文=小永吉陽子 写真=FIBA.com、小永吉陽子

初のアジアカップで見せた抜群の『試合度胸』

アジア3連覇を狙う日本にとって落とせない試合だった韓国戦。序盤、195cmのパク・ジスを警戒するあまり重かった展開が、2ガードになったとたんに動きが出てきた。

第1クォーター中盤、吉田亜沙美と町田瑠唯がスピードある展開でジワジワと流れを引き寄せていくと、第2クォーター開始からは町田と藤岡麻菜美の2ガードがさらにスピードアップを図る。韓国に悪いセレクションでシュートを打たせてはリバウンドを取り、速攻を何本も繰り出していく。特に第2クォーターの藤岡は、ジャンプシュートを皮切りに速攻やオフェンスリバウンド、アシストパスと連続10得点奪取の流れを作り出す主役となった。

そして第2クォーターの中盤になると吉田と藤岡がコンビを組み、ディフェンスから走る展開を作り出し、韓国を圧倒。終盤に差が開いてチームが緩みかけた時、スティールや速攻でゲームを引き締めたのも藤岡だった。終わってみれば21分48秒の出場で、12得点4リバウンド4アシスト2スティールを記録する活躍ぶり。

3人のポイントガードをうまく組み合わせて2ガードを送り出したトム・ホーバスヘッドコーチの手腕も冴えたが、それに応えた藤岡の試合度胸もまた際立った。

「フィリピン戦も韓国戦も、最初に交代したときは1番ではなく2番での出番だったし、2ガードの練習はあまりやっておらず、ほぼぶっつけ本番だったのでちょっと心配でした。でもうまく流れを変えることができて良かったです」と、重責に胸をなでおろした藤岡のプレーは、不慣れな2番仕様でも、本来の1番起用でも、『これぞ日本のバスケ』というアップテンポを生み出したという点では絶大なインパクトがあった。

昨年のリオ五輪では最終選考まで残ったものの、最後の最後で無念の落選。あれから1年――。藤岡麻菜美は今、日本に欠かせないベンチメンバーとして躍動している。

アンダー世代を制覇した藤岡が実感するフル代表の経験

韓国戦での活躍について藤岡は「経験って本当に大事なんだと思いました」という感想を残している。

今年、初の日本代表入りを果たした藤岡麻菜美は、U-16、U-17、U-18、U-19代表、そしてユニバーシアードまで、すべてのアンダーカテゴリーを経験して成長してきた選手だ。唯一、U-18には縁がなく高校を卒業したのだが、早生まれということで大学1年次に招集される巡り合わせにも恵まれた。また2015年にはユニバーシアードでベスト4入りしており、世界上位の舞台も踏んでいる。こうした数々の経験により、ここ一番での試合度胸が身についたことは間違いない。

しかし、藤岡がここで言う『経験』とは、アンダーカテゴリーのことよりも、昨年のリオ五輪の選考を兼ねた代表活動や、JX-ENEOSで過ごしたルーキーシーズンのことを指す。それほど、昨年1年間で得た経験は大きかった。

「去年の代表活動では自信がなくて自分らしいプレーが出せませんでした。リオのメンバーから外れたのは悔しかったけど、当然だったかもしれません。確かに私は全カテゴリーの国際大会に出ているので、他の選手よりは経験があるんですけど、アンダーとフル代表の大会では全く違うと感じました。Wリーグで戦っている選手たちと一緒に練習をして、自分にはトップレベルで戦う経験が不足していると痛感したんです。今は1年を通してJXでやれたことや、チームの9連覇に貢献したこと。さらには新人王を取れたことが自信になっています」と語る。

「アンダーカテゴリーとフル代表では何が違うのか?」の問いに、藤岡は言葉をこう続けている。

「アンダーには上手な選手がいることはいるんですけど、多くはいないんですよ。それがフル代表になると、いきなり『なんでこんなにうまいの?』という選手が増えるんです。アンダーはただ大きいだけの国もありますけど、フル代表になると、大きくてディフェンスが強くなる国が一気に増えます。それはトップリーグに入って当たりが強くなって、身体の使い方がうまくなるから、技術レベルがグーンと上がるのだと、Wリーグを経験して分かりました」

アンダーカテゴリーでの豊富な経験に加えて、これまで自身に足りなかったトップリーグでの経験を積み上げている今、藤岡の成長は加速している。その速度は今大会のキーマンに浮上するのでは、という勢いだ。

アジア連覇を経験していないが大会に懸ける気持ちは同じ

日本はアジアカップ2連覇中。2013年は43年ぶりのアジア制覇で、2015年は12年ぶりとなるオリンピック出場を決めた。1990年代は中国と韓国と日本が三つ巴になるライバル関係にあったが、以降は中国と韓国に押され続けていた。その苦しい時期を知るのは吉田、大崎佑圭、髙田真希しかいない。今の日本があるのも、激しいディフェンスからの速攻という武器をアジアの戦いで見いだしたからだ。

初代表が5人いる今年は連覇の過程を知らない選手が多い。藤岡もその一人である。

「正直、3連覇と言われてもピンとこないところがありました。自分を含めて半分以上の選手が、これまでの連覇がどうだったのか知りません。でもこの大会に向けては、3連覇を掲げている先輩たちと同じモチベーションで一緒に練習してきたので、同じ気持ちでコートに立つつもりです。この大会のために今まで練習してきたのだから、気持ちで負けないようにやることが3連覇につながると思っています」

そう語る藤岡や若手に対し、トム・ホーバスHCは特別に大きな注文は出していない。もちろんミスが出れば檄は飛ぶし、チームルールの徹底に関しては口を酸っぱくして注意される。だが若手をコートに送り出すときにホーバスHCが発するのは「ベンチメンバーはエネルギーを出してコートに立ってほしい」――という注文だけだ。

「トムさん(ホーバスHC)が言うエネルギーをコートで出すためにも、自分のプレーにもっと自信を持ちたいです。自信を得るためには、とにかくアジアカップのような大きな試合をたくさんすることが、今の私には必要なんです」と藤岡は意気込む。先輩たちが歩んだアジア制覇という『経験』にたどりつくまであと4戦。これからさらにビッグゲームが続いていくが、日本代表のキーマンとなる藤岡の成長ぶりから目が離せない。