タロン・ルー&モンティ・ウィリアムズ

タロン・ルー「これは我々が積み上げてきた仕事の成果だ」

NBAは全30チームで構成され、30人のヘッドコーチが職を得る。ここ数年は、黒人ヘッドコーチの少なさが問題視されてきた。選手は全体の4分の3が黒人、あるいは黒人の血を引くミックスだが、昨シーズンに黒人ヘッドコーチが指揮を執ったのは7チームのみ。これに対して選手協会は「不名誉なこと」との声明を発表している。

ティンバーウルブズが今年2月にライアン・サンダースの早期解任を決め、クリス・フィンチを後任に据えた時には、様々な批判が噴出した。ライアンはウルブズの功労者であるフィリップ・サンダースの息子で、若手中心で再建中のチームを若いコーチに託して、指揮官もチームも育成するはずだったが、球団があっさりと方針転換したこと。そしてもう一つは、黒人だからという理由で信頼されず、早期解任に遭ったのではないか、と見られたのが批判の理由だった。

NBAで働く黒人たちは「黒人を優遇せよ」と主張しているわけではない。彼らが求めるのは、肌の色にかかわらずチャンスが平等に与えられることだ。サンダース解任の是非が議論された際、リック・カーライルはバスケットボールコーチ協会の会長という立場で「誰を採用していつ解任するかは各球団が自由に決めるべきこと。しかし、多様な経歴を持つ候補者を透明性のあるプロセスで選考してもらいたい。チームが人を選ぶ際、肌の色が理由で採用のプロセスからはじき出されるようなことはあってはならない。そこに問題があるようであれば、指摘するのは我々の役割だ」と語っている。

これらの議論がベースとなり、『Black Lives Matter』の運動も何らかの後押しをしたかもしれないが、今オフに採用された8人のヘッドコーチのうち、7人が黒人のコーチとなっている。暫定から正式なヘッドコーチに昇格したホークスのネイト・マクミランを始め、マーベリックスのジェイソン・キッド、セルティックスのイメ・ウドカ、ペリカンズのウィリー・グリーン、マジックのジャマール・モズリー、トレイルブレイザーズのチャウンシー・ビラップス、ウィザーズのウェス・アンセルドJr.が加わったことで、新シーズンの黒人ヘッドコーチは13人になる。

昨シーズン、両カンファレンスのファイナルに進出した4チームのうち3チームは黒人ヘッドコーチが率いたチーム(サンズ、クリッパーズ、ホークス)だった。キャバリアーズで優勝歴があり、今はクリッパーズを率いるタロン・ルーは、「これは我々が積み上げてきた仕事の成果だ」と語っている。シーズン途中から指揮を執ってホークスを飛躍に導いたマクミランは「黒人のコーチも機会が与えられれば成功を収めることができる。このリーグには優れた黒人コーチがたくさんいる」と語る。

NBAコミッショナーのアダム・シルバーはこの問題について、「黒人コーチの数は自然な波があるものだが、今は少なすぎる」と以前に語っていた。彼が次に考えているのは女性ヘッドコーチの誕生だ。「いくつかのチームで候補に挙がったものの、採用には至らなかったのは残念だ。我々のビジネスの分野では多くの女性が活躍している。NBAでは性別ではなく人種で多くの進歩が見られるが、性別の面での変化も起きてほしい。遅々として進まないもどかしさはあるが、意識は変わりつつあると感じている」

もともとNBAは『人種のるつぼ』の趣があり、多様性を尊重する文化がある。リーグの中でマジョリティである黒人の権利が語られることが多いが、ヒートを長く率いるエリック・スポールストラはフィリピンにルーツを持つアジア系アメリカ人だ。現在はサマーリーグでニックスのヘッドコーチを日本人の吉本泰輔が務めてもいる。これから人種も性別も超えて活躍するコーチ、スタッフ、ビジネスパーソンが増えていくはずだ。NBAは変化を厭わない。それがリーグの成長に繋がっている。