昨年の福岡第一は超高校級のガード、河村勇輝を擁して勝利を重ね、インターハイとウインターカップの2冠を成し遂げた。その時のスタメンは全員が3年生で、彼らが卒業した今年のチームは実力が落ちるとの見方もあったのだが、ウインターカップ予選での福岡大学附属大濠、さらには天皇杯での大学生と社会人チーム相手に堂々たる戦いぶりを見せたことで、その評価は急上昇している。井手口孝コーチに、コロナ禍でのチーム作りとウインターカップに懸ける意気込みを聞いた。
「私は練習試合でも常に負けたくありません」
──ウインターカップ開幕が近づいてきましたが、まずはコロナ禍でのこの1年の振り返りからお願いします。
最初の地区大会で大濠に負け、しかし県大会で盛り返して、今年も良いバスケットができそうだと思ったところでコロナになり、練習できないのがこんなに辛いのかと思う4カ月でした。インターハイも国体もなくなり、ようやくこのウインターカップで新人戦を迎える感じですが、とにかく今は大会が開催されることに感謝しています。
学校も閉鎖になったのですが、誰も来ないわけにはいかないので実は私は毎日体育館に来ていました。一人で体育館を掃除して、留学生が残っていたので少し練習させて、ケガしている選手のリハビリをやって。普段は生徒が掃除をするのですが、家にいても落ち着かないので。その後は床の改修工事があったので、床を剥がされてきれいになっていくのを毎日眺めていました。あらためて体育館が好きなんだと思いましたね(笑)。
──県予選では大濠と『全国レベル』の激しい試合がやれました。他県のコーチから見ると、うらやましい経験のようです。
あそこまで持ってくるまでに県協会と高体連が随分苦労して、安全に最大限の注意をしながら最後の11月3日を迎えることができました。スポンサーがついてテレビの生中継があり、会場のアクシオン福岡もお客さんを入れることを認めてくれて、いろんな人の思いがあって成立した試合でした。我々に限らず1回戦からずっと、生徒をコートに立たせてあげたい、大会を経験させてあげたい、という先生たちの思いがこもった大会になりました。
──福岡第一はそこから天皇杯の1次ラウンドを戦っています。京都産業大に勝ち、B3のアイシンAWに敗れています。
実はその前の2日間は日体大に行って練習試合をしているんです。初日はワンゲームちゃんとやって勝って、次の日はセカンドメンバーで戦って、こちらも逆転勝ちしました。その前には東海大九州、九州電力さんにも胸を借りて、勝たせてもらっています。強い相手と公式戦で当たる機会はなかなかありませんし、特に今年は試合経験が積めなかったので、すごくありがたいですね。
私は練習試合でも常に負けたくありません。大学生とやると負けることも多いです。高校生同士でもこちらがBチームで相手がメインのメンバーで苦しいこともありますが、同じレベルだったら負けちゃいけない。セカンドチームの試合でも負けたくありません。その選手たちはいずれスタートになるわけですから。タイムアウトにしても、県大会では一回も取りませんでしたが、大学生との練習試合となれば結構取ります。練習試合なら負けても良いと思って取らないコーチもいますが、私は負けたくない。練習試合はオフェンスやディフェンスのいろんなパーツの練習ですが、ゲームそのものの練習でもあります。だからレフェリーも良い人に来てもらってちゃんとやるんです。
「県を挙げてバスケをやってきた自負がある」
──ウインターカップの組み合わせが出ました。今回はコロナの状況もあって、福岡第一もシードから外れて1回戦からです。
先輩たちが取ってきたシードを大切にしてくれなかったことには怒りしかありません。選手たちは後輩たちが少しでも良い位置から来年スタートできるように、地区大会でも「ベスト4に入れなくても、8位より5位に」と頑張るわけです。これはどの競技だろうがどのカテゴリーだろうが当然のことで、それが一気に外されました。去年のインターハイとウインターカップのポイントは、今年のウインターカップに使われるべきです。九州の1位が第1シードだし、もっと言えば福岡は4チーム出場できたということです。県を挙げてバスケをやってきた自負があるし、九州みんなで力を合わせてもいます。それがカットされたのは悔しくて仕方ない。
初戦の四日市工業は常連だし、次が北海道栄だったら「出場おめでとう」と電話したばかりの、一緒にやっている仲間のチームです。どこが勝ってくるか分かりませんが、準々決勝で開志国際なのか明成なのか、そこがポイントでしょうね。
──去年は圧倒的な強さで無敗を誇りましたが、そのスタメンは全員3年生で卒業して、今年は去年ほど下馬評は高くありません。
私自身もそう思います。比べちゃいけないけど、河村勇輝だったら、小川麻斗だったら、クベマジョセフ・スティーブだったらと時々言いたくなります(笑)。だけど、今年は今年なりに力を付けています。スタートのレベルは少し落ちるかもしれませんが、當山修梧も砂川琉勇も良い、佐藤涼成も捨てがたいという感じで、7~8人で上手く回せます。
ただ、結局はジュニアとアリなんですよ。この2人が40分プレーすることが必須なのですが、現実的にはそうもいかない。そこを當山や砂川が埋めてくれています。
──県予選の大濠戦、天皇杯での試合を見ても、点差が離れてもあきらめず、勝負どころで押し切る力があります。
今の選手たちは勝っている先輩たちの姿を見ているから「負けるわけがない」と思ってプレーしていることが一つあると思います。去年のウインターカップの東山戦しかり、あれだけ離されてもやるべきことをやれば追い付けると信じている。私の中にもそういう気持ちは若干あって、それが選手に伝わっているのかもしれません。私が焦ったり怒ったりせず、普通の顔をしているから「まだ10点だもんな、まだ15点だもんな」ぐらいに受け止めているようです。
「今年はディフェンス、そして3ポイントシュート」
──今年のチームはどこがポイントになりますか?
ウチはやっぱりディフェンスです。去年ほどサイズがない分、オールコートもあると思っています。あとは意外と3ポイントシュートかもしれません。シューターは波があるもので、前半は落としてもどこかで来ると信じて我慢するのは難しいです。ただ、3ポイントシュートをただ打つだけでなく、打たせるためのバスケットがあり、リバウンドの保証があるとか、オフェンスを組み立てる中で3ポイントシュートを使う比重が今年は多くなってくると思います。
──オールコートのプレッシャーディフェンスは、昨年のウインターカップでも要所で効果を発揮しました。
通用するかどうかは分かりませんよ。天皇杯では大人が相手だから通用したのかもしれない。大人のチームとやる時は、相手に上手くコントロールされたら勝てっこないので、40分のうちの20分1秒でいいから自分たちのペースに引き込もうとして考えたものです。ボールを取れるとは思っていなくて、ただアップテンポにするためのオールコートなんです。一つ戦力になるのであれば使ってみたいですが、最初から使うのか、いざという時のギャンブルに取っておくのかは難しいですね。6試合あるので。
──ウインターカップに向けての意気込みを教えてください。
このコロナの状況で、ウチだけではなく全チームが苦しい思いをしたと思います。結局、お父さんもお母さんも一度も子供の試合を見ることができなかった、というチームがたくさんあるんですね。そんな中で私たちはこの前の県大会で保護者の前で試合ができましたし、今回もウインターカップを開催してもらえます。そういうことへの感謝の気持ちはしっかり持っていたいです。
また、コザ中学校を長く指導されていた松島良和コーチが今は病気で入院していて、ジュニアウインターカップ予選でもベンチに入れませんでした。ウチも並里成からコザ中とお付き合いがあって、今年も3年生3人が主力で出ていますから、良いご報告をして恩返ししたいという気持ちがあります。だからコザ中出身の3人には特に頑張ってほしいですね。また西福岡の鶴我隆博コーチも今年が最後で、これは大濠も同じでしょうけどモチベーションが上がらざるを得ない。ウチの松本宗志と大濠の平松克樹、両キャプテンは鶴我先生の教え子ですから楽しみです。
もちろん、最後は大濠とやりたいですね。順当に行けば大濠は上がってくるでしょう。今年は我々の方が準々決勝、準決勝と苦しいかもしれません。それでも、今年も決勝まで行って大濠と対戦したい気持ちは強く持っています。