ドノバン・ミッチェル

文=神高尚 写真=Getty Images

ミッチェルがMVP級の活躍をした時、ジャズは……?

夏の補強が進んで各チームのロスターが固まってくると、現地メディアから新シーズンの順位予想が出てくるようになりました。激戦の西カンファレンスでは3連覇を狙うウォーリアーズがデマーカス・カズンズも加えた豪華布陣で当然のように1位予想。それに続くのが65勝を挙げてカーメロ・アンソニーを加えたロケッツです。

しかし、時には2位にジャズを挙げるメディアもいます。戦力的に豪華とはいえないため、2位予想は「ドノバン・ミッチェルがMVPクラスの活躍でもしない限り難しい」と批判されていましたが、むしろジャズの2位以上に推したいのがドノバン・ミッチェルのMVP受賞です。

MVPはシーズンで最も優秀だった選手に与えられる賞ですが、「優秀」という基準は投票者の主観に左右されるものです。しかし、これまでの傾向としてMVPに近づくために必要とされる要素の中でも「チームの躍進」と「得点面での貢献」が最も重要なファクターになっています。そう考えるとドノバン・ミッチェルには現実的にMVPを獲得するチャンスがあると考えます。

60勝を超える「チームの躍進」が期待できるジャズ

近年のMVPは圧倒的な個人スタッツで獲得した2017年のラッセル・ウエストブルックを除いて、最高勝率やそれに次ぐチームから選ばれています。ジェームス・ハーデンは毎年のようにMVPの有力候補でしたが、昨シーズンの受賞は個人スタッツ以上に65勝まで躍進したチーム成績が重要でした。

ただ、このチーム成績は『良いのが当然』だとあまり評価されません。つまりウォーリアーズやロケッツが昨シーズンと同じような成績を残すだけではインパクトに欠けるのです。前年からの『躍進』というのが大きなインパクトになります。その点ではレイカーズに加わったレブロン・ジェームスやラプターズのカワイ・レナード、セルティックスのカイリー・アービングが有力候補になりますが、ジャズもまた躍進が期待されるチームです。

1月半ばで19勝28敗だったジャズは、ミッチェルの成長とともにそこから29勝6敗と一気に勝率を上げ、最終的に48勝34敗でシーズンを終えました。後半のペースだけならばロケッツの65勝を超えており、ヨナス・ジェレブコを除く全員が残留している新シーズンは開幕からその強さを存分に発揮するでしょう。毎年ケガ人に泣かされている点で不安はあるものの、健康状態を保つことができれば60勝は射程圏内。上記の各チームが勝ち星を伸ばしたとしても、48勝のチームが60勝すればMVPレースで最大のインパクトを与える『躍進』となり、そのエースであるミッチェルはMVPの有力候補になるはずです。

具体的な改善点がある「得点面の貢献」

ジャズが躍進するためにも、そしてMVP受賞のためにも、ミッチェルは昨シーズンに20.5点だった得点をさらに伸ばす必要があります。

シーズンが進むにつれエースの地位を固めましたが、10月に平均7.3得点に留まるなどプレータイムの短かったシーズン前半を中心に9試合で1桁得点を記録しています。12月以降は安定して20得点を上回っており、すでにエースとしての地位を確立して迎える新シーズンは1桁得点で終わる試合はなくなるでしょう。負け試合でも19.4得点とルーキーとしては比較的安定しており、チームの調子に左右されない強さもあります。

安定して得点が取れるようになった理由として、スピードを生かした果敢なドライブから長いリーチを使った柔軟なシュートによりインサイドでの得点を稼いだこと、ドライブの脅威によってフリースローを多く獲得できるようになったことが挙げられます。シーズン平均は3.8本でしたが、オールスター以降は5本を上回りました。まだ3ポイントシュートで相手のファールを誘い出すようなスキルは身に着けていないためリーグトップクラスには追いつけないでしょうが、平均5本はペイサーズのビクター・オラディポくらいの本数であり、フリースローだけで平均1点以上は伸ばしてきそうです。

そのフリースローの成功率が80%を超えており、シュートの上手さもミッチェルの特長なのですが、3ポイントシュート成功率は34.0%と課題を残しました。3月には月間で30%を下回るなど、シュート成功率に関してはシーズン後半になるにつれて疲労の蓄積を感じさせました。NBAの82試合というスケジュールはかなり過酷であり、エースとしての負担も増えたことからミッチェルの気力や体力を徐々に奪っていったといえます。

一般的にルーキーにとって、シュートの成功率は2年目に最も改善しやすい要素です。昨シーズンはジェイレン・ブラウンが5.4%、ダリオ・サリッチが8.2%も3ポイントシュートの確率を向上させました。NBAのプレッシャー、チームのシステム、会場の空気、そして次第に溜まっていく疲労の軽減方法に慣れることで、もともとシュートの上手いミッチェルはより安定した成功率を残せるでしょう。

まだ自分の地位を確立できていなかったことで得点が少なかったシーズン序盤、疲労とともにシュート成功率が落ちていったシーズン後半。これらは改善が具体的に期待できる部分であり、新シーズンは平均得点を2、3点は伸ばしてくるはずです。

闘争心とクレバーさで巻き起こしてきたサプライズ

そして最も期待したいのが夏のトレーニングによるパワーアップです。MVPを取るようなスーパースターに共通するのが、毎年大きな成長を見せることです。初めてのオフを迎えたミッチェルには未知数の部分ではありますが、そもそもジャズのファンを魅了したのは、華麗なステップや高い得点力ではなく、ルーキーとは思えない鬼気迫る闘争心と周囲のアドバイスに耳を傾けチームプレーを大切にするクレバーさが同居するメンタリティにありました。

シーズンでの好成績以上に緊迫したプレーオフでの大活躍はミッチェルの評価を大きく上げました。サンダーとのファーストラウンドではリーグ屈指のディフェンダーをドライブで切り裂いて平均28.5点を奪い、リッキー・ルビオがケガで離脱したセカンドラウンドではロケッツのヘルプディフェンスに苦しみ得点は19.4点に留まったものの、ディフェンスを引きつけパスを回して6.0アシストとルビオの代役としてチームを機能させました。

フィールドゴール成功率43.7%を始めとして改善すべき点が多くある中で、闘争心の塊でありながらクレバーでもあるミッチェルが、夏のトレーニングでパワーアップしない理由は考えられません。

MVPの有力候補とするには実績不足のミッチェルですが、チームの躍進が期待され、得点力も現実的に改善する要素があり、夏の成長次第で平均25点を超えてくる可能性も十分にあります。チームの60勝と平均25点オーバーとなれば立派なMVP候補になるはず。ドノバン・ミッチェルが巻き起こす次のサプライズはMVP獲得かもしれません。