1月に行われたJr.ウインターカップで男子のファイナルまで勝ち進んだKAGO CLUB(大阪)の選手たちは、『AKTR』のユニフォームに身を包んでいた。バスケットボールをテーマにしたアパレルブランドの『AKTR』は、KAGOとのコラボレーションのプロジェクトとして『KAGO-AKTR』を展開。地域のバスケスクール、いわゆる『街クラブ』であるKAGOのために商品を作り、一般にも販売している。そこにはどんな思いがあるのか。KAGOの丸田健司(MARU)コーチと『AKTR』の代表を務める新田寛之に話を聞いた。
「日本のバスケ界にはスクールがない、そこにスクールというカルチャーを作りたい」
──そうやって付き合いが深まり、KAGO-AKTRが誕生したわけですね。
MARU いろんなブランドが増えていく中で、僕はAKTRのデザインや活動にずっと共感できていて、それは僕が海外に行くのと一緒の価値観だったし、子供たちに伝えたいカルチャーという点でもAKTRにしかできないと感じていました。
新田 私としても、そこで個人としての感覚がすごく近かった部分があったし、お互い自己を投影しているそれぞれの活動が同じ方向を向いているという共感がありました。これまでもKAGOのアイテムをコラボで作ったりしていたのですが、去年になって正式にKAGO-AKTRを立ち上げました。
MARU 僕自身、ジョーダンキャンプという形でアメリカに行く機会があって、アメリカのファッションやデザインのカルチャーに触れて「すげえ!」、「カッコ良い!」という魅力に触れて、そういうデザインや映像を作る人と出会って勉強することができました。そういうクリエイティブな部分が僕は強くて、何かしらカルチャーを作りたいんです。日本のバスケ界にはスクールがない、そこにスクールというカルチャーを作りたいという思いでKAGOはスタートしました。子供たちに教えるメニューでも「この指導があの技術に繋がって」というクリエイティブな部分が面白くて、それはモノづくりの考え方が指導に生きていると思います。
──知り合った当時、KAGOのようなスクールは他になかったそうですが、逆にKAGOは新田さんから見てオンリーワンですか?
新田 僕にとってはオンリーワンですね。これは他のスクールや指導者との比較ではなく、人間関係や好奇心を含めた感性、そういった育成に自分がかかわるのであれば、MARUと一緒にやること以外は考えられないです。仲間がこんなに素晴らしいことをやっているんだから、当然一緒にやるよね、という感じです。
──人間関係を別とすれば、KAGOのどの部分が素晴らしいと思いますか?
新田 単純に子供たちがみんな楽しそうにやっていますよね。それまでに出会ってきた、大好きだったバスケが嫌になってしまった子とは違います。スクールの良し悪しの話ではないかもしれませんが、KAGOのお祭りのようなイベントに顔を出した時に、シュートを決めたりのゲームをクリアするたびに輪ゴムをもらえて腕にはめて、いくつか貯めると景品がもらえる、というのがありました。その中にシュートやスキルと一緒に、バスケットボールを使ってボケる『モノボケ』があったんです。その審査員を私が仰せつかって、小中学生がどんなボケをしても笑ってあげる役目をやりながら「他のスクールとは違うな」とすごく感じました。
MARU それは1年に1回、400人ぐらい集まる日なので、バスケだけじゃない部分も用意しました。新田さんに限らずKAGOにかかわる人たちに声をかけてKAGOを知ってもらう、子供たちにも触れてもらう機会でもあります。僕らがSOMECITYでやっている良いこと、例えばMCを呼んだり、クリエイティブな部分をしっかりやるのがKAGOの売りだとも思っています。とにかく選手もかかわる人も楽しんでほしいんです(笑)。
新田 小学生や中学生が家族以外の大人と話す機会って普通はそんなにありませんよね。知らないおじさんの前でボケる機会は、私が子供の頃にはなかったです(笑)。でも、それって本質的にすごく大事なんじゃないかと、その時に思いました。モジモジしながらも前に出てきてボケる。それってすごく良いですよね。小学生と中学生が同じコートでゲームを楽しんでいて、「自分が中3の時、小学生が集まるイベントに顔を出すかな?」とも思いました。
「バスケに限らずMARUが言うような感覚はもっと世の中に広まってほしい」
──ファッションやデザインではなくても、それもKAGOのカルチャーですよね。
新田 そう思います。KAGOのスクールの特徴の一つが『上の子が下の子に教えてあげる』です。教える側にもプラスだし、身近なお兄ちゃんやお姉ちゃんに教えてもらう下の子にもすごくプラスだと思います。バスケの技術面がすごいと見られがちでしょうが、ここにいれば人間として成長できるし、人間性が育てば自然とバスケも上手くなると思います。それは自分がAKTRをやる上で考えていることと繋がっています。好奇心を持って、楽しいと思ってやれば、どんな努力でも辛いとは感じないですよね。人生を豊かにする上で、それが一番だと思います。
MARU 僕が大事にしたいのは個性で、バスケで同じような選手を育てたいとは思いません。上手い子がいる一方で、「プロを目指すって言ってたけど、ウチにもっと上手い子がいっぱいいる」と心が折れる子もいるんですよ。でも僕からすれば小中学生の可能性なんてこの先いくらでも広がりますし、大事なのは自分の強みと弱みをしっかり理解することで、それをバスケットボールを通じて学んでもらいたい。バスケでも、どれだけ上手いかより、自分の持っている強みがチームに必要とされることが大事だったりします。それはバスケに限らず何の仕事をしていても同じですよね。そんなリアルな部分を指導を通して子供たちに伝えたいです。
新田 私は常日頃から育成に向き合っているわけではないので、バスケ選手を育てることにおいてはMARUのやり方が素晴らしいと感じています。それと同時に、バスケに限らずMARUが言うような感覚はもっと世の中に広まってほしいcです。
MARU それこそが、社会で生きていく人材をバスケを通して育成することだと思っています。だから僕はいろんな広い価値観を、KAGO-AKTRを通して知ってもらいたいです。
──KAGOが今後どうなっていくか、KAGO-AKTRがどうなっていくか。その展望はどう考えていますか?
MARU 最近すごく聞かれるんですけど、正直「そんなに考えてないよ」です(笑)。今後もバスケが盛り上がり、環境もどんどん変わり続けます。自分たちが育成と普及というブレないテーマを持っている限り、柔軟に変化し、先を見ながら新しい発信をしていく団体、ブランドでありたいと感じます。
新田 服は気分を変えられるパワーがあると思っているので、KAGO-AKTRも思想を強く感じなくても、気分でまとってもらえるとうれしいです。バスケをやる子の新しい選択肢としてこういうカルチャーを持ったスクールがあるんだと感じてもらいたいですね。
MARU 僕もいろんなきっかけから学んでここまで来ました。「バスケを盛り上げたい」という視野でストリートバスケをやっていたから今の指導スタイルがあると思うし、アメリカに行ったからこういう考え方になったと思う。そういうきっかけ作りを今度は子供たちに提供していきます。今後について細かいことは考えていなくても、「バスケを盛り上げたい」思いはブレないので、何を優先するかは常にはっきりしています。