ジミー・バトラー

「失敗から学び、シリーズを戦う中で成長して、次のシリーズに挑む」

勝負はやってみなければ分からない。それでも、2つのチームが対戦する時には実力差があり、長いレギュラーシーズンの成績は概ねそれを反映している。58勝を挙げて東カンファレンス首位のバックス、44勝でプレーイン・トーナメントに回り第8シードとなったヒートのファーストラウンドは、ヤニス・アデトクンボを中心に2シーズン前の優勝メンバーが残るバックスが圧倒的に優勢と見られていた。

そのアデトクンボは初戦で腰を強打して、第2戦と第3戦を欠場。第4戦で復帰したが、100%のパフォーマンスは発揮できなかった。これはバックスにとって大きな誤算だったが、ヒートはシリーズを戦う中でタイラー・ヒーローとビクター・オラディポをケガで失うアクシデントに見舞われている。

結局のところ4勝1敗でヒートが勝ち抜けたのは、ジミー・バトラーの存在が大きい。もともと勝敗が懸かった場面での勝負強さには定評があったが、このシリーズでの働きはずば抜けていた。ヤニスが復帰してバックスが勢いを取り戻したかった第4戦に56得点を挙げて相手の出鼻をくじき、第5戦では敗色濃厚な第4クォーターの最後に超難易度のクラッチシュートを決めて延長に持ち込んでいる。

第4クォーター残り2秒、2点ビハインドの場面。ヒートは最後のチャンスをバトラーに託す。ゲイブ・ビンセントが投げ入れたロブパスに対し、マックス・ストゥルースのスクリーンを使って動いたバトラーはドリュー・ホリデーのマークを離すために後ろにジャンプし、空中でキャッチしたボールをそのままリムへと投げ入れた。

タイムアウトで描いたプレーを、ヒートのエリック・スポールストラは「私は別のプレーを描いていたんだが、ジミーが私の目を見て『僕がやる』と言うから、『分かった、任せるよ』と答えた」と明かす。「そしてゲイブが完璧なパスを出し、あとはジミーがやってくれた」

目の前にパスカットを狙うアデトクンボが立ちはだかる状況で、難易度の高いロブパスを出したのはゲイブ・ビンセントだ。彼はこのシーンをこう振り返る。「レギュラーシーズンにも同じようなプレーでジミーがダンクしたのを思い出していた。僕はヤニスにパスカットされないことだけを考え、2歩下がってジミーを狙ってボールを投げた。ヤニスにさえ触られなければ、あとはジミーの仕事だから、どんな形であれ決めると信じていたよ」

今シーズンのヒートは苦戦に苦戦を重ね、ギリギリでプレーオフに進出したが、クラッチタイムの競り合いには絶対的な自信を持っている。ビンセントは「その点について自信が揺らいだことはない。10点差、6点差まで詰め寄れば逆転できるという確信がある」と語る。

このシリーズで37.6得点、レギュラーシーズンの22.9得点から異常なまでの上振れを記録したバトラーは「絶好調だ。良いリズムに乗れている」と言う。

「信じられないほど多くのシュートを打っているけど、どれも自分のシュートばかりだし、チームメートも僕にもっと攻めろ、もっと打てと励ましてくれる。ただ、どれだけ点を取ってもディフェンスしてもリバウンドを取っても、何をするにしても勝つしかない。何が何でも勝つという気持ちだけでやっている。それは今、現実になった」

「僕たちは仲の良いグループで、厳しい戦いを楽しんでいる。自分たちの実力に自信を持ち、コートに出れば全身全霊を傾けて自分たちのやるべきことをやる。失敗から学び、シリーズを戦う中で成長して、次のシリーズに挑む。今まさにやっていることだ。どの試合にも勝ちたいし、僕らにはその力がある。どんなチームが相手だって、勝つチャンスはあると思っているよ」