「自分たちの学年は一度も日本一になったことがない」
残り7.7秒からの最後の攻め、京都精華学園が大黒柱のユサフ・ボランレ・アイシャットで勝負してくるのは分かりきっていたが、止められなかった。浮かせたパスを手中に収めたユサフは、一つドリブルを突いてゴールへ行かせまいとする白石弥桜をかわし、下からボールをかき出そうとする阿部心愛の手より早くターンして、最後は正面に立ちふさがった深津唯生の上からシュートを決めた。1点リードは1点ビハインドに変わり、混乱した頭と感情を整理するためのタイムアウトは残っていなかった。
必勝の気迫で臨んだ3回戦は、息詰まる熱戦の末の逆転負け。試合終了のブザーが鳴った瞬間の茫然自失の表情は涙で崩れた。キャプテンの深津はユニフォームで顔をおおって号泣していたが、ベンチまで戻ると口を横一文字に引き締め、仲間に向かって「挨拶!」と号令をかけた。桜花学園の選手たちが一列に並び、応援席へと頭を下げる。顔を上げた深津は再び号泣していた。
「まずはすごく悔しい、勝ち切れるゲームだったので、そこは自分の責任を感じます」と深津は言う。ここ何年か桜花学園は勝てない時期が続き、そこには常に京都精華学園が立ちはだかった。深津は1年生からスタメンに抜擢され、横山智那美の代、田中こころの代と主力を担ってきただけに、勝てなかった責任を人一倍感じているのだろう。だからこそ、この結末は非情だった。
「自分たちの学年は一度も日本一になったことがなくて、不安のままここにチャレンジャーとして来たんですけど、自分たちの代も勝ちきれなくて、本当に勝ちたかったという思いです」と深津は言葉を絞り出す。
「自分が耐えながらどれだけみんなを引っ張れるか」
深津は14得点14リバウンドを記録したが、試合を通してファウルが先行して思い切ったプレーができない中で、チームは序盤の優位を崩されて相手のペースに持ち込まれた。そこで集中を切らさず我慢し続けて、点差を広げられずに食らい付いたことが、終盤に一度は逆転して勝利の一歩手前まで行く要因となった。
「最後はキャプテンが強いほうが勝つので、自分が崩れずにどれだけ耐えられるか。耐えながらどれだけみんなを引っ張っていけるかだと思いました。プレーよりも声掛けが常にできることだと意識してやったんですけど、最終的にはキャプテンの弱さが出ました」
勝敗がどちらに転んでもおかしくない終盤の攻防を振り返ると、深津には『自分がもっとやれていれば』の思いしか出てこない。「自分がもっとシュート力を上げて、ファウルをしない、相手に対してもそうですが審判へのアジャストがもっと早くできたなら。終盤の粘り、ルーズボールの粘りをもっとつけたら勝てると思います」
不条理で悔しい負けを経験したが、それをプラスに変えて秋から冬へと良い形に繋げられるかどうかは、これからの彼女たち次第だ。