ウインターカップの兵庫県予選は11月1日に決勝が行われた。女子では神戸龍谷と三田松聖が対戦。なかなか点差の離れない展開の中で、チーム一丸となってターンオーバーをせずに我慢し続けた三田松聖が80-74で接戦を制し、ウインターカップ初出場を決めている。全国を経験していないチームの試合運びとしては驚くべきものだし、この女子バスケ部が創部4年目であると聞けばさらに驚かされる。赴任とともにチームを立ち上げ、4年で全国へと導いた初谷洋志コーチに話を聞いた。
「部員数は19名、一人ひとりと向き合う」
──2017年に赴任してバスケ部を立ち上げたと聞きました。どういう形でのスタートだったのですか?
私はもともと公立高校に勤めておりまして、公務員として23年間やってきました。前任校は市立西宮高校で、甲子園のプラカードで有名な学校です。そこで2011年の秋田インターハイに出場できて、公立校で全国に行けたことが大きな自信になりました。そうしてお話をいただいて、公務員を辞めて私学に来たことになります。
──初谷コーチのこれまでのキャリアはどんなものですか?
小学校では野球をやっていて、中学1年生で兄の影響でバスケをやるようになりました。3年生の時に一度だけ市の選抜に入って、それで強豪の育英高校の監督に引っ張っていただいて、全国を経験しています。
バスケを始めて1年で地区大会のベスト8で負けた時に、相手の監督のところに「なぜ僕らが負けたのか」と聞きに行くぐらい悔しかったんです。そこで「どうやったらあの人に勝てるんだろう」と思って、それなら教員になればいいんだ、と中学校の教師になることを志しました。その後にインターハイがある高校の方が面白いと考えて、日本体育大を出て高校の教員になりました。
日体大では1年間は1軍でやらせてもらい、その後は2軍でキャプテントレーナーという指導者の道に進み、大学生ながら大学生を指導する経験をさせてもらいました。日体大の同級生が古田悟と赤穂真で、すごく仲が良いです。また付き合いが深いのが日大の長谷川誠で、今も定期的に学校に来てチームを指導してくれます。
──長谷川さんは全国を駆け回って指導していらっしゃる感じですが、具体的にどんな指導をしているんですか?
私の練習にスパイスを付けてくれます。その質の高さは私たちの基準とはちょっと違いますね。 例えばシュートドリルも45秒1セットの時間制限をつけていたのを、長谷川は「35秒にしよう」と言うんです。こちらとしては「10秒も上げるの?」という感じなんですけど「できるできる」と。そして実際にやらせてしまう質の高さがあります。
──外部コーチとしては心強いですね。では練習施設などの環境面はいかがですか?
抜群の環境ですね。それを求めて公立校を辞めてきたのもあります。専用のコートがあって、寮もあります。部員数は19名ですが、一人ひとりと向き合うという意味ではこれぐらいの人数が好きですね。
リバースターンで分かる「すごい感覚を持っているな」
──バスケ部を作ったばかりでは、強化の対象であっても選手を集めるのは難しいのでは? どういった基準で選んでいますか?
全員が推薦なので、能力が高い選手はいるのですが、すごい実績を持った子はいないので、伸びしろのある選手を取るようにしています。一番は素直な選手を取りたいと思うのですが、そこは長く付き合って話してみないと分かりません。プレーをパッと見て気に入るのはリバースターンができる子ですね。生活の中でリバースターンの動きは普通ありません。それがバスケで自然にできる子は身体の使い方が上手いのだと思います。もちろんシュートが上手いかどうかは大事ですが、リバースターンを見せられると「すごい感覚を持っているな」と思います。
身体の使い方には私自身にこだわりがあるので、他のチームとは少し違うと思います。まずは立つ時に足の裏のどこに体重を乗せるか、一歩目ではどうするか。フィニッシュのところもオフボールのところもすべて美しい姿勢で、というのを意識しています。
戦術的なことでは、14メートル×15メートルのハーフコートの中に道路標識があるとイメージする。これが選手の頭の中で整理できればスムーズにプレーできると私は思っています。そして、できるだけたくさんの選手を使うようにしています。これは公立校で強豪校の壁を乗り越えるためには人数が欲しい、そういうことでこのスタイルになりました。
──今回、準決勝で市立尼崎を破り、決勝で神戸龍谷を破ることができた一番の要因は何でしょうか。
今年の3年生が2期生なのですが、目標がはっきりしていて、めちゃくちゃ気が強いんです。1期生の子たちはすごく真面目だったんですけど、2期生はやんちゃ娘ばかりです。気が強い分、勝ち負けに対する強いこだわりはベースとしてありました。
でも仲間と連携するとか、良い繋がりをなかなか持てなかったので、今年は仲間への感謝、仲間のために頑張るという行動にフォーカスさせました。具体的には「ありがとう」、「ごめん」、「ドンマイ」の3つの言葉をコート上で出そうということで、その言葉が出てきたところから、選手たちの繋がりがすごく強くなりました。
──今年は新型コロナウイルスの影響で指導も大変だったと思います。コロナの期間中にはどんな取り組みをしましたか?
3月の2週間ぐらいは個人で走るだけの状況でしたが、4月に入ってコロナが長期化すると分かって、月水金に朝8時から45分のZoomミーティングと90分のトレーニングをやるようになりました。ミーティングでは『成功する人とは』というような動画を探してきたり本の解説だったりをみんなに見せて、それからグループディスカッションです。5人の3年生をリーダーにしたのが大きかったです。1年生が入学した時にはもうコロナの時期だったので、「この子のことを何も知らない」という先輩が多いわけです。僕もその子の性格が分からず会話もない状態でコロナになってしまったのですが、そのグループディスカッションで発表することで「この子はこういうことを考えるんだ」というのが分かり、それぞれの個性も見付けることができました。
そのおかげで、コロナが明けてからの練習はすごくスムーズでした。Zoomでやっていた分、普段のミーティングもすごく良いものができるようになりました。一番のテーマは「ここでやるかやらないかが、ウインターカップ予選の差になる」で、技術的なことよりもその言葉が選手たちにフィットしたのが良かったです。「一日をデザインする」という言葉も良かったですね。それまでは練習メニューがすべて決まっていたのですが、コロナ以後は、1日の生活の中で隙間時間をどうするのか、自主練を全部自分で決めるようになりました。チームの中でも「デザインしろよ」みたいな会話が増えたので、その変化は面白かったです。