セブンティシクサーズ

個性を発揮させるリバース、戦術で縛るデビッド・イェーガー

クリッパーズを率いていたドッグ・リバースが辞任すると、新たなヘッドコーチを探していたシクサーズは飛びつくようにオファーを出し、辞任からわずか3日で就任が決まりました。ですが、問題はここから先。ジョエル・エンビードとベン・シモンズのコンビを中心とするのか、それともトレードで大きく動くのか、チームの構築方法にも注目が集まっています。

マイク・ダントーニがヘッドコーチ候補だった時期はジェームズ・ハーデンの獲得に動くとも噂されていただけに、ヘッドコーチと中心選手の相性は重要です。リバースは人情味溢れるコーチとして選手からの尊敬を集め、人気がありますが、その最大の理由は選手の意思を尊重した戦術構成にあります。自分が考えるシステムに選手を当てはめるのではなく、それぞれが得意な武器を発揮していく中で生まれるチームケミストリーを重視しており、最低限のルールしか課さずに好成績を上げてきました。

しかし、リバースの方針は『選手の能力任せ』というデメリットも大きく、個人アタックの組み合わせでしかないオフェンスは突然停滞することもあります。プレーオフでクリッパーズがナゲッツに敗れたGAME7はまさにその悪い部分が出ました。

一方でシクサーズもまた同じような負け方をしています。シモンズの欠場によって苦しくなったことは致し方なかったものの、エンビードが『孤軍奮闘』したように見えたプレーオフは、個人で突破するしか形がなく、どんなにエンビードが得点を奪ってもチームオフェンスの効率は上がりませんでした。

これまでの『選手の能力任せ』を発展させるタイプのヘッドコーチととらえれば悪くはありませんが、同じ失敗を繰り返す未来が今から見え隠れしているような気がします。エンビードのトレードについていまだに噂が絶えないのは、今のシクサーズが抱える問題がリバース招聘では解決できないと思われているからでしょう。

ただ、リバースはアシスタントコーチにグリズリーズやキングスでヘッドコーチを務めたデビッド・イェーガーを招き入れました。ビッグマンを中心としたシステマティックなオフェンス構築に特徴があるコーチだけに、エンビードを軸とした戦術構築を前提とした人選と思われます。イェーガーが有効活用していたザック・ランドルフの強引なまでの押し込みを、そのままエンビードにやらせることは面白そうです。

一方でイェーガーは選手をガチガチにシステムに押し込めるタイプで、キングス時代には6点ビハインドの残り18秒で3ポイントシュートを決めたバディ・ヒールドに「意図したプレーと違う」と文句を言い、口論に発展したこともあります。

個人に自由を与えるヘッドコーチと、その真逆のタイプのアシスタントコーチの組み合わせから、どのようなスタイルが生まれるのかは興味深いところ。特にトランジションでの即興的な判断力と、独特のプレースタイルを持つシモンズのプレーは大きく影響を受けそうです。

トランジションで強みを発揮するシモンズとしては運動量が多くてオフボールで巧みに動く選手が欲しいはずで、一方で戦術能力が高いとは言えないエンビードの周囲にはコンビプレーの上手いパサーを揃えたい。そんな両者を並び立たせるためには様々なタイプの選手をロスターに加えて選手起用でプレーに幅を持たせたいところです。共通するのが3ポイントシュートの上手い選手ですが、噂に上がるヒールドはイェーガーとの関係性に疑問符が付いており、コーチとの相性も考える必要があります。

リーグのサラリーキャップが決まらない中でトレードにも動きにくい状況が続いていますが、シクサーズのロスターには高額契約の選手が多く、ロスターを変更するにはビッグトレードが発生することとなります。サラリー調整のための玉突きトレードも含めて、シクサーズを起点として一気にトレード市場が活発化する可能性があります。現行の主力で新たな戦術を築き上げるのか、それともコーチ陣の発想にあった選手を集めるのか、シクサーズの動向をどのチームも注目しています。