文=鈴木栄一 写真=鈴木栄一、野口岳彦

日本代表にもたらしたい要素は「WIN!!」

ワールドカップのアジア1次予選のオーストラリア戦、チャイニーズ・タイペイに向けた日本代表の候補選手に、4月末に帰化を果たしたニック・ファジーカスが選出された。長らく日本代表において最大のアキレス腱となっていたゴール下での得点力不足、リバウンド力改善の特効薬として大いに期待される『Bリーグ最強ビッグマン』のファジーカス。「代表に何をもたらしたいか」を書いてほしいとお願いすると、力強い文字で「WIN!!」と書いてくれた。

日本代表のユニフォームを着ることについて「とても光栄なことで興奮している。試合が待ちきれない。メディアはみんな僕が代表に呼ばれると予想していたと思う。正直に言って、僕も呼ばれたらいいなと期待していた」と、自身も望んでいたAKATSUKI FIVEへの加入だった。

それでも、喜んでばかりはいられない。0勝4敗とチームの置かれている苦境を理解しているからこそ「WIN!!」と書いたのだ。まず彼が強調するのは、チャイニーズ・タイペイ戦だけでなく、アジア最強チームのオーストラリアにも貪欲に勝利を狙いにいく姿勢だ。

「前回の試合も第4クォーターを迎える前までは競っていた。そこに僕と(八村)塁が入ることでチャンスが生まれることを望んでいる。アンダードッグの扱いであることは分かっているけど、ホームゲームでスタンドは満員になるだろうし、みんな日本を応援してくれる。当然、チャイニーズ・タイペイとの試合には必ず勝たないといけない。だからスローガンは『WIN!!』だ」

この試合、オーストラリアにはマシュー・デラベドバ、ソン・メイカーと2人の現役NBA選手が参戦する。しかし、ファジーカスは「相手にNBA選手がいるとか気にしない」と言う。「NBA選手であっても、自分と同じようにユニフォームを着て、シューズを履いてプレーする。いつもそう自分に言い聞かせている。それにNBA選手だからといって必ず活躍できるとは限らない。日本でも元NBAの肩書きで来て、みんなの予想を下回るプレーの選手を見てきた。NBA選手であっても、他の選手と違うように対処することはない。実際に対峙して見るまでは分からないことはあるし、試合中にアジャストしていくだけだ」

「大学時代は、よくアンダードックとして戦い、そこで勝ってきた。オーストラリアが相手でも、勝つチャンスはあるよ」と、ファジーカスは番狂わせを虎視眈々と狙っている。

この世紀のアップセットを果たすために不可欠となるのは、ファジーカスと八村による日本バスケ史上最高のインサイド陣が、ゴール下のリバウンド争いで五分に渡り合うこと。八村について「塁はとてもスペシャルなタレントだ。彼と一緒にプレーできるのは楽しいよ。彼はNBAに行ける才能の持ち主であり、NBA選手と一緒にプレーしているような感覚だ。彼の能力から言って、これまでの日本人選手とは違うのは明らかだ」と絶賛している。

『チームプレーあっての自分』という姿勢は変わらず

チーム合流から間がないため、フリオ・ラマスのスタイルにどこまで順応できるのかは気になるところだが、ファジーカスは特に心配していない。「ラマスとは同じ方向を向いている。とてもオープンな関係でコミュニケーションを取れている。たくさん話し合っているので、素早く彼のやりたいことを吸収できるし、これからの練習で十分間に合うと思う。川崎の時と、プレースタイルは少し違うかもしれない。もしかしたら、インサイドでのプレーがちょっとだけ少なくなるかもね。ただ、ラマスは僕が気持ち良くプレーできるように考えてくれている。川崎の時と自分の役割は変わらない。勝つためにプレーするだけだ」

そして、ファジーカス、八村という2人の新戦力が救世主として大きな注目を浴びている現状ではあるが、ファジーカスは自分たちが大エースとして大暴れしなければ勝てないとは考えていない。『チームプレーあっての自分』という姿勢は川崎時代と同じだ。

「僕と塁のどちらかスーパーマンになる必要はない。僕らがチームを助けるのと同じように、他の選手たちもたくさん僕らも助けてくれる。みんながやるべきことをやれば、すべてはうまくいくと思う」とファジーカスは言う。

「ラマスのシステムは素晴らしくて、みんながボールに絡んでいく。チームトップの得点、リバウンドを挙げるようなプレーを見せたいけど、自分のワンマンチームのような感じでプレーをしてはならない。タフな体勢からのシュートを打つのならば、チームメートにパスをすべきだよ」

「オリンピックは人生における一大イベントとなる」

日本代表の合宿はNTC(ナショナルトレーニングセンター)に缶詰めになって行われている。普段とは全く違う生活のリズムを強いられ、ファジーカスも「NTCでの生活は高校や大学時代の寮生活を思い出させるよ」と苦笑するが、「ただ、こうして練習、食事、身体のケアとみんなで一緒に過ごすことは、より早くお互いをよく知りチームの一体感を高めていくためには良いこと」と、厳しい合宿の日々も楽しんでいる。

常にチームとして行動する濃密な時間を過ごすことで、「一緒のチームになることで、今まで知らなかった他の選手についてパーソナリティーについていろいろと知ることができるのも興味深いね」と語るファジーカス。

例えば今シーズンのBリーグMVPである比江島慎についての印象を聞いてみた。「比江島は、今まで自分が会った中で最も物静かな人かもしれない。彼はあまり話さない。ただ、コート上での彼のプレーはとても雄弁であり、素晴らしい選手だ。逆に辻はよくしゃべっていて、周りを笑わせようとしている。みんな、それぞれ違う個性を持っていて、それを知るのも楽しいね。辻は時々、僕の通訳を務めてくれるよ(笑)」

まずは日本代表の一次予選突破へ集中するファジーカスだが、視線の先には東京オリンピックがある。「シーズンが終わった後、10日くらいアメリカに帰って家族と過ごした。家族や友達は、みんな帰化を喜んでくれた。もし、オリンピックに出場することになったら、会った人が全員、『東京まで応援に行く』と言ってくれたよ。家族や友人たちの前で、オリンピックをプレーできたら本当に人生における一大イベントとなるだろうね」

この一大イベントを実現させるためにも、まずファジーカスはオーストラリア戦、チャイニーズ・タイペイ戦で日本代表を勝利に導くことへ全力を尽くす。これからのAKATSUKI FIVEの屋台骨となるファジーカスの日本代表でのプレーする姿をファンは心待ちにしている。