ジャ・モラント

『弱いチームには勝てるが、強いチームには勝てない』

グリズリーズのテイラー・ジェンキンス解任の余波はまだ続いている。フロントがどんな理由でその判断を下したのか、チームはこの先どうなるのか、いまだ見えないことばかり。その間にチームはレイカーズとセルティックス、ウォリアーズに敗れて、これで直近の8試合で7敗と絶不調に陥っている。

昨年オフ、グリズリーズには5月にノア・ラローシュ、7月にトゥオマス・イーザロという2人のアシスタントコーチが新たに加わっている。これはザック・クレイマンGMの主導によるもの。ジェンキンスは戦友であるスタッフ5人に自ら解雇を告げ、それまで面識のなかった2人をアシスタントコーチとして受け入れた。ジェンキンスはトレーニングキャンプ初日に「オフボールでの動きが全く違うものになった。全員がそれを学ばなければならない」と語っている。

イーザロはトランジション、ラローシュはピック&ロールやドリブルハンドオフを使わずカッティングとパスを合わせるモーションオフェンスを取り入れた。これまでとは異なる型破りなオフェンスは、シーズン前半戦には大いに機能した。しかし、NBAでは最初は目新しさで相手を圧倒できても、すぐに対応される。

それが顕著に表れたのが『弱いチームには勝てるが、強いチームには勝てない』という点だ。上位争いを演じるチーム、すなわち相手を研究して、それに合わせたバスケをしてくるチームに、グリズリーズは全く勝てなかった。

そうなると、今までの強みを捨てて戦うことへのストレスが出てくる。問題はエースのジャ・モラントにあった。イーザロの超高速オフェンスはモラントに合っていたが、ラローシュのピック&ロールを使わないオフェンスでオンボールのプレーが減ると、モラントの持ち味は全く生きなくなった。

今シーズンのモラントの22.4得点は過去4シーズンで最低の数字であり、ボールタッチ数、ボールタッチあたりのドリブルの回数、フィールドゴール成功率でキャリアワースト。自分を犠牲にしもチームが勝てなければ、フラストレーションが溜まるのは当然だ。チーム戦術と合わないエースを放出するのではないかとの噂が噴出し、クレイマンGMはわざわざそれを否定している

新たな戦術が機能せず、ピック&ロール回帰が引き金に

ここからジェンキンスが動き始める。プレーオフを見据えてベストのスタイルを設定し、それに合わせて調整を重ねていく作業は、シーズン終盤のヘッドコーチとして当然やるべきことだ。彼は今シーズンの『実験』を撤回し、ピック&ロールを復活させた。するとモラントも調子も上向いた。

しかし、これはクレイマンGMにとっては受け入れがたい『退行』だ。このスタイルでは勝てないと判断しているから次へと進んだのに、ジェンキンスは過去に戻ろうとした。かくして決断は下された。ジェンキンスとともにラローシュが解雇されたのは、モーションオフェンスが今のチームに合わないと見たからで、消去法としてイーザロが残った。

クレイマンGMは詳細を語らなかったが、様々な情報から解任の理由を考察すれば、この結論に至る。最大の失敗は、コンセプトの異なるラローシュとイーザロを同時に採用したことだろう。もともとジェンキンスがやっていたスタイルも含めて、選手が混乱するのも無理はない。

新しいバスケを導入するのであれば、それが形になるまでの苦戦を受け入れる覚悟も必要だ。しかし新生グリズリーズは『不幸にも』前半戦で結果を出してしまったことで、その後の苦しい時期を耐えられなかった。そして、クレイマンGMとジェンキンスの関係は、昨シーズンまでのスタッフを解雇した時点で実質的には破綻していたのだろう。

暫定ヘッドコーチとなったイーザロは、ジェンキンス解任のショックを引きずる選手たちを統率し、プレーオフを戦わなければいけない。彼はチームの戦い方について「大きく変化させるつもりはない」と語ったが、それなら今シーズン終了までジェンキンスがチームを率いれば良かったのではないか──。