
スポーツ界では、男性コーチが女子チームを指導するケースは多く見られる一方で、その逆はまだまだ少ない。そんな中、今シーズンのBリーグ王者である宇都宮ブレックスをアシスタントコーチとして支えたのが梅津ひなのだ。
パリオリンピックでは女子日本代表のテクニカルスタッフを務めていた梅津は、今シーズンに宇都宮に加入。Bリーグファイナルではサイドラインから指示を送り続ける姿が印象的だった。未開の道を切り開く若きコーチに今シーズンを振り返ってもらうとともに、今後の目標を聞いた。
「新しいことに挑戦したい気持ちが一番」
──東京医療保健大の学生ではなかったにも関わらず、恩塚亨ヘッドコーチの下でスタッフを務めていたという異色の経歴ですが、コーチになったきっかけを教えてください。
日本大の学生だった時、日本バスケットボール協会のテクニカルスタッフのインターンに応募し、NTC(ナショナルトレーニングセンター)に通うようになりました。それがリオオリンピックの年で、恩塚さんが女子代表のテクニカルスタッフとしてNTCにいらっしゃいました。最初は面識がなかったのですが、挨拶を交わすうちに顔見知りとなり、私が日大バスケ部に所属していないインターンだと知って、「医療で勉強しないか」と誘っていただいたことがきっかけです。
──その後、パリオリンピックでも女子代表のテクニカルスタッフも務めました。恩塚さんから学んだことで特に印象深いことを教えてください。
仕事に対する姿勢や、チームのために何ができるのかを探すところ、選手とのコミュニケーションの取り方などを学びました。恩塚さんはバスケットボールを本当によく知っていらっしゃるので、たくさん学ぶことがありましたが、一番大きかったのは仕事への向き合い方です。
──パリオリンピック終了後、宇都宮に加わります。Bリーグのコーチは選択肢として考えていましたか。
パリオリンピックが終わったら、WリーグかBリーグに行きたいという思いはずっとありました。数年前にBリーグの試合を観戦した際に、「この舞台で自分もやりたい」と思った瞬間があり、チャンスがあったらBリーグに行きたいという思いも前から持っていたので、ブレックスから声をかけていただいた時はすごくうれしかったです。男子のチームは初めてだったので不安はありましたが、新しいことに挑戦したい気持ちが一番でした。

「本当にやりきった感覚でうれしさと安堵感が半々」
──女子から男子、初めてのプロチームということで環境に慣れるのは大変でしたか?
最初は緊張しましたが、初めてブレックスに顔を出させていただいた時、チームは練習日でした。その日は挨拶だけでしたが、最初に田臥勇太さんが、自分を一人にしないように声をかけてくれて、すぐにブレックスは素敵なチームだと分かりました。選手とコミュニケーションを取る中で、ベテラン、若手と関係なく話しやすく、選手、スタッフも含めて全員が溶け込みやすい雰囲気を最初から作り出してくれたことには、本当に感謝しています。
──シーズン途中にケビン・ブラスウェルヘッドコーチが亡くなりました。ジーコ・コロネルヘッドコーチ代行の体制となって、梅津さんの役割に変化はありましたか。
私に任せられる練習中の役割やスカウティングの量が増えました。それに対してはすごくやりがいがあったので、たくさん任せてもらえることで「貢献したい」とういう思いがより一層強くなりました。ケビンがいた時は彼が先頭に立って指示を出していましたが、ジーコが代行となってからは彼だけでなく、アシスタントコーチも指示を出す機会が増えていきました。
──Bリーグファイナルではサイドラインから指示を出す姿が印象的でした。
クォーターファイナルの三河戦、セミファイナルの千葉ジェッツ戦では他のアシスタントコーチが主にスカウティングを担当していたので、私はベンチに座って見守る時間が多かったです。ファイナルの琉球戦は私がメインでスカウティングを担当したので、サイドラインに立って指示を出す機会が多くなりました。試合前は結構緊張していましたが、始まったら自然と試合に集中できて、自分のやるべきことを徹底しようというマインドに変わりました。気持ちが舞い上がることもなく、やり切ることができたと思います。
──ファイナルはゲーム3までもつれる激闘となりました。リーグ優勝が決まった時は、どんな感情が湧き上がってきましたか。
自分がスカウティングをした責任もあり、本当にやりきった感覚でうれしさと安堵感が半々でした。もちろんゲーム2で優勝を決めたい気持ちもありましたが、素晴らしいチームである琉球ゴールデンキングスを相手に簡単に2勝できるはずもなく、ゲーム3まで行くことになり、この試合にすべてを懸けていました。
──宇都宮でコーチを経験して、男子と女子との違いを感じることはありましたか。
映像を通して戦術などを伝えるところでは、男女での違いや壁は何もないと思っています。信頼関係を築くために仕事の質を見せていくのも同じです。ただ、ワークアウトで私がビッグマンを相手にポストアップでディフェンス役をやってもほとんど意味がないなど、できないこともあります。そこは周囲と協力し、助け合うことができます。女性だから男子のチームをコーチングできないということは本当にないと思います。常に自分の最大限のパフォーマンスを出す、それは選手もコーチも同じだと思っています。