。もうひとつは、速攻で前線にダッシュした富樫に向かってアイラ・ブラウンが投げたボールが、後ろ向きでテキトーに両手を挙げていたウルグアイ選手に当たってボールを奪われたシーンだ。あんなダメモトで出してる手に当ててどうする。

パスミス以外にも、日本はボールが手につかなくてアタフタする姿が目立った。私のような素人は、そういうわかりやすいトホホなプレーに厳しい。かつてラグビーの日本代表がものすごく弱かったときも、そうだった。あまりにもチャンスでノックオン(ボールを前に落とす反則)をくり返すので、つい「ちゃんとボール取らんかーい!」と罵ってしまう。「基本的すぎるダメ出し」である。

言われなくても選手はそんなことわかっているので、このダメ出しには建設的な意義がまったくない。それはわかっている。わかっちゃいるけどやめられないのが、「基本的すぎるダメ出し」だ。さっきのパスミスにしても、やっぱり「ちゃんと前を見て投げんかーい!」と野次のひとつも飛ばしたくなってしまうのだった。飛ばさなかったけど。

フリオ・ラマスHCが就任して間もない初戦だっただけに、いろいろと準備不足があったのだろうとは思う。だが、日本チームが浮き足立っているのがヒシヒシと伝わってきて、居たたまれない心持ちになった。長いリーグ戦ならともかく、アジアカップみたいな短期決戦は「徐々に修正」とかしてるヒマはないっすからね。日本陣営でいちばん地に足がついているように見えたのがサンディー君だというのでは、やはり困る。

基本的すぎる言葉には、たいがい意味がない

ところで、この試合でスコアを大きく左右したのがフリースローだ。日本のショットがあまりにも入らないので、ここでも「ちゃんと入れんかーい!」と基本的すぎるダメ出しをしたくなってしまった。決定率は日本が63.6%、ウルグアイが76%だから、そんなにベラボーな差があったわけではない。だが、打った本数は日本33、ウルグアイ12だ。つまりハズした本数は日本が圧倒的に多かった(日本12対ウルグアイ3)。だから、「これはひどい」と感じてしまったのである。

しかし考えてみると、フリースローはそれほど簡単なものではあるまい。なにしろバスケは5人でやる団体競技なのに、そこだけ完全無欠の個人競技だ。サッカーのPKやホッケーのPSなどと違って、相手ゴールキーパーさえいない。これ、バスケのフリースロー以外では、ラグビーのゴールキックがあるぐらいだろうか。みんなで一緒にやっていたのに、急にひとりで舞台に立たせられるのだから難しい。合唱の途中で突如アカペラのソロを歌うような孤独感と緊張感である。イヤだ。自分だったら絶対にやりたくない。

で、そういうデリケートな状況では、観客が「プレーヤー」として大きな役割を果たす。今回のウルグアイもそうだったように、アウェイのチームは盛大なブーイングにさらされるわけだが、問題はホームチームの選手への対応だ。

このウルグアイ戦では、日本選手が2ショットの1本目を決めた後で、スタンドからしばしば「もう1本!」という声がかかった。「基本的すぎる指示」である。基本的すぎる言葉には、たいがい意味がない。わかってるよ。言われなくても、もう1本決めたいんだよ。頼むからそっとしといてくれよ。そんな選手の心の叫びが聞こえるような気がした。ファウルを犯したウルグアイに対する罰のはずなのに、日本の選手が罰ゲームをやらされているようにさえ見えたのである。

固唾の圧力、国民的固唾の国民的圧力

Bリーグを見ていると、ホームのブースターは声を上げずに固唾を呑んで見守っていることが多い。だが、シーンとしていればいいかというと、そんなこともないだろう。それはそれで緊張するものだ。「固唾」の圧力は侮れない。国際試合ともなれば、それはもう「国民的固唾」である。これは重い。投げる選手にしてみれば、タイムアウトのときみたいに、観客が一斉にスマホでもいじり始めてワサワサしてくれたほうが気が楽なのではなかろうか。

しかし、日本の選手たちもほとんどがプロである。こうして腫れ物に触るように接するのも失礼な話だ。観客が何をしようが動じることなく、スッポンスッポンと決めてくれるのが理想である。試合後にラマスHCが「個人の問題」と語ったとおり、フリースローはチーム全体の戦術的なレベルアップとはあまり関係ないだろう。しかし驚異的な成長を果たしたラグビー日本代表も、あのワールドカップで結果を出すには、ゴールキックを難なく決める五郎丸というソリストが不可欠だった。重要な「のびしろ」である。

何より、フリースローは素人目にも大変わかりやすいので、ちゃんと決めないと愛想を尽かされてしまい、人気も高まらないだろう。「フリースローを全部決めれば勝てたのに!」みたいな、にわかファンの「素朴すぎる感想」を軽視してはいけない。実際、33本のフリースローがすべて入っていれば、日本の得点は81。ウルグアイが12本すべて決めても……あれ、82点じゃん。1点足りないじゃん。うーむ。やはり、全体的に鍛えよう。がんばれ、AKATSUKI FIVE。

にわかファン時評「彼方からのエアボール」

第1回:最初で最後のNBL観戦
第2回:バスケは背比べではなかった
第3回:小錦八十吉と渡邊雄太
第4回:盛りだくさんの『歴史的開幕戦』に立ち会う
第5回:吉田亜沙美がもたらした「大逆転勝利」
第6回:フラグなき逆転劇と宇都宮餃子
第7回:杉並区民の『地元クラブ』探し、今回は井の頭線ぶらり終点下車
第8回:ウインターカップとスラムダンク的自己啓発
第9回:Bリーグ初のALLSTARはバスケの『余興的エンタメ性』が炸裂!
第10回:W最終決戦は栗原さん以外も見どころ満点、驚きと発見の玉手箱や~
第11回:エモい娯楽を大発見! 「カップケーキ」はNBA優勝カップを抱けるか
第12回:シーズン最後の「入れ替わらん戦」にガッカリする野次馬の身勝手