3連覇を目指すとともに若手の底上げを目指す大会に
トム・ホーバスヘッドコーチの下でアジア3連覇を目指す『アジアカップ』がインドのバンガロールにて開幕した。この大会は2年に一度開催される『アジア選手権』が名称変更したもの。今大会からは男子同様にオセアニアのオーストラリアとニュージーランドを加えて争われることになる。
これまではアジアの上位3チームにワールドカップ(前回まで世界選手権)の切符が与えられていたが、オセアニア勢が加わった今大会からは、アジア4位までがワールドカップに出場できる仕組みとなる。
日本は2013年大会から、吉田亜沙美、大﨑佑圭、髙田真希、渡嘉敷来夢らが安定した働きを披露し、走力とディフェンス力で頭一つ抜け出た状態でアジア2連覇を達成している。今大会も優勝候補であることは間違いない。
ただ、これまでの2大会と違う点はエースの渡嘉敷来夢が不在なことだ。前回はオリンピック予選を兼ねていたことからも、WNBAを中抜けしてアジアの戦いに参戦したが、今大会はWNBAの活動に専念することとなった。また、リオ五輪で活躍したシューターの栗原三佳は指を骨折、2015年からスタメンを務める本川紗奈生も足に故障を抱えた状態で今大会は不選出。昨年、リオで躍進したスタメンからは3人が外れることとなった。
5~6月あたりまではホーバスHCも「このチームは若い。海外遠征に行くたびに、移動の後の試合で力の出し方が分からずに内容が悪い」、「若い選手にトラベリングやミスが多い」など、若手の経験不足を指摘していた。しかし、渡嘉敷やケガ人が参戦できない状況となって、指揮官は腹をくくったのである。
「渡嘉敷が不在でも、吉田や大﨑、髙田がいることで安定感はある。それよりも、東京五輪に向けては若いインサイドを育てていかなくてはならないし、競争させなければならない」との覚悟で、河村美幸、赤穂さくらといった若手のインサイドを抜擢。また栗原と本川に変わるウイングの選手として水島沙紀と馬瓜エブリンを、ポイントガード吉田の後釜として藤岡麻菜美を選出。計5名の新しい顔ぶれが日本代表として、アジアの舞台を踏むことになった。
今大会は渡嘉敷の穴を埋める大会ではない。チャレンジの大会なのである。リオ五輪が終了し、来年にワールドカップを迎え、そして2020年に向かっていくことを考えれば、今年こそが新しいことをトライするに適した年なのである。渡嘉敷不在の中でアジア3連覇を狙い、若手育成と選手層の底上げを図る大会が幕を開けた。
日本、中国、オーストラリアの『3強』という勢力図
今大会は、他国にしても日本と同様の傾向にある。若手育成とチーム再構築に充てているのがFIBAランキング4位の強豪オーストラリアだ。
昨年、リオ五輪で日本と大接戦を演じたのは記憶に新しいが、そのメンバーから今大会に参戦しているのは4名しかいない。長年オーストラリアの中心として活躍したペニー・テイラーが引退。205cmのエリザベス・キャンページ、主力のエリン・フィリップスは今大会不参加であり、まさに試行錯誤のメンバーで臨んでいる。
それでも、ローラ・ホッジス、マリアンナ・トロといった主力を擁し、37歳のベリンダ・スネルを再招集するなど、手強いメンバーは健在。2年前のU-19ワールドカップで銅メダルを獲得したときのエース、20歳のアランナ・スミスの台頭もあり、高さとしぶとさではやはり厄介なチームだ。
また中国はここ数年若返りを進めながら着実に力をつけてきた。今回は主力が健在ながらも、さらに若返らせる人選をぶつけてきた。昨年のリオ五輪出場メンバー7名に、ロンドン五輪に出場した27歳のフォワードが復活。計8名の五輪経験者を揃えたばかりか、昨年U-18アジア選手権の優勝に大きく貢献した18歳、201cmのリー・ユェルーが加わり、選手層が厚くなっている。
どこの国もチーム構築期である今大会。選手層と経験値から言っても、オーストラリアと中国、そして日本の3カ国が優勝候補と見ていいだろう。日本はBグループで1、2位になることで、準々決勝ではAグループ3、4位と戦うことができ、さらにはグループ1位になることで、準決勝の相手にはAグループ1位が予想される中国を避ける組み合わせになる。そのためには、オーストラリアとの決戦が最大のヤマ場となる。
戦力ダウンの韓国からは確実な1勝を
そして、オーストラリアとの決戦の前に立ちはだかるのが、大会2日目に対戦する韓国だ。今大会の韓国は確実に叩かなければいけない相手である。
韓国は長きにわたり中国とともにアジアの覇権を争っていたチームだが、ここ数年は世代交代が進まずに戦力ダウンが著しい。昨シーズンのWKBL最高殊勲選手であり、1、2番を兼務するポイントゲッターのパク・ヘジンと、シューターのカン・アジョンをケガで欠いている今大会もチーム作りに苦悩がうかがえる。
韓国代表のヘッドコーチの話によれば、「2人はインドに連れてきてはいるものの、ゲームに出せるような状態ではない」と言う。また、ここ数年パワフルなプレーを展開していたインサイドのヤン・ジヒも現役を引退しており、この3人が不在となると戦力ダウンが否めない。要注意人物であるフォワードのキム・ダンビやイム・ヨンヒは健在。期待の19歳、195cmのパク・ジスは順調に育ってはいる。日本の選手たちも「決して油断はしない」と口にもしている。だが、選手層の薄さから見て、韓国は確実に1勝をもぎ取りたい相手である。
今大会は同時期に開催しているU-19ワールドカップでも妹分のU-19日本代表が連日好ゲームを展開している。その裏では、U-19ワールドカップへの参加資格がありながらも、A代表が参戦するアジアカップを選んだライバルたちがいることも追記しておきたい。先に紹介した中国のリー・ユェルー、韓国のパク・ジスはA代表のスタメンに抜擢されているティーンエイジャー。また、オーストラリアにも20歳の新星、アランナ・スミスも成長している。
そういった意味では、やはり日本も若い血を入れて活性化することは必要なのだ。インドの地で3連覇を狙い、そして選手層を底上げする大会になることを大いに期待したい。