「富樫さんとの対決だからといって意識することはなかったです」
3月23日、千葉ジェッツと対戦した横浜ビー・コルセアーズは前半終了時点で16点をリードする最高のスタートを切った。後半に入り、東地区首位を走る千葉の猛攻を受け最終クォーターに逆転されたが、最後まで集中力を切らさず終盤に突き放し、76-75の接戦を制した。
実に5年ぶりの千葉からの勝利となったが、河村勇輝は「入りがすべてだった」と試合を振り返った。「スタートで先輩方が絶対に負けないという気持ちとアグレッシブさを前面に出して下さっていました。試合の入りがこの結果に繋がったと、本当にそこに尽きるかなと思います」
河村が言うように、前半の横浜はインサイドアウトからの3ポイントシュートがよく決まり、ディフェンスでも素早いローテーションでノーマークのシュートをほとんど打たせなかった。また、前半のターンオーバーはわずかに1と、完璧に近いゲーム運びをしていた。第2クォーターをほぼフル出場した河村は決定的なパスを何度も供給し、このクォーターだけで7本のアシストを記録。その後も巧みなゲームメークを見せ、キャリアハイとなる12アシストまで数字を伸ばした。
河村は「チームメートが決めてくれたおかげでもあるので、そんなに気にしていないです」と表情を変えなかったが、マッチアップした富樫勇樹に対しては「やっぱりすごかった。もうそれだけですね。まだまだ自分じゃ太刀打ちできないレベルにあるなと思いました」と、尊敬の念を示した。
この試合は『ユウキ』対決として注目を集めた。それでも、過去に何度もマッチアップの経験がある河村だけに過度な緊張感はなかったという。「富樫さんとのマッチアップは運良く、特別指定の頃から毎回やらせてもらってきました。立場はプロに変わりましたが、特にそこの意識は変わっていません。特別指定ではあるものの、大学生の頃からプロとしての意識はずっと持っていたので、富樫さんとの対決だからといって意識することはなかったです」
「富樫さんを乗らせるとかなり厄介なチームになる」
富樫はこの試合で16得点6アシストを記録したが、3ポイントシュートは12本中2本の成功と低調に終わっている。数字だけを見れば、河村がよく抑えたように思えるが、「スタッツがすべてではない」と、本人にしか分からない感覚があるのだという。「大事な場面でスコアする力だったり、アシスト力もあって、試合をやっているだけで支配力があるというか。マッチアップしていて、どのタイミングでも脅威のある選手だと感じました。その怖さをずっと感じていたので、もっとやらないといけないと思いました」
このように富樫の素晴らしい部分に目を向ける河村だが、試合終盤にはその富樫からボールをスティールし、そのままワンマン速攻に持ち込むビッグプレーを見せた。残り50秒、リードを6点に広げるこのプレーがあったからこそ、横浜は逃げ切ることができたと言える。このプレーは一歩間違えれば簡単に抜かれてしまうギャンブル的な要素も含まれたいたが、河村にはボールを奪える確信があった。
「ジェッツは富樫さんが起点となっていて、富樫さんを乗らせるとかなり厄介なチームになるので、前半からずっとタフにディフェンスをしていました。でも、どこかのタイミングでボールは取れそうだなというイメージがあったんです。少しギャンブルチックではありましたけど、その勘が当たって良かったと思います」
あこがれの選手とのマッチアップにも気負わず、持てる力を発揮し、アップセットの原動力となった河村。『チームを勝たせるポイントガード』を目指す彼にとって最高の結果となったが、単発で終わらせてしまっては意味がない。パリオリンピック出場を目標に定め、東海大を中退してプロへの道を選んだ河村の挑戦はこれからも続く。