「河村選手と同時に出る時間帯に、彼の良さを出すのも楽しい」
河村勇輝がケガでコートを離れた横浜ビー・コルセアーズにおいて、森井健太の存在感は試合を追うごとに高まっている。
全治4週間程度という診断とともに河村がロスターから外れた4月5日のサンロッカーズ渋谷戦以降、ポイントガードを務める森井のプレータイムは軒並み30分を超えている。そして、SR渋谷戦の7本、川崎ブレイブサンダース戦第1戦の10本、第2戦の9本、富山グラウジーズ戦の11本というアシスト数が示すように、的確なゲームメークで司令塔としての役割を果たしている。
川崎との2連戦で森井に話を聞く機会を得た。3月22日のシーホース三河戦で頭部を5針縫い、同じタイミングで負った顎の傷は未だパッドで保護されている。森井は「あちこちボロボロです」と笑いながら、「それでも学生の頃から試合を欠場するようなケガは一度もしていないので、元気に産んでくれた両親に感謝です」と話した。
2016-17シーズンに新潟アルビレックスBBでプロデビューし、2020-21シーズンに横浜BCに移籍した27歳。プレースタイル的にも性格的にも押しの強さはないが、チームメートの特長と試合の状況をとらえたゲームコントロール力は学生時代から突出していた。持ち味とするアシスト数はキャリアを追うごとに増加。2シーズン前、当時横浜BCのヘッドコーチを務めたカイル・ミリング(現広島ヘッドコーチ)は「ケンタほどハードワークする選手を見たことがない」と森井を称賛し、チームメートのパトリック・アウダも「パフォーマンスが上がらない試合でも常に100%、いや、それ以上のエナジーでプレーしている」と話していた。
昨シーズンまでの河村は森井と同じようにコントロールタイプのポイントガードだったが、『得点』という異なる強みを備えるようになった。そして、彼が得点に特化したガードになったことで、森井の良さがいっそう生きるようになった印象を受ける。
森井は言う。「今シーズンは河村選手と僕とで、相手チームが『ビーコルは2つのチームでやっている』と思うくらいガラっとスタイルを変えて、お互いの良さを出せていると思います。周りのメンバーも自分自身の特長や役割をよく分かっている選手が多いので、メンバーに合った組み立てができているし、河村選手と同時に出る時間帯に、彼の良さを出すのも楽しい。今シーズンは本当にやりがいのあるシーズンだなと思っています」
「全員が下を向かず戦っていた姿を見て、本当に良いチームになったなって」
中地区首位でのチャンピオンシップ出場を目指し、横浜BCの首脳陣は川崎とのシリーズを「最低でも1勝1敗」と見定めていた。第1戦に惜敗して迎えた第2戦の後半、横浜BCは19点ビハインドで終わった前半とは見違えるようなパフォーマンスを発揮し、第4クォーター中盤、森井の3ポイントシュートでついに逆転に成功した。しかし、それ以降チームはわずか3得点しか挙げられず、残り0.01秒、起死回生を狙った森井のラストプレーも失敗に終わった。
タイムアップ直後に人一倍悔しそうな表情を見せていた森井は、そのときの心境を次のように振り返っている。「試合の後半、チーム全員が 下を向かず戦っていた姿を見て、本当に良いチームになったなって思いました。そんな『戦えるチーム』を最後に勝たせられなかったことが、ポイントガードとしてもチームのキャプテンとしても本当に悔しかったですし、ワンポゼッションの勝負を勝ち切れない弱さを実感したことも悔しかったです」
12日の富山グラウジーズ戦も第4クォーターで逆転され、87-91で敗れた。 この連敗を受け、横浜BCの中地区優勝はかなり厳しいものとなった。しかし下を向いている暇はない。チャンピオンシップへの出場権はまだ獲得できていないし、残り9試合の対戦相手には、残留争いをしている新潟アルビレックスBBと富山という、何が何でも勝ちを欲するチームが控えているからだ。
「日頃から言っていることなんですが、簡単な試合なんて一つもないですし、自分たちもこれまでギリギリの戦いを制して今の順位にいると思っています」。森井はこのように話し、「ヘッドコーチがよく言う『自分が主役』、『自分がこのチームを支えている』という気持ちを一人ひとりがより強く持ち、そういった気持ちをプレーに出していければチームの武器が増えると思います」と、チームのさらなる底上げを見据える。
「僕たちは日々成長するチーム。チャンピオンシップを戦う土俵には上がってきたと思っているので、ここからが勝負です。それに、試合に出られず一番つらい思いをしているのは勇輝自身だと思っています。彼がチャンピオンシップで100%の状態でコートに戻ってこられるよう、僕がチームを引っ張っていきたいです」
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