「私が目指したのは機会の平等だ」
今シーズンのNBAファイナルはスモールマーケット同士の対戦となった。ペイサーズのインディアナポリスは人口89万人で全米15位、サンダーのオクラホマシティは人口68万人で全米22位。NBAファイナルを放送する『ABC』が「ニックスが勝っていれば」と歯噛みしているのは間違いない。ニューヨークはアメリカ最大の都市だからだ。
近年、NBAの視聴率は苦戦が続いており、昨シーズンはセルティックスvsマーベリックスという人気チーム同士の対戦だったにもかかわらず、視聴者数は1130万人で、コロナ禍の時期を除いて2007年以降最低の数字を記録した。今シーズンのプレーオフでは視聴者数が復調傾向にあったが、『The Athletic』によればファイナル第1戦の速報値は890万人だ。
ファイナル第1戦を前に、NBAコミッショナーのアダム・シルバーが恒例の記者会見を行い、視聴率について「必要以上に取り上げられている」と苦言を呈した。
彼としては、そこで行われているエンタテインメントの質が低下しているのであれば批判も受け入れるが、そうでもないのに視聴率だけがネガティブに取り上げられるのは不愉快だろう。
NBAでは2018年のウォリアーズを最後に連覇するチームが出現していない。今回どちらが勝とうとも、これで7年連続で異なるチームが優勝することになる。シルバーはNBAコミッショナーに就任して以降、全30チームが優勝を狙える環境作りがリーグに最大限の反映をもたらすとして、改革を進めてきた。
「前任のデイビッド・スターンは、『私の仕事は優勝トロフィー贈呈のためにボストンとロサンゼルスを往復することだ』と冗談を言っていたが、その状況を変えたかった」とシルバーは会見で語った。
「7年間で7つの異なるチームが優勝することが目標だったわけではない。私が目指したのは機会の均衡だ。ペイサーズやサンダーがこれから連覇しても嫌だとは思わない。両チームとも素晴らしいレベルで運営されているプロバスケ球団であり、どのチームも同じチャンスで競争をすれば、そういうチームが勝つことになる」
リーグは来シーズンから始まる11年間の放映権契約を『ESPN』と『NBC』、『Amazon』と総額750億ドルで結んだ。これまでの9年間の放映権は年間26億ドルだから、2.6倍にハネ上がったことになる。今回のNBAファイナルの視聴率は振るわないかもしれないが、シルバーの作った今の仕組みであれば、ファイナルに進出するチームがビッグマーケットかスモールマーケットかの差は11年の間に均衡化され、問題ではなくなる。
逆に言えばレイカーズ、セルティックス、ウォリアーズ、ニックスといったメガクラブがタイトルを寡占し、スモールマーケットのチームが蚊帳の外に置かれるような勢力図であれば、リーグは年月とともに少しずつ衰退していく。
東西のカンファレンスを勝ち抜いたチームは、ホームタウンの人口や市場規模とは関係なく素晴らしいスポーツ的な価値を持つ。その両チームが優勝を争うNBAファイナルには視聴率では測れない価値がある。NBAファイナルの間、各試合の速報値が出るたびにメディアは低視聴率を報じることで危機を煽るだろうが、ペイサーズとサンダーはコート外での喧騒とは関係なく好勝負を演じるだろう。我々は、コート上で起きていることに目を向けるべきだろう。