トゥオマス・イーザロ

成長が頭打ちになったチームに指揮官交代で刺激を

現地5月3日、グリズリーズはトゥオマス・イーザロを正式なヘッドコーチとして採用することを発表した。プレーオフに進出するもサンダー相手にファーストラウンドで敗退したグリズリーズにとって、今オフ最初の動きとなった。

グリズリーズは2021-22シーズンに56勝、2022-23シーズンに51勝を挙げて2年連続で西カンファレンス2位となった。プレーオフではその前のシーズンも含めて3年連続でファーストラウンド敗退となったが、ジャ・モラントとデズモンド・ベイン、ジャレン・ジャクソンJr.の若いコアが中心のチームには大きな未来が待っているように見えた。

しかし、楽観的な予想通りにはいかなかった。その象徴であるジャ・モラントは、素行の悪さで注目を集めるようになった。ケガは不可抗力だとしても不用意な出場停止を何度も受け、昨シーズンを台無しにしたにもかかわらず、今シーズンも銃のパフォーマンスを見せており、この問題は解消できそうにない。ベインも良い選手だが『モラントのNo.2』という立場から抜け出せず、モラントの評価と連動して彼の評価も上がらない。

そしてチームもプレーオフで、つまり強豪との真剣勝負に勝てない課題を克服できずにいた。3シーズン連続でファーストラウンド敗退となった後、昨シーズンはケガとモラントの個人的なトラブルでプレーオフに進出できず。仕切り直しとなった今シーズンも改善は見られず、逆に2月以降は6位以内のチームとの19試合で全敗を喫した。

レギュラーシーズン9試合を残したタイミングで、グリズリーズはテイラー・ジェンキンスを解任し、イーザロに指揮を託した。これは世間に衝撃を与えたが、今では想定通りの動きだったと認識されている。昨年オフの時点でジェンキンスを支えるスタッフの多くを解雇し、イーザロを始め新たなスタッフを加えていた。今シーズンはジェンキンスにとってラストチャンスで、3月末の時点で見切られた。この時点でグリズリーズにとっての今シーズンは今後の布石であり、来るべきイーザロ体制を少し早くスタートさせ、選手たちとの相性を確認するとともに、NBAに来たばかりのイーザロにヘッドコーチとしてプレーオフを戦う経験を積ませるためのものとなった。

「選手に責任を持たせると同時に自信も与えてくれる」

結果としてイーザロの下で戦ったレギュラーシーズンは4勝5敗、プレーインではウォリアーズに敗れてマーベリックスに勝利し、プレーオフでは4連敗。この勝敗をどう判断するかは別として、シーズン終了時点でモラントはイーザロの手腕をこんな言葉で絶賛している。「彼と話していると、僕がコート上で見るのと同じことを感じているのだと分かる。選手全員に責任を持たせると同時に自信も与えてくれるコーチだ」

指揮官交代に伴い、ロスターの改造もあり得るが、モラントやベインのトレードは現実的ではない。他のチームはモラントの才能よりケガや素行の悪さに目が行くだろう。モラントもベインも、他のチームよりグリズリーズの方がずっとその才能を信じている。ジャクソンJr.は契約更新の時期にあり、オールNBA選出の可能性もあって、彼を欲しがるチームは多いだろうが、今のチームが抱えるディフェンスの問題を考えると、ジャクソンJr.をトレードするのはプラスよりマイナスが大きくなりそうだ。

グリズリーズはNBAには珍しく『我慢強さ』を持ち合わせているチームで、継続性が成功をもたらすと信じてチーム作りを行ってきた。波風の立たないオフを何年も過ごしてきた後で指揮官交代という大波に見舞われたが、イーザロがもたらすヨーロッパ流の新しいバスケがチームを停滞から引き出し、モラント、ベイン、ジャクソンJr.を真の『ビッグ3』へと引き上げる方に賭ける可能性が高い。

グリズリーズのフロントは否定しているが、この1年はイーザロにとって実質的なオーディションとなった。ジェンキンスは非凡な手腕を発揮していたが、成長が頭打ちになったチームは新たな刺激として指揮官交代を必要としており、イーザロは1年間のテストを経て後任を任された。

ジェンキンスの作り上げたチームを引き継ぎ、継続性を持ちながら新たな成長を引き出すための1年を経て、グリズリーズは次のフェイズへと移る。