リラードはヒート・カルチャーを理解し、体現できる選手
ヒートはNBAの他の29チームとは異なるカルチャーを持っている。勝ちにこだわり、ハードワークを重んじ、そのためなら他の犠牲を受け入れる覚悟がある。今オフの移籍市場で大きな注目を浴びるデイミアン・リラードへの対応でも、ヒートの姿勢は分かりやすい形で表れている。
リラードはトレイルブレイザーズの球団史上最も価値のあるプレーヤーだ。リーグ屈指のスコアラーとして活躍し続け、『デイム・タイム』は長らくブレイザーズの名物だった。地元との関係もこれ以上ないほど良好で、だからこそブレイザーズは昨夏に2026-27シーズンまでの新契約を提示し、彼が36歳になる4年後にも6320万ドル(約82億円)を支払うことを問題とはしなかった。
リラードは現在33歳。昨シーズンにキャリアハイの平均32.2得点を記録したようにパフォーマンスに衰えは見られないが、ケガが増えてきたのも事実だ。彼はキャリア平均36.3分とプレータイムの長い選手で、プレーオフになるとこれが40分を超える。常にコートに立ち続け、酷使されてもパフォーマンスを落とさず、極限状態でこそむしろ『デイム・タイム』を発動させる。そんな異才を発揮してきたが、ここから先はそうもいかないだろう。
それを踏まえると、NBAの大半のチームがリスクを嫌ってリラードには手を出さない。リラードの代理人は、ヒート以外のチームが彼を獲得しないよう暗に圧力を掛けたことでNBAから警告を受けた。リラードはこれを受けて、どこに移籍するにしても契約を遵守するとの姿勢を示したが、気持ちでプレーするタイプのリラードが、自分の意に沿わない移籍でモチベーションを失うこともまたリスクとしては大きい。
そんな中で、ヒートだけはそのリスクを意に介さない。これから大ベテランの域に入るリラードがまだ数年はトップレベルでプレーできると信じ、そのプロフェッショナル精神を信じて、ブレイザーズの大盤振る舞いの契約も引き受けようとしている。それはリラードがヒート・カルチャーを理解し、体現できる選手だからだ。
NBAにスター選手は多いが、本当の意味で勝ちにこだわり、ハードワークのできる選手はそう多くない。移籍市場でよく言われるのが「NBAのビジネス」で、選手たちの多くが実際には勝つことよりも自分の市場価値を守ることを優先する。82試合すべてには出場せず、適切な休養を取ってコンディションを整える。ケガのリスクがあると感じたら、それがプレーオフでも欠場を選択する。それで優勝を逃しても高額年俸は保証されるのだから、彼らはその状態をどれだけ長く維持するかを考える。
だが、リラードは違う。ジミー・バトラーも、バム・アデバヨも違う。そういう選手をヒートはどんな犠牲を払ってでも獲得しようとする。同時に、リラード獲得のためにトレードに出されるであろうタイラー・ヒーローも、ヒート・カルチャーを体現する選手であるため、ヒートとしては残したいのが本心のはずだ。
いずれにしても、普通に考えればリスクが高すぎるリラードの獲得に、ヒートだけが強い関心を示している。ブレイザーズはできる限り良い条件を引き出そうと時間をかけているが、取引相手はヒートしかいない。自分たちが再建に舵を切ることを選択した以上、リラードを無理に引き留めるわけにはいかないし、リラードの顔に泥を塗るような真似をこれ以上すれば、ファンの反発も大きいだろう。そしてスクート・ヘンダーソンの時代をスタートさせる上で、トレーニングキャンプ開始時点でリラードがまだ残っていることはマイナスとなる。
テリー・ストッツの解任、CJ・マッカラムの放出とリラードが信頼する仲間を外した時点で、ブレイザーズとリラードの決別は時間の問題だった。どこか1チームを引き込んだ3チーム間、あるいは4チーム間トレードで、リラードの移籍は間もなく決まるだろう。彼の行き先は、ヒート以外にあり得ない。