カイリー・アービング

「僕は自由にプレーさせてもらっている。贅沢な話だよ(笑)」

ジェームズ・ハーデンがロケッツにトレードを要求し、移籍先候補の一つにネッツの名前が挙がった時点で、カイリー・アービングとケビン・デュラントとの『ビッグ3』はネガティブな見方もされた。トレードが成立し、実際に彼らが同時にコートに立つと大きな注目を集めたが、そこには疑念が少なからずあった。

ハーデン、カイリー、デュラントは3人ともボールを持って自分からアクションを起こすタイプだが、ボールは一つしかない。それぞれがエゴの強いプレーヤーとは言わないまでも、自分を殺してプレーするようでは上手く機能しない。

しかし実際には、ハーデンがデビューした1月13日のナゲッツ戦から、ネッツは11勝6敗と結果を出している。それまでは5勝6敗と負け越していたのだから、変化は明らかだ。カイリーがチームを離れていたり、デュラントが新型コロナウイルスの安全衛生プロトコルにより出場できなかったりとトラブルに見舞われながらも、チームは結果を出している。

その最大の要因はハーデンのプレースタイル変更だ。ロケッツではオフェンスの全権を担っていた彼は、ゲームメークにより比重を置くことで『交通渋滞』を解消した。昨シーズンは平均34.3だったハーデンの得点は、ネッツに来て23.0と大きく下がっている。それでもアシストは7.5からキャリアハイの11.6へと伸び、ネッツに来てからの14試合のうち、7試合でチームトップのアシストを記録。カイリーとデュラントはもちろん、他の選手にもパスを出し全員を動かすことで、チームオフェンスを機能させている。

それに伴い、ポイントガードのカイリーの役割も変わりつつある。ハンドラーの仕事をハーデンに任せ、彼は得点を取ることにより重きを置くようになった。

「彼はポイントガードの仕事を見事にやっているよ」と、カイリーはハーデンの働きぶりを認める。「多分、チーム内で役割分担が確立できたのは4日前(ペイサーズ戦)だろうね。僕は彼のプレーを見て、『君がポイントガードだ、僕はシューティングガードをやる』と伝えたんだ。彼がゲームメークを担ってくれるおかげで、僕は自由にプレーさせてもらっている。贅沢な話だよ(笑)。ここからは単にシュートやパスだけじゃなく、高いレベルでプレーするために必要な細かなことを突き詰めていく。そこに集中したい。チームとしても上手く機能しているから、この調子で続けていきたい」

ハーデンを獲得するために多くの選手をトレードに出し、選手層は薄くなった。特にディフェンスとリバウンドに難を抱える状況は続いているが、『ビッグ3』を形成する時点では一番の難題だった彼ら3人のケミストリーは、予想以上のスピードで良くなっている。今シーズンのネッツがどこまで勝ち進めるか、ファンだけでなく彼ら自身がそれを楽しみにしているはずだ。