
ドノバン・ミッチェル以来の才能、『次世代のエース』
エース・ベイリーはNBA関係者の間で、自信過剰かつ礼儀知らずな若者だと思われていた。NBAドラフトを前にセブンティシクサーズからの練習参加の誘いを断り、自分を指名するチームを選ぶような動きを見せたからだ。マーベリックスがクーパー・フラッグを全体1位指名し、続いてスパーズがディラン・ハーパーを指名。それに続くタレントと見られたベイリーをシクサーズとホーネッツは見送り、5位指名権を持つジャズがベイリーに賭けた。
ジャズはその賭けに勝ったようだ。サマーリーグで存在感を示したベイリーは、ドラフト前の練習参加を断るようアドバイスしたエージェントを解雇し、トラブルを清算してトレーニングキャンプにやって来た。
「僕自身と家族をより良い状況に置くために最善の決断だった」とベイリーは言う。「ルーキーイヤーを始めるにあたり、すべての準備が整った。僕はチームに必要とされる人間になりたい。プレーをするのはもちろん、ベンチで盛り上げたり、水を運んだり、何でもやる。そうするのが楽しみなんだ」
ドラフト前は悪い評判が立ったベイリーだが、会見での言葉や立ち居振る舞い、コートでの様子を見れば、前向きで意欲に満ちた若者であるのが分かる。そしてコート上でも早々に結果を出している。プレシーズン初戦のロケッツ戦、ベイリーは先発ポイントガードとして起用され、31分の出場でフィールドゴール16本中11本成功の25得点、さらには6リバウンド3アシスト2スティール1ブロックと多彩な活躍を見せた。続くスパーズ戦でも同じ役割で先発し、オーバータイムにもつれた試合で39分出場、フィールドゴール13本中8本成功の20得点、7リバウンド1アシスト2スティールを記録。2試合連続で高確率でシュートを決めた。
練習だけでなく実戦の場でも、ベイリーは才能の片鱗を見せている。ドノバン・ミッチェルとルディ・ゴベアを放出して再建に舵を切ってから3年、これまで中途半端な順位で終わり、上位指名権を逃し続けていたジャズは、昨シーズンに初めて『完全なタンク』に出た。得られた指名権は5位だったが、実力的には3位指名クラスのベイリーを得る幸運に恵まれた。ジャズの練習参加もベイリーは断っていたが、フロントは「ドラフトコンバインで面談しているから、その必要はない」と彼の強行指名に踏み切った。
再建の期間にジャズには若いタレントが集まったが、チームの核となれるような選手はいなかった。ジャズがオールスターレベルへと成長できるポテンシャルを持ったルーキーを獲得するのは、2017年のドノバン・ミッチェル以来だ。
ベイリーが『次世代のエース』としての評価を確立した時、ジャズはラウリ・マルカネンをトレードに出すだろう。マルカネンはユタの環境を気に入ってジャズを選んだ貴重な存在だが、今シーズン4600万ドル(約69億円)から始まる4年契約は、再建チームが抱えるには大きすぎるし、28歳の彼はベイリーや2年目、3年目の選手を育てるチームのタイムラインと合わない。マルカネンを放出しても戦えるだけの若い基盤作りこそ、ジャズが再建から抜け出すマイルストーンなのだ。
そういう意味ではベイリーには期待だけでなくプレッシャーも圧し掛かる。しかし彼は「NBAでプレーするという夢をかなえられる人は本当に限られている。だから、僕はここにいられるだけで幸せだ。ただ今を楽しみ、大好きなバスケに打ち込むだけさ」と笑う。
「このチームに来れて良かった。みんなすごく親切で、『ミスは誰だってするものだから緊張するな。ルーキーはただ楽しめばいい』と言って僕の気持ちを楽にしてくれる。様々な経験をする中で学ぶことは大事だけど、まずは楽しみたい。自分らしくプレーを楽しんでいれば、プレッシャーなんか感じないはずだ」
ミドルレンジからのプルアップは効率が悪いと言われるが、ベイリーはそのシュートが得意で臆せずに打っていく。ディフェンスでも大きな声を出してコートを駆け回る。彼がプレーを楽しんでいるのは明らか。そのメンタリティが彼を成功へと導くはずだ。