ジェリー・コランジェロ

2005年から務める代表マネージングディレクターを、今回で退任

ケビン・デュラントにデイミアン・リラード、ドレイモンド・グリーンとNBAのスター選手が揃う5人制バスケットボールの男子アメリカ代表が日本に到着した。

チームUSAのマネージングディレクターを務めるジェリー・コランジェロは、アメリカスポーツ界のレジェンドだ。1939年生まれの彼は現在81歳。1966年にブルズと契約してプロバスケ選手になったが、2年で選手としてのキャリアをあきらめ、サンズ創設の1968年に初代GMに就任している。当時29歳、プロスポーツ界で最年少のGMだった。1987年に投資家グループの後援を得てサンズのオーナーとなり、同じフェニックスを本拠地とするWNBAのフェニックス・マーキュリーや、MLBのアリゾナ・ダイヤモンドバックスのオーナーだったこともある。NHLのアリゾナ・コヨーテズをフェニックスに誘致したグループの主要メンバーでもある。

その彼がバスケットボールの男子アメリカ代表チームのディレクターに就任したのは2005年夏のことだ。2002年のワールドカップで惨敗を喫し、2004年のアテネ五輪で銅メダルに甘んじたことで、長期的視野に立った代表マネジメントが必要だとされ、彼に白羽の矢が立った。

彼がこの仕事を引き受ける上で出した条件の一つが、選手選考の全権を持つことだった。NBA選手が国際大会に出場するかしないかはデリケートな問題であり、合議制では『政治』が働き、そこから出る不協和音が強いチームを作ることの妨げとなる、と彼は主張した。それから彼は、夏のバカンスと新シーズンの準備を犠牲にしてでも代表チームでプレーしたいと考える選手たちを集めた。彼は2006年のワールドカップに向けたチームを編成する際、この大会に参加した選手は2008年の北京五輪に優先的に参加させると約束した。これはコミュニケーションというより脅しだが、代表チームへの忠誠心の低さを変えるには荒療治が必要だった。結果として北京、ロンドン、リオとオリンピック3大会連続で、コランジェロのチームUSAは金メダルを獲得している。

コランジェロにとっては、今回の東京オリンピックが最後の挑戦となる。高齢であり、病気を抱えてもいる彼は、この大会を最後にグラント・ヒルにその職を譲る。

最後の挑戦は非常に難しいものとなった。2019年のワールドカップでの不振は、レギュレーション変更によるものが大きかったと彼は考えている。FIBAがワールドカップをオリンピックの1年前へと変えたことで、多くのトッププレーヤーが「2年連続でオフを犠牲にはできない」と代表参加を辞退した。ワールドカップの後には新型コロナウイルスのパンデミックがやって来た。NBAのシーズンをやり遂げるのが精一杯の状況では、代表チームは後回しにせざるを得ない。シーズン終了が遅れ、前例のないプロトコルが課せられ、身動きできない状況の中で、コランジェロはできる限り競争力の高いチームを作ろうとしている。

ラスベガスでのトレーニングキャンプも折り返し地点を過ぎたところでブラッドリー・ビールが健康安全プロトコルに抵触して代表チームを外れることになった。ジェレミー・グラントとザック・ラビーンもプロトコル入りで、大会には参加できるが練習に参加できない期間があったマイナスの影響は少なからずありそうだ。不幸中の幸いとも言うべきはバックスとサンズのNBAファイナルが第6戦で終了したこと。GAME7までもつれていたら、フランスとの初戦にデビン・ブッカー、クリス・ミドルトン、ドリュー・ホリデーの3人が間に合わない可能性もあった。

新型コロナウイルスによる影響はどのチームも受けている。健康に留意しながら各選手のコンディションを上げ、チームの一体感を強める、いわば『コートに立つまでの戦い』が非常に難しい。間のなく始まるオリンピックに向け、他のどの国のディレクターよりも経験豊富なコランジェロがいかに手腕を発揮するかが、チームUSAの戦いぶりを大きく左右しそうだ。グラント・ヒルは今回、間近でコランジェロの働きぶりを学ぶとのこと。『レガシー』を継承することもまた、アメリカ代表の重要なミッションとなる。