伊藤達哉

琉球ゴールデンキングスで大黒柱の岸本隆一をケガで欠く中、チャンピオンシップでは高いインテンシティとハードなディフェンスでチームを支えた伊藤達哉。昨シーズンの悔しさを胸に琉球でリベンジを誓うかと思われたが、幼少期を過ごした広島を拠点とする広島ドラゴンフライズからの熱い誘いを受けて移籍を決断。その伊藤に今の心境を語ってもらった。

導かれるように辿り着いた所縁の地

──広島で幼少期を過ごしていたそうですが、思い出はありますか?

千葉で生まれて、1歳から広島に移り住みました。両親がバスケをずっとやっていたので、よく近隣の体育館に行っていました。バスケの後は両親の知り合いと、お好み焼きを食べによく行っていました。その記憶しかないくらいお好み焼きを食べていたので昔は好きじゃなかったです。でも高校、大学、それこそプロに入ってからは無意識にお好み焼きを求めるようになっていました。関西風のお好み焼きでは満足できず、そばが入っていないと嫌なくらい、今はお好み焼きへの愛情が深まっています。

──両親がバスケット選手だったことがきっかけで体育館に通っていたとのことですが、ご自身がプロバスケットボール選手になったことへの影響は大きいですか?

影響は大きいと思います。父親が通っていた洛南に進学しましたし、東海大への入学も両親の知り合いや、関係者とお話しができたことが決め手になっています。両親や周りの方のサポートがあったからこそプロ選手への道が拓けたと思います。

──幼少期を過ごした懐かしい場所に移籍をしましたが、琉球ゴールデンキングスからの移籍は葛藤があったと思います。

昨シーズン、ファイナル第3戦までいって、本当に悔しい負け方をして終わり、もう1度あのチームでリベンジしたいという気持ちが強く、キングスと次のシーズンに向けて話し合いを重ねていた途中で広島からオファーをいただきました。広島の話しを聞くとスタッツでは表に出ない部分も評価してくれて、朝山(正悟ヘッドコーチ)さんも含めて自分の良さを理解してくれていました。キングスに残ってまたあと1年やるのか、広島に移籍するのか、Bプレミアを視野に入れて考えた時に、僕自身がステップアップできる環境は「広島だ」と感じて、移籍を決断しました。Bプレミアという先を見据えただけの移籍ではなく、琉球で過ごした昨シーズンは準優勝という結果だったので、チャンピオンシップのリングは個人としても欲しています。広島はそれが達成できるメンバーが揃っていますし、これからめちゃめちゃ伸びしろのあるチームなので優勝を目指すことに変わりはありません。

──優勝を目指す上で、伊藤選手が求められていることは?

まず第一にゲームを支配してほしいと言われました。昨シーズンの広島はシュート成功率自体は悪くなかったのですが、日本人選手のアシスト数が減少していました。僕が入ってアシスト数が増えれば、もっとバリエーションが広がる。起用方法はわからないですが、もともと持ってる良さを出してほしいと岡崎(修司ゼネラルマネージャー)さんから言われました。フルコートで前線から当たって、流れを変えるディフェンスにも期待されています。

──広島にはステップアップできる環境や優勝を狙えるメンバーが揃っているとのことですが、これまで対戦相手として広島に持つイメージは?

波のあるチームだと感じました。強い時は本当に強く感じるし、対戦していて気合が入ってないと感じる時は、「あれ?どうした?」と思うこともありました。ポテンシャルはあるので良い文化さえ構築できれば、間違いなく勝ち続けることができるチームになると思います。そのためにもこれまでに所属してきたチームで得たものを広島で伝えていきたいです。

──これまでに所属してきたチームで得られたものとは?

周りに気を遣うことやコミュニケーションを自ら積極的に取れるようになりました。昔は尖ってたというわけではありませんが、周りに気を配ることがあまりできなかったので、年を重ねて様々なチームを渡り歩いた結果、1つの能力としてついてきましたね。振り返ってもオラオラしている感じは間違いなくあったと思うので、そこが丸くなったのかな。

──気を配れるようになったきっかけはありますか?

京都(ハンナリーズ)に在籍していた頃のチームメートであるソルジャー(片岡大晴)さんや内海慎吾さんなどベテランの方々の影響があります。主力だった僕がのびのびとプレーできる環境を作ってくれていたのだと今になってあらためて痛感しました。それと同じような環境を整えてあげることが、ベテラン選手の大事な要素だとその時に学ばせてもらいました。

伊藤達哉

バスケを純粋に楽しむことは変わらない

──良い文化を作りたいというお話ですが、どのような文化を作り、成熟させていきたいのでしょうか?

まだ合流して3日しか経っていないので、何が原因で波のあるチームになっているのか探っている状態です。キングスでも最初はチームにフィットするために観察と研究をして、試合を重ねるごとに見えてくるものがありました。広島は昨シーズン、オフコートではコミュニケーションを取るようなチームではなかったと聞いています。今は、一緒に加入した晴山ケビンとともに良い雰囲気を作れているんじゃないかなと思っています。昨シーズンのキングスや名古屋(ダイヤモンドドルフィンズ)で地区優勝をした時も同じで、ベテランと若手が融合することが強さの秘訣でもあります。

──広島に加入をして、今はプレッシャーとワクワクする気持ちではどちらが強いでしょうか?

期待されているのは強く感じますが、バスケを純粋に楽しむことを目標にしているのはいつになっても変わりません。どちらかというとキングスに行った時の方がプレッシャーはありましたね。やはり3年連続でファイナルに行ってるチームに行くとなると、口では「バスケを楽しみたい」と言えるけど、やっぱり身体は無意識にプレッシャーを感じていました。でも実際にプレーをしたら楽しみながらできたので、今回はその経験があるからこそ、そこまでプレッシャーに感じてはいないです。

──現在もケガの治療中ということですが、キャリアを通して頻度の多いケガについてどのように向き合っていますか?

ケガは悩みの種ではありストレスになっている部分ではありますが、ケガを恐れてプレーをセーブしてしまったら自分の良さは消えてしまうことはわかっているので、食事やケアの面というのは20代の時に比べてより気を遣うようになりました。ただ、意識しすぎて逆にストレスにならないように心がけています。ケガの多さは自分でも理解しているので、ケガをした時にへこむということはなくなりました。昨シーズンだと(岸本)隆一さんの方が、久しぶりにケガをしたというのもあって。本人としてはだいぶきつかったと思います。でもそのような姿も見たからこそ最後、彼の分も背負って頑張れたと思っています。ケガに対してはネガティブな印象しかないですが、『ケガに苦しんでいる選手のためにも皆で力を合わせて戦う』という姿勢が生まれるというポジティブな側面もあり、そういったところからチームはできてくるのかなと思いました。

──最後に、昨シーズンまで所属したキングスのファンの皆様にお礼のメッセージと、広島ドラゴンフライズのブースターの方々に今シーズンの意気込みをお願いします。

恥ずかしいな(笑)。キングスファンのチームへの愛は本当にすごく感じました。ホームコートアドバンテージを作るファンの熱量は沖縄が一番すごいと思っています。昨シーズンはプレシーズンなどすべて含めて86試合を戦いましたが、本当にファンの力なしでは最後まで戦い抜くことは絶対できなかったと心の底から感じました。1年と短いシーズンでしたが成長した姿を見せられるようにがんばります。広島のブースターの皆さんには、僕が1歳から7歳まで広島に住んでいたこともあって、今回の移籍にも何かの縁があって広島に来たと思っています。幼少期を過ごした土地は伊藤達哉という僕の土台が作られた場所であると言っても過言ではないので、この土地に住む皆さんに恩返しする気持ちを持って戦います。シーズンは長いですが、一緒に戦い抜きましょう!