ダーク・ノビツキー

写真=Getty Images

エースから『アウトサイドシュートの上手いビッグマン』に

マーベリックスのダーク・ノビツキーは21年目のシーズンに突入しようとしています。5年前は33分のプレータイムで平均得点は20を超えていましたが、40歳を迎えて肉体的な衰えを隠すことはできず、またNBA全体で速攻の比率が高まってきた中で、ノビツキーのあまりにも遅い動きは目立ってしまいます。それはディフェンスで顕著で、スピードと高さの両面で劣り、ノビツキーがコートにいるとチームは守れなくなります。

そんな理由もあり、昨シーズンはプレータイムを25分以下まで減らしました。それでも得意のシュートでは変わらぬ能力を発揮し、3ポイントシュート成功率40.9%と高精度のアウトサイドシュートを武器に平均12.0点を稼ぎました。かつてのようにポストアップから止められないフェイダウェイシュートを連発する『チームのエース』ではなくなりましたが、『アウトサイドシュートの上手いビッグマン』としてチームオフェンスに流れを生み出し、ノビツキーがコートにいるとチームのオフェンス力は向上しました。

ヘッドコーチのリック・カーライルはノビツキーをセンターとして起用する形を増やしました。その狙いの一つが相手のセンターをノビツキーのマークマンにして、ゴール下から引き出すことにあります。期待のデニス・スミスjr.には豊かなスピードがあり、ノビツキーとのピック&ロールでディフェンスにスイッチを促せば、スピードのミスマッチを作ることができ、同時にアウトサイドに大きく開いて構えるノビツキーをフリーにすると高確率の3ポイントシュートが待っています。

また時には攻守の切り替えの遅さすらも利用してきます。オフェンス時にマーベリックスの選手たちは素早い切り替えで走り出します。ディフェンス側はそのトランジションオフェンスを抑えるために、前を走る選手からマークしていきますが、そんな中で一人だけノロノロとフロントコートに入ってくるのがノビツキーなので、マークマンが捕まえるのが一番最後になります。ゴール下から優先的に塞いでいく結果、そのノビツキーを3ポイントラインの外で捕まえるのが難しくなります。この隙を利用してノビツキーに3ポイントシュートを打たせる形を多用するのです。

デニス・スミスjr.やハリソン・バーンズ、そしてドラフトでルカ・ドンチッチを加えたチームにおいて、ノビツキーは主役ではなくなりました。その役割は限定され、ベテランのロールプレイヤーとしてスポットシューターの役割をこなしています。5年前はシュートの半分以下だったキャッチ&シュートは、昨シーズンは全アテンプトの67%まで増えました。他の選手がお膳立てしてくれて、初めてノビツキーの得点が生まれるのです。

一方で3ポイントシュートの割合が増え、高い成功率を記録したことで、1本のシュートアテンプトあたりの得点効率は全盛期を上回るようになりました。独特のフォームで高い打点から放たれるシュートはブロックするのが難しく、マークがついていても高確率で決める姿は全盛期と変わらず、周囲が作ったチャンスを高い確率で得点に結びつけます。また自分でプレーをクリエイトしなくなった分だけターンオーバーは減少し、キャリアで最も少なくなりました。実は現在のノビツキーはオフェンス面で『非常に優秀なロールプレイヤー』になっているのです。

優秀な3&Dプレイヤーが重要視されるようになってきた中で、ディフェンスでスピードに苦労するものの、時間当たりのリバウンド数でも全盛期を上回る数字を記録しており、自分にできる最大限の仕事をこなしているノビツキー。何より変わらぬ高精度の3ポイントシュートは単にオフェンス面で貢献するだけでなく、デニス・スミスjr.とドンチッチという若い2人のガードに『正しいパスの判断』を促すような存在でもあります。普通のロールプレイヤーがフリーならば無視してドライブしてしまうかもしれませんが、ノビツキーを無視することはできません。

衰えを隠せず、また隠そうともしないノビツキーはマーベリックスが再びプレーオフ戦線に復活してくるのであれば、プレータイムを減らすことでしょう。しかし、その存在意義は大きく、対戦相手にとってもチームメートにとっても無視できない存在であり続けています。