イタリア代表

3人のウイングが流動的に、オールラウンドにプレーを組み合わせる

フランスとイタリアの隣国対決となった準々決勝は、第4クォーターにイタリアが怒涛の反撃で同点に追い付いたものの、最後は戦力に勝るフランスがルディ・ゴベアのダンクシュートで試合を決めました。敗れはしたもののイタリアのバスケットは素晴らしく、オリンピックに旋風を巻き起こしました。

世界最終予選を勝ち進んだイタリアですが、プレーオフの東カンファレンス決勝に進んだダニーロ・ガリナーリはオリンピック直前の合流となり連携が不十分なことから、チームオフェンスの一部ではなく、個の力が必要な際のオプションとしてベンチスタートになりました。ガリナーリのいないスターターは、ウイング3人が流動的に動き、タイミングとパスワーク、そしてオールラウンドなプレーで個人能力の差を感じさせないプレーを連発します。

それでもフランス戦は、ルディ・ゴベアとムスタファ・ファルの圧倒的な高さに苦しみ続ける展開でした。ドライブからロブパスを出されると見上げるしかなく、ポストアップからパワーで強引にねじ込まれました。ボールマンにプレッシャーをかけ、パスをさせないディフェンスで対抗したものの、NBAプレイヤーも多いフランスとは個の力に大きな差がありました。

それでも運動量で上回るイタリアは、ポジションチェンジを繰り返して選手が激しく動く中で、パスが連続して繋がる鮮やかなオフェンスで対抗します。その中でもイタリアは単なる『自分たちのバスケ』ではなく、『相手の長所を消し、弱みを利用する』したたかさもあり、リムプロテクターのゴベアにマークされた選手はトップやコーナーに出てアウトサイドに引き出し、空いたインサイドで高さやフィジカルのミスマッチになった選手がすかさずポストアップをして起点を作っていきました。空いたポジションには必ず次の選手が入り込み、キックアウト、エクストラパス、ドライブと流れるように連続プレーを組み合わせる『プレーチョイスの巧みさ』で、戦力で上回るフランスに互角に渡り合いました。

ダニーロ・ガリナーリ

NBAのスター選手、ガリナーリをあえてシックスマンに置くバスケ

3ウイングを構成するニコロ・メッリ、アキッレ・ボロナーラ、シモーネ・フォンテッキオのトリオは、全員が205cmを下回るものの、多彩なスキルにシュート力、フィジカルも持ち合わせたバランスの良い選手で、判断能力も高く、マッチアップに応じて『誰が、何をするのが有効か』を見極めてプレーチョイスを大きく変更してきます。そのため、対戦相手との関係性によってスコアリング担当も違います。

フランス戦ではアウトサイドに出てパスを受けたフォンテッキオがスコアリング担当となり、プレッシャーをかけてくるフランスの逆を突くドライブからのミドルや、タフな3ポイントシュートを決めれば、ゴベアがブロックに来た時には瞬時にハイアーチのシュートに切り替えて見事にブロックの上から射貫きました。敗れはしたもののNBAの最優秀守備選手であるゴベアに自分のフィールドでプレーさせないことで渡り合う、見事な戦いぶりでした。

女子日本代表のトム・ホーバスヘッドコーチは独自のスタイルで『新たなグローバルスタンダード』を作ることを標榜していますが、イタリアのバスケットは男子におけるグローバルスタンダードになり得るものでした。圧倒的な高さやスピードという特別な個性ではなく、全員が総合的な能力と高い判断力を持ち合わせたポジションレスアタックを実現しており、さらに戦略的な駆け引きを繰り広げ続けることで、身体能力やサイズの差を感じさせないプレーを構築しました。特に運動量と連携でディフェンスを混乱させていくスタイルは日本も模範とすべきものでした。

ガリナーリというNBAのスター選手すらもベンチに置くことにしたほどの連動性を発揮したイタリアのバスケットは、観客を魅了する楽しさにも満ちていました。ベンチの盛り上がりも熱く、負けていても常に盛り上げっているのはイタリアでした。猛暑のオリンピックで最も熱いチームは、素晴らしいインパクトを残してくれました。