水野幹太

「ディフェンスから良い流れを持ってこられる自信がある」

3クォーター残り514秒。5分間に渡る無得点、20点ビハインド、アウェー戦。目下6連敗中の川崎ブレイブサンダースにとっては、敗戦ムードが漂ってもおかしくない状況だった。しかし、誰一人もあきらめることはなかった。その気持ちをコート上で体現したのが水野幹太だった。

1029日の群馬クレインサンダーズ戦で83-79と逆転勝利を収めた水野は、試合を次のように振り返る。「勝ててホッとしてます。応援に駆けつけてくれた方にも、バスケットライブで観てくれた方にも、良い試合を見せれたのかなと。チームとしては課題がある試合でしたが、20点差をつけられたところから我慢して勝ち切れたことは、1歩、2歩以上の前進になったと思います」

後半、水野がコートに立ったのは前述の20点ビハインドの場面だった。川崎にとって危険水域となった展開だったが、水野は前線からの激しいプレッシャーディフェンスで群馬の攻め手を削り、ターンオーバーも誘発。群馬のハンドラー藤井祐眞や中村拓人はあからさまに水野のディフェンスを嫌がっていた。水野は自身のディフェンスを次のように評価する。

「今まで以上にプレッシャーをかけようと自分の中で決めていました。それが良い結果に繋がったと思います。オフェンスでは自分が煽られてターンオーバーもあったので、個人としては課題が残ります。ただ、そこを直せば絶対にディフェンスから良い流れを持ってこられる自信があるので、今日のプレッシャーは残りの試合も続けてやっていきたいです」

水野幹太

「使ってもらえているので僕が流れを変えないといけない」

川崎は第3クォーター残り約4分から12-0のランを作り、その最中の残り1分20秒でビハインドを1桁に縮めた。水野は最終クォーターも引き続きコートに立ち、開始早々に4つ目のファールを吹かれてベンチに戻ったが、ファールは水野にとって、激しいディフェンスの勲章である。

「(同じポジションに)竜青さん(篠山竜青)も大河(岡田大河)もいるので、ファールのことは正直気にしていなくて。ディフェンスのインテンシティは誰かが上げないといけないと思っていて、ガードでそれをやるのは自分だと」

この後、水野がコートに戻ることはなかったが、彼が作ったディフェンスの士気は、続いて出てきた選手に引き継がれ、コート上に残った。それが川崎が目指す激しいディフェンスからの速い展開を生み出し、見事な逆転勝利に繋がった。コートだけでなくベンチの雰囲気も一体となっての勝利だったと水野は振り返る。

「ここ最近の川崎にはないベンチの盛り上がりでしたし、チーム全体の士気も上がっていました。『この連敗中に暗い雰囲気を作るんじゃなくて、負けている時こそポジティブになろう』と竜青さんを中心に話していました」

この日の水野のスタッツは、4得点3リバウンド2アシスト2スティール3ターンオーバー。出場時間は102秒と今シーズン2番目に短かかったが、その貢献度は大きかった。ネノ・ギンズブルグヘッドコーチは試合後の記者会見で、目立った選手として水野の名を挙げた。

それを水野に伝えると「ネノコーチは、僕がミスしても使ってくれるので本当に感謝しています。使ってもらえているので恩返しというわけじゃないんですが、僕が流れを変えないといけないです」と自身の役割を再確認し、さらにプレーの幅を広げる心構えを見せる。「ミスを減らして、オフェンスでも『やっぱりこいつがいれば安心するな』と思ってもらえるように日々やっていきたいです」

川崎ブレイブサンダース

「竜青さんからプレーだけでなくメンタリティも学んでいけたら」

水野は質問に対してハキハキと応え、言語化する能力が高い。プレースタイルを見ても愚直で献身的なことは言うまでもない。特段、水野と親交があるわけではないが、頭がよく働き、真面目な選手であることが分かる。それゆえにうまくいかない時は苦しむと話す。

「僕自身ちょっと考えすぎちゃう部分があって……。プレー中もそうですし、プレーしていない時も『こうすればよかった……』と考えてしまいます」

しかし、この試合では篠山からの助言でメンタルを切り替えられ、良いパフォーマンスに繋がったと明かす。「竜青さんから『失敗してまた学べば良い』とアドバイスをもらって、今日はファールしてでも良いからガンガンやってやろうという気持ちになれて、楽にプレーできました」

篠山と言葉を交わしたのは前日のホテルだったという。「『考えすぎちゃう部分があるよな』みたいな感じで言われました。竜青さんも昔は考えすぎて悪くなる時があったらしく、僕が考え過ぎていることも『すぐに分かる』と。『自分の脳の中で悪い雰囲気をずっと作っているんだったら、ポジティブに次に向けたほうが絶対に良くなるし、試合になったら考えずに自分ができることをやったら乗れると思うよ』って言ってくれました。本当に尊敬できる人なので、プレーだけでなくメンタリティも学んでいけたらいいなと思います」

最後に水野はこの勝利を次戦に繋げる決意を固める。「次は、また違う試合になります。長崎ヴェルカさんはオフェンスが速く、全員が攻められるチームなので、ディフェンスが絶対にキーになります。まずは良いディフェンスをして、しっかりリバウンドを取って、そこから走って勝ちに繋げられたら。1個ずつ自分たちができることをやっていきたいです」