
県立小林は17年連続42回目となるウインターカップ出場を決めた。サイズのない選手たちで留学生を始め大きなタレントが揃うチームに打ち勝つ堅守速攻を突き詰めてきた県立小林は、就任5年目を迎える橘裕コーチの下で明確な答えを見いだしつつある。オールコートのディフェンスを40分間仕掛け、高い位置で勝負することでサイズの不利を打ち消す。攻めに転じればアウトサイドに逃げるのではなくスピードを生かしたリムアタックで相手を押し込み、攻守両面で相手にプレッシャーをかける。優れたビッグマンを擁する今年も県立小林のスタイルは変えず、むしろより高いレベルへと突き詰めている。ウインターカップでも一際異彩を放つであろうバスケを編み出した橘コーチに、県立小林のバスケを語ってもらった。
「やれるところまで絶対にやり抜こう」のマインド
──県立小林のバスケはすごく独特で、どういう試行錯誤の末にここに至るのかに興味があります。まずは橘コーチがバスケの指導者になるまでの話を聞かせてください。
ありがとうございます。私は中学からバスケを始めて、厳しくも温かい顧問の先生の下で「言われたことを一生懸命に頑張る」という力を身に着けました。宮崎市内の中学校出身ですが、最後は市で1回戦負けだったので、強いチームではありません。進学先が県立宮崎工業になりますが、当時は県で2番目の強豪でした。しかし、当時の私はそんなことも一切知りませんでした。
宮崎工業のバスケ部に所属していた中学の先輩に誘っていただいて、春休みの練習に参加したのですが、そこで強烈なインパクトを受けたんですね。県のトップを目指す強豪校の練習は、私が中学でやっていたバスケ部の雰囲気とは全く違いました。バスケ部は体育館の奥のコートで練習しているのですが、体育館に足を踏み入れた瞬間に、すごい声が響いてきたのに驚きました。部員数も多いし、そこから出てくる気迫も違う。そこに圧倒されたのが私の高校生活の始まりでした。
──強豪チームでバスケをやるぞ、という気合いの入った新入生ではなく、普通にバスケが好きでやっていた橘少年がその強烈さを食らうと、「僕には無理だ」と臆してしまうのではないかと思います。そうならなかったのはなぜですか?
そう質問されて思い付いたことが2つあります。一度やると決めたことを貫く強さは、中学校の指導で教えていただきました。もう一つは、めちゃくちゃ負けず嫌いなんですよ(笑)。今もコーチという立場ですが、選手が日本一を目指すと言うのであれば、やれるところまで絶対にやり抜こう、というマインドでやっていて、その根本は負けず嫌いにあります。
宮崎工業の練習に初めて行った時のインパクトは今でも鮮明に覚えています。自分たちの代は部員が66人いる大所帯で、キャプテンもやらせてもらいましたが、試合に出ている者だけでは作れない雰囲気、全員で戦うという方向性があるチームでした。それは今でも自分なりに大切にしているつもりです。

「後悔のない選択をして、それをやりきることが大事」
──教員になって母校の県立宮崎工業に戻ってきました。その頃から今のオールコート、走るバスケのスタイルはあったのですか?
オールコートへのこだわりは小林高校に来てからですね。しかし、宮崎工業の時からとにかく大きい選手がいないチームでした。延岡学園も小林も大きいチームで、そこに小さなチームでどう対抗するかという葛藤はすごくありました。しかし、勝てないことに対して「小さいから」は全然理由になっていないと思っていて、そこをどう覆すかで紆余曲折しながらの指導をしていました。
宮崎工業では延岡学園に勝っても小林に負ける、小林に勝っても延岡学園に負ける、という状態でした。結果論ではありますが、負けると「こうしておけば良かった」という思いがどうしても出てきます。そうした積み重ねの中で行き着いた考え方が「後悔しない選択は何なのか」というものです。
「自分たちが決めたことを正解にしていく努力」をする中で、いくつかの選択肢に迷う時には、守りの自分がいたりします。そうではなくて、勝敗は別にして「後悔のない選択をする」という考え方を貫き通す強さが大事だと考えるようになりました。
そうやって「小さいチームに何ができるか」を突き詰めて、自分たちの戦える手段を見いだすことになり、フルコートのバスケに行き着いています。
──高校バスケでオールコートディフェンスと言えば、福岡第一が勝負どころで出すような『切り札』であり、40分間やり続ける戦術ではありません。オーソドックスなやり方から外れるのは勇気がいると思いますが、率直に言って県立小林のバスケは攻守どちらもアグレッシブで、見ていて楽しいです。
試合を見てそうおっしゃっていただけるのは本当にありがたいですし、選手たちのモチベーションにもなります。毎年この時期になると選手たちの背負うものは重くなってきますが、今までやってきたことを背負って自分たちらしく、東京体育館で日本一になれるように頑張ります。
この冬のテーマが「決めたことをやる。しかも徹底して」です。40分間オールコートという戦術が自分たちの中では常識であれば迷うことはありません。他者よりも自分たちに矢印を向け、小林ベースをキーワードに自分たちらしさの答えを出したいと考えます。
日常的に選手たちが本当に頑張ってくれていますから、私は一番近くにいる大人としてチームを支えながら、彼女たちの突き抜けた頑張り、素晴らしいところをしっかりと表現させてあげたいと思っています。