ドンチッチ放出に失意のファンも、デイビスには声援
ダラスのファンはルカ・ドンチッチをレイカーズに売り渡したニコ・ハリソンGMに怒り心頭で、アメリカン・エアラインズ・センターの外では連日ファンの抗議行動が行われ、『マブスの葬列』も出された。ハリソンGMに危害を加えるとの警告が寄せられたことで、マブスは彼のためにボディーガードを雇った。
マブスvsロケッツが行われた現地2月8日もアリーナ周辺は物々しい雰囲気となったが、アリーナの内部は違った。彼らはアンソニー・デイビスに恨みがあるわけではなく、コートに入る彼を拍手と歓声で迎え入れた。最初のプレーはデイビスのポストアップから、裏のスペースに飛び込んだダニエル・ギャフォードへのアリウープ。最初の得点が決まるまで立ったままで応援するつもりだったマブスファンは、たった20秒で満足して腰を下ろすことになった。
前日に行われた入団会見で、デイビスはファンが今回のトレードに大いに不満を抱いていることを承知でこう語った。「ルカがこのチームにとってどんな存在だったかを軽視したりはしない。でも、僕はバスケをするのが仕事で、ここでやるべきことをやって、ファンに希望を与えて安心させる。明日どんな反応をされるかは正直分からないけど、それがどうであれ僕はこのチームが勝つために全力を尽くす。そして最終的にはこの街に、ファンに喜びを取り戻させるつもりだ」
この飾り気のない言葉がファンの心に届いたのだろう。さらには一緒にレイカーズから移籍してきたマックス・クリスティが先んじて2試合でプレーし、素晴らしいパフォーマンスで失意のファンに希望を与えていたことも大きかったはずだ。
この日のアリーナが最も盛り上がったのは、開始約3分でデイビスが決めたマブスでの初得点のシーンだ。厳しいプレッシャーを掛けるアメン・トンプソンに対し、デイビスはポストアップで押し込んでからターンしてジャンプシュートを放った。彼にドンチッチの代わりはできないし、誰の代わりを務めるつもりもない。それでもそのフォームはアリーナの外にあるダーク・ノビツキーの銅像を思い起こさせるものだった。
かくして、『アンソニー・デイビスのマブス』の時代は幕を開けた。26得点16リバウンド7アシスト3ブロックの大活躍を見せたデイビスは「ファンの素晴らしい歓迎がうれしかった。正直、どんな反応があるのか考えずにはいられなかったけど、歓迎ムードが僕に力を与えてくれた」と語る。
しかし、デイビスの活躍は第3クォーター終盤まで。ジェイレン・グリーンとアルペラン・シェングンのツーメンゲームをディフェンスした際に接触がないまま倒れ、鼠径部を押さえて交代を要求。ベンチには残ったがもうプレーすることはなかった。
「鼠径部の張りだけど、深刻なものじゃない」とデイビスは言う。この時点でマブスは83-77でリードしており、残る選手の奮闘でリードを守り切り、116-105で勝利した。
「僕はただ自分らしくプレーして、みんなの感情を良い方向に変えたいだけなんだ。そして、アンソニー・デイビスがどんな選手なのかを思い出してもらいたい」とデイビスは言う。
その初戦で目標は果たされたと言っていい。マブスのファンはドンチッチの放出をずっと悲しみ、ニコ・ハリソンを憎み続けるだろうが、この日のアリーナの中と外で全く雰囲気が異なったように、気持ちを切り替えて『アンソニー・デイビスのマブス』に愛着を持つようになっていくはずだ。
そしてデイビスにとっても、これは新たな挑戦となる。25歳でレイカーズに来て以降、彼はオールスターレベルの選手ではあっても、レブロン・ジェームズとの序列は明らかに存在していた。『自分のチーム』をどのレベルまで押し上げられるか、その成否次第でそのキャリアの評価は大きく変わることになるだろう。