タイアス・ジョーンズ

飛躍の1年を送る「まだ氷山の一角しか見せていない」

今オフのフリーエージェント市場で『目玉』と呼ばれるほどのビッグネームではないにせよ、多くのチームの関心を集めるであろう存在が、ウィザーズのタイアス・ジョーンズだ。彼はまもなく28歳になるポイントガードで、ティンバーウルブズとグリズリーズでそれぞれ4シーズンを過ごし、NBAキャリア9年目の今シーズンはウィザーズでプレーした。

彼の持ち味は堅実で安定感あるプレーメークで、今シーズンは66試合に出場して7.3アシストに対してターンオーバーは1.0。安定したプレーメークの指標となる『AST/TO』は7.3で、これで5シーズン連続でリーグトップとなった。

「ポイントガードはリスクを計算した上で、そのリスクを冒すのが仕事だと思っている。そのためには時間、得点、自分のチームメートの能力と調子、相手のメンバーの能力と調子とディフェンス戦術など、たくさんのことを頭に入れておかなきゃならない。僕はそこに集中して、注意深くプレーすることに誇りを持っている。あと1本か2本のシュートで勝敗が左右されるような展開であれば、ターンオーバーの少ないチームが勝つものだからね」

そのプレースタイルはどのチームに行っても重宝されるだろう。今シーズンは再建へと舵を切ったウィザーズで勝てない1年を過ごしたが、このオフには優勝を狙えるチームと契約を結ぶチャンスもある。だが、意外にも彼の本命はウィザーズ残留だ。「僕がここに来た最初の日に、ウィザーズのフロントは僕に長くここでプレーしてほしいと話してくれた」と彼は語る。

NBAではポイントガードがプレーメークよりも得点に比重を置き、エースの役割を務めることも多い。ジョーンズの安定感は重宝されるが、あくまでそれは2番手の役割と見なすチームも多い。実際、グリズリーズではジャ・モラントが絶対的な1番手で、ジョーンズはその控え。過去8シーズン、ジョーンズは常にベンチから出るポイントガードだった。

「ここ何年か、僕は自分を先発で出るべき選手だと思ってきたけど、その役割に恵まれなかった。シーズンを通してスタートで出るのは僕にとって初めての経験で、そのチャンスを与えてくれたウィザーズには感謝している。そして僕はチャンスを生かし、キャリアベストのシーズンを送ることができた。でもスタートに固定されたのはまだ1年だけだし、もっと活躍できると思っている。まだ氷山の一角しか見せていない、そんな気持ちなんだ」

66試合すべてが先発出場。重要な役割を任されることが大きなモチベーションとなり、成長の引き金になった。移籍すれば立場はまた不安定なものになる。だからジョーンズは残留を視野に入れてオフを迎えている。

「負担は大きかったよ。プレータイムが伸びて、それが積み重なっていくし、精神的にも大変だった。でも、この挑戦すべてが僕にとっては楽しかった」

「シーズン前半は自分のチームを学び、チームメートを理解するのに必死だった。今の僕はそこを完璧に理解しているから、来シーズンもここでプレーできるなら、その状態でスタートラインに立てる。そうしたらもっと良い結果が出せるはずだ」

しかし、勝てないウィザーズと長期契約を結ぶことがジョーンズのキャリアにとって本当にプラスになるのだろうか。今シーズンの15勝はピストンズに次いでリーグワースト2位。フロントの判断は間違い続きで、ジョン・ウォールとブラッドリー・ビールの時代から年々チームは少しずつ、しかし弱くなっている。

「変化は一朝一夕には起きないものだ。それでも、正しい方法で毎日努力を続けていれば、自分のいる場所が好きになれる」とジョーンズは言う。

「50勝できるチームが突然生まれることはあり得ない。それはただ努力を積み重ねる中で生まれるし、その過程を好きにならなきゃいけない。そしてふと見上げた時に、自分たちがどこまで来たかを実感できるものさ。フロントのトップからロッカールームまで、このチームには仲間意識がある。みんな仲が良いし、お互いに本音で話している。それは僕らが正しい方向に向かっているという確信になっている。居心地は良いし、自信も持っていられるし、毎日頑張ろうという気持ちにさせてくれる。僕にとってそれは本当に大きなことなんだ」