ケンバ・ウォーカー

特徴を分かった上で獲得すれば、有効なオプションに

昨オフにセルティックスからサンダーに放出されたケンバ・ウォーカーは、再建チームでのプレーではなく、地元ニューヨークに戻って再起のシーズンを過ごすことを希望しました。しかし、ケンバ自身もニックスも期待外れのシーズンとなり、実質的な戦力外通告を受けることになりました。2019年のワールドカップではアメリカ代表のリーダーであったポイントガードが、あっという間にキャリアの危機へと転落したのです。

セルティックスもニックスもケンバのディフェンス力を懸念して主力から外しましたが、急激にディフェンス力が低下したわけではありません。彼はそもそも「ディフェンス面のマイナスを補って余りあるオフェンス力」でスター選手となっただけに、その特徴を分かって獲得したはずのニックスが起用法を間違えた印象が残ります。

実際、2020-21シーズンはセルティックスでは平均19.3得点を記録しており、オフェンス面では結果を残しています。それがニックスでは11.6得点まで低下し、攻守トータルでメリットが生み出せない選手と判断されました。言い換えれば、得点力が落ちたのは昨シーズンだけの話で、『衰えた』と判断するのは時期尚早かもしれません。ディフェンスのデメリットを上回るオフェンスのメリットを生み出せるチームであれば、ケンバは有効なオプションになるはずです。

現在、ケンバを狙っていると噂されるのは古巣のホーネッツですが、オフェンシブなチームだけにラメロ・ボールの控えとして、そしてラメロが暴走したときの抑止役としてもニーズに合います。昨シーズン終盤に同じタイプのアイザイア・トーマスを活用しているだけでなく、チーム得点王のマイルズ・ブリッジスがプライベートの問題で契約するかどうかも不明で、戦術的にもチーム事情的にも現実味があります。

ただし、今オフにディフェンス優先のスティーブ・クリフォードにヘッドコーチを代えたホーネッツにとっては、チーム変革の方向性に反する選手でもあります。かつてのエースの復帰を求める感情論もありますが、移籍話は噂から先に進んでいません。

ケンバが優勝に近いチームでのプレーを望むのであれば、ジェイレン・ブランソンの残留に失敗したマブスは選択肢になります。ルカ・ドンチッチとスペンサー・ディンウィディーのアタック能力を中心にしたオフェンスは控え役が足りておらず、逆にビッグマンを厚くしてカバーディフェンスは準備できているので、経験値のあるケンバは良い補強に見えます。ただし、サラリーなど解決すべき問題もあり、具体的な補強として噂にはなっていません。

控えガードが足りていないチームとしてはラプターズも挙げられます。オールスターへと成長したフレッド・バンブリートですが、彼のケガが多かった昨シーズンには層の薄さを露呈しました。個人技を活用するチームだけにケンバの特長も生かせそうですが、弱点のある選手を嫌うイメージもあるチームだけに、ケンバを求めるかどうかは未知数です。

他にもレイカーズやティンバーウルブズなど、積極的にアタック力の高い選手を求める補強に動いているチームや、ウィザーズやセブンティシクサーズなどポイントガードの層が薄いチーム、あるいはベテランのリーダーシップが欲しそうなロケッツのような若手チームもあるだけに、ケンバの行き先は数多く想定されますが、どこのチームもメリットとデメリットが交錯しており、決め手に欠くのも事実です。ケンバ自身も慌ててチームを決めるより、シーズン序盤戦の各チームの状況を見極めて動くことを選ぶつもりかもしれません。

スター選手があっという間に契約すら失ってしまうのはNBAの怖いところですが、近年はカーメロ・アンソニーやドワイト・ハワードのように、スーパースターが全盛期を過ぎてプレースタイルを変え、ロールプレイヤーとしてキャリアを長続きさせるケースもあり、従来とは異なる需要も出てきます。ケンバも、まだまだ通用する得点力を持っているだけに、役割に応じたスタイルチェンジで活躍の幅を広げてほしいところです。