多彩な得点パターンを披露して「外す気がしなかった」
Bリーグのベストプレイヤーは誰だろう? 今シーズンはディアンテ・ギャレット(アルバルク東京)、ジョシュ・チルドレス(三遠ネオフェニックス)のようなNBA経験が豊富な選手が相次いでBリーグ入りしている。ただリーグ中盤戦に差し掛かった今あらためて感じるのは、ニック・ファジーカスのすごさだ。
ここまで1試合平均28.5得点。2位のダバンテ・ガードナー(新潟アルビレックスBB)に6点以上の差をつけ、B1で断トツの数字を残している。
210cm111kgというファジーカスの体格はそれなりの大型だが、彼は必ずしも身体で勝負するタイプではない。ジャスティン・バーレル(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)やアイザック・バッツ(シーホース三河)、ガードナーといった名を挙げるまでもなく、Bリーグにはもっとパワフルな選手がいる。
試合開始のティップオフでボールを競るのも、ファジーカスでなくライアン・スパングラーだ。スパングラーは身長こそ203cmだが跳躍力があり「最高到達点」ではファジーカスを上回る。ただファジーカスはスキルが高く、効率的にプレーする知性を備えている。12月23日のA東京戦では、東地区首位の強敵に対して存分にその強みを発揮してみせた。
試合の立ち上がり、篠山竜青のスティールからの速攻でレイアップを決めると、様々な形からシュートを沈めていく。彼はこう振り返る。「第1クォーターの終わり頃はシュートの調子がすごく良い感じで、外す気がしなかった。ジャンパーもスリーも、雪合戦で相手にスノーボールを当てているような感じだった」
ファジーカスは第1クォーターのシュート10本すべてを成功させ、わずか10分間で15得点を挙げた。試合の流れを川崎に手繰り寄せる得点ラッシュだった。
シュート精度は日々の練習で身に着けた『第二の本能』
ゴールすぐ下のペイントエリアは、当然ながら相手の警戒が厳しい。そこでフリーになることはなかなかないし、ファジーカスといえどもそこを個のパワーやクイックネスで攻略することは難しい。ただファジーカスは『その少し遠く』から決める形を持っている。
彼の手を見ると、まるで一般人の「足」くらいの長さと厚みがあった。加えて手首もしなやかで、正面を切られていてもファジーカスはその脇から片手でフワッとシュートを決めてしまう。レイアップとフローターを合わせたようなミドルシュートを彼はよく決める。簡単に決めているようで、なかなか他の選手にはできないスゴ技だ。
ファジーカスはこう説明する。「全体練習が終わった後に個人練習でシュートはよくやっている。様々な状況を考えながら、いろんな形をやっている」。彼は自らのシュート力を「セカンドネイチャー」と表現していた。つまりそれは後天的なものであり、繰り返しの練習により「第二の本能」の域まで刷り込まれた能力という意味だ。
ファジーカスとマッチアップする場面の多かったA東京の竹内譲次はこう振り返る。「素晴らしい選手ですし、得点能力が優れているのは分かっていたから、何とか20点くらいを目安にやりたいなと思っていた」
しかしファジーカスは39得点を挙げた。竹内はこう反省する。「彼は賢い選手で、駆け引きも上手。シュートレンジが広いし、最後のタッチも柔らかい。止められないシチュエーションはあると思うんですけれど、できるだけそうならないようなもっと遠いところでボールを持たせたり、相手のセットプレーをしっかり読んだりしなければいけない」
川崎がファジーカスを上手く生かしていることも間違いない。北卓也ヘッドコーチはこう言う。「他のプレイヤーがズレを作っている。それでニックがこれだけ点を取れていると思う。昨シーズンは辻(直人)とニックのところを抑えればというのがあった。でも今シーズンはボールが回ってズレができて、ファジーカスがノーマックになってシュートを打つ場面が多い。他のプレイヤーも積極的にアタックして、ズレたところを最後にニックが決めている」
A東京の伊藤拓摩ヘッドコーチも「チームの流れで生かされている。1対1だけで攻めてくる選手だったら、もう少し止めていた」とファジーカスに留まらない川崎の脅威を説明する。
エースに依存し、エースに点を取らせるところから逆算してオフェンスを組み立てるチームもある。周りはコースを空け、ボールを送ることで黒子に徹するというスタイルだ。ただ川崎はチームオフェンスの中で、自然にファジーカスが生きている。ファジーカスもボールを独占して強引にアタックするタイプではない。高い確率で打てない状況ならば仲間を生かす選択ができて、打たない時の球離れは抜群に良い。
ゴール下で脅威となってファジーカスを助ける『相棒』の存在
チームとファジーカスにとって大きいのはスパングラーの加入だ。2016年のNCAAトーナメントでオクラホマ大の4強入りに貢献した25歳のフレッシュマンが、素晴らしい成長と適応を見せている。203cm106kgの体格はファジーカスより一回り小さいが、機動力と跳躍力で上回り、得点とリバウンドの両面で主役の仕事をこなせる選手だ。23日も17得点9リバウンドを記録ており、ここ最近の試合は「ダブル・ダブル」かそれに近いスタッツを残し続けている。
北ヘッドコーチは「彼がゴール下に入ってくれることで脅威になってファジーカスに寄れない。ニックを助けている一つの要因だと思います」とスパングラーの貢献を説明する。ファジーカス本人も「ライアンの加入でレベルアップした。自分と辻だけでなく、3つめのオプションが生まれてオフェンスが変わった」と後輩の活躍を称える。
23日のA東京戦で、川崎は93-81と快勝。連勝は15に伸び、チームは23勝3敗と走っている。ファジーカスの39得点も10月22日の富山グラウジーズ戦に並ぶ、今シーズン最多タイだった。4789名という大観衆にも、彼のすごみは印象付けられただろう。彼もそんな雰囲気をエンジョイしていたようだ。
「去年までならアリーナの隅っこの会話が分かるくらいのこともあって、まるでスクリメージ(実戦形式の練習)をやっているように思うこともあったけれど、今日は素晴らしかった。毎回これくらいのファンの前でプレーできればうれしい。シュートを決めるとファンが喜んでくれて、それでエナジーをもらえる。ファンのおかげで調子が上がることはある」
とどろきアリーナの観客が増えれば、ファジーカスの得点もそれにつられて増えるのかもしれない。そんなことさえ思わされた、大一番の活躍だった。