ケイド・カニングハム

機動力のあるディフェンスを強みとするラプターズを一人で翻弄

ドラフト前に水面下で1位指名権のトレードを持ちかけられるほど、ケイド・カニングハムの評価は絶対的なもので、NBAを背負うスーパースター候補と考えられていました。しかし、ケガのため開幕戦を欠場し、同期のライバルたちに一足遅れてNBAデビューを果たしても、平均28分の出場で12.0得点、5.5リバウンド、2.8アシストと突出したスタッツを残しているわけではなく、またフィールドゴール成功率に至っては30%と低空飛行が続いています。

一方でカニングハムとは高校時代のチームメートで、ドラフト4位のスコッティ・バーンズはルーキートップの16.2得点に8.3リバウンドを記録し、フィールドゴール成功率は52%とラプターズの中心選手として大活躍しています。ドラフト上位指名同士が顔を合わせたピストンズとラプターズの対戦カードは、スタッツではバーンズが圧勝するマッチアップですが、『数字では表せない』カニングハムのすごさを体感する試合となりました。

ここまで2勝9敗のピストンズは、1試合のフィールドゴール成功率が45%を超えたことすらなく、勝った試合も再建段階のマジックとロケッツが相手で、低調なオフェンスが続いています。ジェレミー・グラントやサディック・ベイにボールを渡すと個人技での1on1を繰り返すばかりで、チームとして何をしたいのかが見えてこないバスケを見せられていると「もっとカニングハムにボールを持たせろ」と言いたくなります。

カニングハムは自分で攻めることに対してこだわりを持たないようで、テンポの良いパッシングで次々に展開します。それでも普通のエース格と違うのは、パスを出す動きからそのまま連続してスクリーンに行きディフェンスの陣形を崩すと、空いたスペースへとカッティングしてヘルプディフェンダーを引き付け、コーナーに移動してスペーサーにもなることです。主役でありながら『脇役の仕事』もすべてこなし、次々に『次の仕事』を見つけ出しては移行していく判断のスピードが光りました。

ラプターズのディフェンスはこの動きの一つひとつに反応しなければいけないため、カニングハム自身はボールを持たなくても、チームメートはプレッシャーが少ない中でプレーできることになります。さらにカニングハムはオフボールで動いてからボールを受ける前に周囲の状況判断を済ませているため、ボールに一瞬触るだけで次のプレーへと移行できるため、捉えどころがありません。

バーンズだけでなく、OG・アヌノビーとパスカル・シアカムを並べるラプターズは機動力が高く、カバーとローテを繰り返すプレッシャーディフェンスが得意ですが、カニングハムに惑わされたかのように一歩が遅れ、シュートチェックが間に合わなくなりました。ピストンズはシーズンハイを10%も上回る55%のフィールドゴール成功率でハイスコアリングゲームに持ち込みます。

ラプターズはキーマンになるカニングハムにバーンズがフルコートで守ってプレッシャーを強めますが、何もなかったように冷静にいなしていくカニングハムにより、ディフェンスの狙いが機能しません。ただし、カニングハム自身は試合開始から8本のフィールドゴールがすべて3ポイントシュートで、分厚いカバーの前にドライブで切り崩すことはできず、低空飛行のスタッツは相変わらずでした。

しかし、4点リードで迎えたラスト2分半からカニングハムは突如としてギアを入れ替えます。左ウイングでボールを持つと迷うことなく1on1を挑み、身体をぶつけながらのフックシュートを押し込みます。その1分後にはトップから左右にコースを変えるドライブで切り裂き、最後はアヌノビーのブロックをかわすために右手から左手に持ち替えてのフローターで試合を決めました。

10得点3リバウンド4アシスト、フィールドゴール成功率は40%。今日もスタッツは低空飛行だったカニングハムですが、そのスタッツに反してチーム全体を動かす中心となり、オフボールの動きでラプターズを混乱させ、そしてクラッチタイムには自分で攻めて、この試合でたった2本しか打たなかった2ポイントシュートを両方とも決めました。

基本はチームを動かす仕事に集中し、勝負どころでは個人技で決めきる。酷い個人スタッツにハイライト映えしないプレーで他のルーキーから後れを取っているように見えながら、まるでベテランのスーパースターの如き仕事を涼しい顔でこなした20歳のルーキーは、紛れもなくドラフト1位の逸材だったのです。