辻直人

1点リードの残り35秒、値千金の3ポイントシュート成功

10月25日、群馬クレインサンダーズはアウェーでの琉球ゴールデンキングス戦を89-83で競り勝った。

試合の立ち上がり、群馬は琉球のジャック・クーリー、アレックス・カークを軸としたインサイドアタックに苦戦。しかし、第2クォーターに入ると、カイル・ミリングヘッドコーチは、「大智を使うビッグラインナップは初めてですが、うまく行きました。今後もやっていきたいと思います」と手応えを得た201cmの谷口大智、帰化枠の208cmエージェー・エドゥ、208cmのケリー・ブラックシアー・ジュニアを同時起用。196cmのトレイ・ジョーンズを2番で使う布陣が機能し、琉球の強みを抑えることに成功した。

そして、第3クォーター途中まで僅差の展開が続くが、ここで差を分けたのがセカンドユニットの遂行力だった。第3クォーター終盤から第4クォーター序盤にかけて琉球が不用意なミスから崩れたのに対し、群馬は藤井祐眞、辻直人、ヨハネス・ティーマンのベテラン勢による安定したプレーで崩れない。

琉球の自滅もあって流れをつかんだ群馬は、第4クォーター残り7分半でリードを13点にまで広げる。しかし、ここからホームの大歓声を受けた琉球の猛攻を受け、残り4分に2点差まで一気に肉薄されてしまう。それでも要所を抑えてリードを維持した群馬は、1点リードで迎えた残り35秒に辻が値千金の3ポイントシュートを沈めて激闘に終止符を打った。

群馬は先週末、アウェーの千葉ジェッツ戦のゲーム1に残り0.3秒の逆転負けをくらうなど痛恨の連敗を喫した。この悪い流れを断ち切る勝利にミリングヘッドコーチは「千葉とのゲーム1は、第4クォーター残り6分半で7点をリードしていました。終盤に3つのターンオーバーをしたり、良い形でシュートを打てずに負けてしまった、その学びを生かせたと思います。この試合も同じくリードした中、終盤は琉球に追い上げられましたが、勝ち切れました。千葉、琉球と強いチーム相手の試合から得た学びでチームを成長させていきたいです」と語る。

本日のヒーローとなった辻直人も「タフな試合でしたが、今シーズンに入ってから茨城(ロボッツ)戦、千葉ジェッツ戦とゲームの終わり方が良くなくて競り負ける試合がありました。その経験を生かせたと思います」と、過去の苦い経験を教訓にできた勝利と振り返る。

辻直人

「周りの選手に負けていると思うところはあまりない」

この試合、6得点の辻が決めたのは3ポイントシュート2本のみ。しかし、その中身は第3クォーター終了間際にリードを9点に広げ流れを群馬に大きく引き寄せた1本と、最後の勝負を決めた1本。「今日、久しぶりにおいしいところを持っていけました」と、お祭り男の本領発揮となる勝負強さだった。

36歳と大ベテランになった辻は、リーグ随一の選手層を誇る群馬のバックコート陣にあって数年前と比べて出場機会も減っている。しかし、本人に衰えが出てきた感覚はなく、それが正しいことを証明する一戦となった。「年々、プレータイムが減っている中、こういった仕事をすることで自分の価値をアピールできます。まだまだ、僕自身は何か力が落ちてきた、周りの選手に負けていると思うところはあまりないので自信を持ってプレーできています」

このように語る辻にとって今、頼もしい相棒となっているのがこの試合でビッグラインナップのキーマンとして9分半出場、得失点でプラス11と大きな働きを見せた谷口だ。洛南高校の1学年下の後輩で、18年ぶりのチームメートだが、「大智については久しぶりと思えないくらい良い関係性を築けています。結構年の離れた選手が多かった中、気心知れた彼が来てくれることで、僕のメンターみたいな感じになっています。今日、彼のシュートも入ってくれてうれしかったです」と大きな信頼を寄せている。

今回、群馬はビッグラインナップで試合の流れを変えたかと思えば、終盤には中村拓人、藤井、辻のスリーガードにジョーンズを4番起用するスモールラインナップで、スピードのミスマッチを作り出して勝ち切った。豊富なタレントを生かした多彩な起用法について、ミリングヘッドコーチは「いろいろなオプションがあるのは良いことですが、それぞれを成熟させるには時間がかかります」と語るが、大きな武器になる手応えも得ている。

「大智を使うビッグラインナップは初めてですし、スリーガードにトレイを4番で使う布陣も中々やる機会がないです。シーズンを進めていくことに良くなっていき、アタックの方法を学んでいけたらと思います。豊富なオプションを生かして相手の強みを止めたり、弱みを突けるようにしていきたい」

これで群馬は4勝4敗。この数字だけを見れば可もなく不可もなくといった感じかもしれない。だが、辻が「もちろん勝ちにはこだわりますが、カイルヘッドコーチも言っているようにチャンピオンシップに向けてどう成長していくかが大事です。この数試合、貴重な経験ができています」と語るように今、いろいろなことにチャレンジし着実にチーム力の底上げを図れている。