トレイ・ヤング

ニックスの帽子をかぶり「そんなものはニューヨークでは通用しないぞ」

現地26日に行われるニックスvsホークスの第2戦に向け、トレイ・ヤングの周囲を取り巻く喧騒は増すばかりだ。

プレーオフファーストラウンドの初戦では、レギュラーシーズン平均25.3得点を記録したホークスのエースに対し、マディソン・スクエア・ガーデンを埋めたニックスファンがブーイングを浴びせ、罵声チャントを大合唱した。だが、ヤングは相手ファンからの敵対心と悪意を力に変えるハートの持ち主。ラスト10秒からの攻めで決勝フローターを沈め、1万5000人の大観衆を黙らせた。

かつてのマイケル・ジョーダンやレジー・ミラーがそうだったように、彼は観客を煽る術を知っている。シュートを決めた直後に人差し指を唇に当てて「黙れ」と要求し、ロッカールームに引き上げる時にも撮られているのを知った上で「黙らせてやったのに、また騒いでるのか。知らないよ」と捨て台詞を残した。

長らく続いた低迷期、チームが散々に打ち負かされても、ニックスファンの口から漏れるのはため息だけだった。だが今の彼らは、将来性あるチームを応援できるようになり、プレーオフの緊張感の中で相手選手にブーイングを浴びせる機会まで得た。トレイ・ヤングはその喜びを最大限にまで引き出しているとも言える。

そういったエンタテインメントの仕組みを熟知しているのはニックスの指揮官、トム・シボドーで、アリーナで渦を巻く喜びと怒りの感情に対して「これもゲームの一部。プレーオフとなれば、なおさら素晴らしいものだ」と語る。

ヤングの決めた決勝フローターには非の打ち所がない。今、ファンが批判しているのはトレイ・ヤングのファウルをもらいに行くプレーだ。レギュラーシーズンのフリースロー獲得数は546(1試合平均8.7)で、ジョエル・エンビード、ヤニス・アデトクンボに続くリーグ3番目、ゴール下で肉弾戦を演じるビッグマンならともかくガードでは突出した数字だ。特に今シーズンは、ピックを使った後に急停止し、ファイトオーバーで追いかけてくるディフェンスの接触を誘う『技術』でフリースローを稼いでいる。

これを『卑怯』と見なすのがニックスファンの理屈で、これにニューヨーク市長も加わった。

ビル・デ・ブラシオ市長は現地25日、テーブルにニックスの帽子を置いて市長会見を行った。話題がニックスに移るとその帽子をかぶり、「これは非常に深刻な問題だ」と語り始めた。

「ニューヨーク市民を代表して、そして正しい方法でバスケットボールをすべきと考える人々を代表してメッセージを送りたい。トレイ、ファウルを狙うのはやめろ。そんなものはニューヨークでは通用しないぞ。正しい方法でプレーして、勝てるかどうか試すんだ。ニックスは君に教訓を与えてくれると思う」

最もホットな話題に口を挟むのは、政治家の習性なのかもしれない。こういった盛り上がりは明日のアリーナに足を運ぶニックスファンの気持ちをさらに高揚させるだろう。ヤングへの挑発はロクな結果にならない可能性が高いが、彼がブーイングを力に変える選手としてジョーダンやミラーの域まで行けるのかどうか、それを見る楽しみは間違いなくある。