「今は自信を持ってボールを運べています」

千葉ジェッツは先週末の群馬クレインサンダーズ戦で残り0.3秒での逆転劇を含む同一カード連勝を成し遂げ、開幕7連勝となった。昨シーズンも千葉Jは開幕14勝2敗とスタートダッシュに成功しているが、この時と状況は違っている。昨シーズンは渡邊雄太が開幕2試合目で負傷離脱したが、今シーズンはここまで主力に故障者はいない。渡邊は7試合すべてに出場し、現在チームトップの15.6得点、3ポイントシュート成功率は39.6%と本来のプレーを見せてきている。

千葉Jの中心を担う原修太は好調の要因として各選手のコンディションが整っていることに加え、リバウンド面での改善を挙げた。「シーズン前からリバウンドを取り切ることで、相手のポゼッション数を減らすように改善できれば、より良いディフェンスができるとコーチ陣に言われていました。それをみんなが意識してやれていることが、接戦で我慢できる、リードを許したところから逆転できている強さになっていると思います」

一方、オフェンス面では昨シーズンに比べると、ボールが停滞する場面が少なくテンポ良くシュートを打てている印象が強い。それについて、原はこう語る。「去年に比べると、速いペースに持っていくことを目指していた中、プレシーズンでは非公開試合を含めてオフェンスがなかなか上手くいかずにいました。そこで富樫(勇樹)、渡邊、(ジョン)ムーニーに自分とリーダーの役割を担っている選手たちがコーチ陣に話しにいって『こういうオフェンスをどんどんやっていったら良いのではないか』と提案したり、いろいろと細かいところまで詰めていきました。そして(9月末の)プレシーズンの神戸ストークス戦では良い形が作れたと感じました。それが今、得点を取れている要因の一つだと思います」

改善されたオフェンスで注目したい点は、原のポイントガード起用の継続だ。昨シーズン終盤に千葉Jはリーグ屈指の鉄人である富樫の負傷離脱もあって急遽、原を司令塔として起用した。これはあくまで急場しのぎの対応策かと思われたが、今シーズンに入っても継続している。群馬とのゲーム1では、接戦の第4クォーターにおいて富樫と一緒にコートに立ちながら原がボールプッシュを行い、ゲームコントロールを行う場面が見られた。

「昨シーズン、ケガ人がいたこともあってポイントカードに挑戦しました。レギュラーシーズンの最後は上手くいっていましたがチャンピオンシップになると、そうはいかなかったです。それもあってオフシーズンは、ハンドリングやオフェンスのエントリーのところを重点的にワークアウトをしました。今は自信を持ってボールを運べています」

グリーソンヘッドコーチ「彼はストロングでスマートな選手」

これまでずっとウイングを本職としてプレーしていた原は、司令塔としてのプレーをほとんど考えてこなかった。「去年のチームメートのケガがなければポイントガードをここまで意識することはなかったです。ここ数年、自分がハンドラーとしてピックを使ってズレを作り、良いチームオフェンスにもっていくことはやっていました。ただ、ボールを運んでプレーコールを行い、チームメートを動かしてオフェンスを作っていくことはやってこなかったです」

昨シーズン、原は自身2度目のベストディフェンダー賞を受賞したように、リーグ随一の守備能力を誇るウイングとしての地位を確立している。リーグ屈指のタレント集団である千葉Jにおいても、大舞台のここ一番でコートに立っているのが当たり前の中心選手だ。それでも新たな挑戦に積極的な姿勢についてこう語る。

「自分のポジションであるウイングには渡邊、田代(直希)、金近(廉)など良い選手がたくさんいます。その中でもっともっとプレータイムが欲しい。ゲームメークをできるようになることで瀬川(琉久)、富樫のポイントガード陣から『プレータイムを5分取ろう』という小さな個人的な目標をオフシーズンに立てました。今は1試合で3〜4分ですけどヘッドコーチに信頼してもらっており、ポイントガードをシーズン序盤から経験できています。チャンピオンシップでは富樫が一緒にでている時でも、自分がオフェンスをオーガナイズできたらと思います」

実際、原のここまでのプレータイムは1試合平均18.40分と決して多くはない。チームファーストが大前提としてある中で、原のような実績十分な選手が出番を求め、プレーの幅を広げることに貪欲なことは健全なチーム内競争の高まりとして、ポジティブな影響をもたらす。

また、ポイントガードという新たな武器の習得に熱心なのは、プレータイムを欲すること以外にも大きな理由がある。元々、原は自分より大きな外国籍選手にも当たり負けしない強靭なフィジカルが大きなアピールポイントだった。しかし、今はフィジカルに優れた日本人選手も増えている。その中で「考えていることはいっぱいありますし、10年前からこのリーグで自分にしか出せない色を常に探しています。今、みんな結構、身体つきもよくなってきて吉井(裕鷹)選手、佐土原(遼)選手のようにフィジカルに強い選手が増えてきている中で、自分はより尖っていきたいです」と、自分にしかない唯一無二の武器を持つことへの強いこだわりを明かす。

千葉Jのトレヴァー・グリーソンヘッドコーチは、ここまでの原について「昨シーズンは、ケガ人が多かったことで終盤になって瀬川とともにポイントガードを任せていました。そこから彼は大きく成長してくれています。もちろんディフェンスは彼の大きな武器ですし、開幕からここまでチームで最も安定感のある選手です」と評価する。

そして指揮官は、「彼はストロングでスマートな選手。試合の流れをしっかり読んでプレーできています」と司令塔としても大きな期待を寄せている。

あくまで千葉Jのポイントガード陣は富樫、瀬川がメインとなってくる。だが、状況に応じて原もプレーコールを行うことができることで、よりオフェンスの柔軟性は増し、相手にとって守りにくくなっている。原はこう意気込みを語る。「上手く行っている時は、タレントが揃っているのでぶっちゃけ何をしてもいい。スター選手たちが自由にやってこそ良いリズムに乗れることもあります。ただ、毎年チャンピオンシップに出ているようなチームを相手にした時、自由にやっているだけでは絶対に勝てないです。オフェンスが停滞した時、自分が上手くからんでゲームコントロールをしていれば良いと思います」

強さと賢さを備え、外国籍ビッグマンを1対1で止めつつゲームメークもできる日本人選手は、今のBリーグにはいない。これこそ原の求める『自分にしか出せない色』で、その色がより鮮明になっていくことで千葉Jはより盤石なチームとなっていく。