ドワイト・ハワード

文=神高尚 写真=Getty Images

エースが求めたのは『アスレティックなセンター』

2016-17シーズンに49勝を挙げたウィザーズは、大きな自信を抱いて昨シーズンをスタートさせました。しかしジョン・ウォールがケガで離脱する時期もあって43勝止まり。プレーオフでもファーストラウンドで姿を消しました。

思うような結果を残せなかった理由の一つに、34歳になったマーチン・ゴータットに衰えが感じられ、控えのセンターも活躍できなかったことが挙げられます。他のポジションには若くて優秀な選手が揃っており、センターの補強がオフの最優先課題でした。

ここでエースであるウォールがチームに求めたのは『アスレティックなセンター』の獲得です。ウィザーズにはサラリーキャップの余裕がなく、ドワイト・ハワードはホーネッツとの高額な契約が残っていたため、当初は候補に含まれていなかったと思われます。しかし、ハワードがネッツへのトレードの後、プレーオフチームでプレーをしたいという希望から契約のバイアウトに応じたことで状況は一転し、ウィザーズとの契約に至りました。

ウォールがゴータットのようなスキル面で優れたタイプではなく『アスレティックなセンター』を望む理由はどこにあったのでしょうか。

ウィザーズはディフェンスの良いチームです。特にペリメーターディフェンスに優れ、3ポイントシュートを守るのが上手く、スティールも得意でした。ウォールやケリー・ウーブレイJr.のプレッシャーディフェンスは強力で、ブラッドリー・ビール、オットー・ポーターJr.、マーキーフ・モリスと穴のない布陣です。その一方でゴール下が致命的な弱点で、ブロックショットが少なく、ディフェンスリバウンドも弱いため、プレッシャーで追い込んでも決めらてしまうことが多かったのです。自らを「最高のショットブロックガード」と称するウォールがチーム最高のブロック数を誇ったものの、センター陣のそれは平均1本を下回り、ディフェンスリバウンドもゴータットの5.4が最高でした。

チーム全体が平面でのディフェンスに優れているからこそ、『最後の砦』になれるアスレティックなセンターがウィザーズには必要でした。昨シーズンのハワードはディフェンスリバウンドが9.3、ブロックが1.6とゴール下で強さを発揮。特にリバウンド面では全盛期に近い数字を叩きだしており、リーグでワースト10に入っていたセカンドチャンスからの失点を大きく減らしてくれることが期待されます。

ゴータットにはポジショニングの良さがありますが、全員が動けるからこそゴール下で『最後の砦』になれるアスレティックなセンターをウォールは求めたのでしょう。

ジョン・ウォールのパスを取れるのか

その一方で、オフェンス面には不安要素があります。NBA屈指のスピードを誇るウォールの突破に対して的確なタイミングで適切なポジションを取るゴータットは、非常に良いコンビです。個人の強さとして上回るハワードですが、ゴータットほど気の利いたポジショニングをしてくれるかどうか、つまり『ウォールのパスを取れるかどうか』は、ウィザーズのオフェンスを左右するほど大きな要素です。

ウォールのパスを受けるのは簡単ではありません。徹底的にディフェンスを自分に引きつけるのが彼のスタイルですが、それだけパスコースが限定され、人にではなくスペースにパスを出すことになります。そのパスを受けるにはウォールの意図を察し、そのスペースに走り込むクレバーな選手でなければなりません。その点でハワードはゴータットに劣るため、アスレチック能力でカバーできるかどうかが問われます。

パスの出し手であるウォールからすると、アスレティックなセンターの良い部分はロブパスを使いやすくなることです。昨シーズンのウィザーズはアリウープがチームで56本で、そのうちゴータットに通したものはわずか9本のみ。それがハワードになると彼だけで86本を決めています。ロブパスは新たな武器になりそうです。

一方で合わせのカットプレーで105本のシュートを決めたゴータットに対して、ハワードはわずか21本。ケンバ・ウォーカーがいながら少ないのですから不安が残ります。ホーネッツと違いインサイドの人数が少ないウィザーズなので、ハワードがこの合わせのプレーができるかどうかがカギとなります。

フックシュートやショートレンジのジャンプシュートを45%決めるゴータットに対して、ハワードはジャンプシュートが28%しか決まりませんでした。オフのトレーニングでシュートの改善を図っているようですが、そこの上手さよりもゴータットよりも141本も多く決めたダンクに持って行くのが、アスレティック能力を求めたウォールの要望のはずです。

トランジションゲームで存在感を発揮せよ

またトランジションゲームを成功させるためにもアスレティック能力が必要になります。2016-17シーズンのウィザーズは速攻での得点がリーグ5位でしたが、昨シーズンは15位まで転落しました。

ハワードがディフェンスリバウンドをしっかり奪い、アウトレットパスが早くなれば、ウォールのスピードにより速攻のチャンスが広がります。ホーネッツ移籍後のハワードは速攻のフィニッシュに参加することも増えており、得点力アップに期待が持てます。

一方でディフェンス面でそれほど献身的とは言えないのもハワードです。ホーネッツ自体がインサイドを固めることを優先して外からは打たせていましたが、アウトサイドまで追いかけ回すウィザーズはチームで連動するディフェンスが重要で、1人がサボることで大きな穴ができます。アスレティック能力は高くなくてもしっかりとチームディフェンスにおける自分の役割をこなしていたゴータットに比べると、ハワードには大きな不安が残ります。

ウィザーズはアスレティック能力の高い選手を揃えており、機動力の高いウイングでスモールラインナップにする事もできるチームです。ハワードが早い展開の中で献身的なプレーができず、弱点ばかりが目立つようになればプレータイムを失うことになります。

NBAを席巻したハワードもリーグ全体の高速化の煽りを食らい、気がつけばジャーニーマンになりました。チームとともにトップ戦線に再浮上できるのかどうか。カギを握るのは「ウォールのパスをとれるか」と「献身性」の2つです。