文=鈴木栄一 写真=鈴木栄一、FIBA.com

ケガを抱えるも『吉田の後継者』の自覚と自信

9月のワールドカップと8月のアジア競技会という2つの目標に向けて準備を進める女子日本代表は、先日にチームのメンバー分けが発表された。ワールドカップ組はフルメンバー、アジア競技会は若手中心の構成となったが、吉田亜沙美と大﨑佑圭が外れたことは大きな衝撃だった(後に大﨑は所属するJX-ENEOSから妊娠していることが発表されている)。

こうなると注目を集めるのは、長らくポイントガードとして、そしてリーダーとして代表を引っ張って来た吉田の後継者をどうするのか。現在のワールドカップ組のポイントガードには、藤岡麻菜美、町田瑠唯のアジアカップ優勝メンバー、リオ五輪代表の三好南穂、ここにきて成長著しい本橋菜子の4名が名を連ねている。

一番手として期待したいのが、昨夏のアジアカップで大会ベスト5に選出された藤岡だ。しかし、昨秋のWリーグの開幕直後に骨盤の剥離骨折と腱断裂を負い、リーグ戦の出場はわずか2試合のみ。長らくプレーできない状態を乗り越えて代表合宿に参加したとはいえ、「対人練習については、ハーフコートのオフェンスでの5対5と限定されています」とまだまだ完全復活ではない。

「ちょっとずつという感じですが、一次合宿に比べるとボールへの感覚はだいぶ戻っている感覚です。コンタクトへの怖さはないですけど、許可が出ない。早くやりたいという思いはあります。(来日している)ベラルーシ代表と練習試合をやるなどチームがより実戦的になっていくのに、自分はそこまで進めていない。気持ちの葛藤はあります」と焦りを率直に認める。

しかし、対人練習も満足にできていない中でも代表に選ばれ続けていることで、トム・ホーバスヘッドコーチの信頼を感じられてもいる。「バスケをやっていない状態なのに合宿スタート時の52名から人数が絞られていく中で残っているのは、トムさんが去年の実績を評価してくれていると思います。そこは自信を持ってやりたいととらえています」

「アジアカップでやれたのは自信になっています」

不安がないわけではないが、だからといって冷静さを失ってはいない。今の自身にできることを行うとともに、絶対に復活できると強い気持ちを持っている。「自分だったらこうする、とイメージをしながら練習を見るように意識しています。どうしても入った時、みんなと比べるとコンディションでは下の状態だと思います。でも、そこは頭でカバーできるところはあります」

「今、焦ったところで自分のできることは変わらない。しっかり芯を持ち、自分の目標であるワールドカップでコートに立っている。もっと先の目標だと2020年にメインでコートに立っている。WNBAに挑戦している自分の姿をイメージしています。自分を信じないと絶対に努力だったり、ポテンシャルは引き出せない。何があっても自信だけはなくさないと心掛けています」

「自分がリュウさん(吉田)の後を継ぎたい。継ぐのは自分だと思っています」と以前から言い続けている藤岡だけに、吉田不在で初のビッグゲームとなるワールドカップでの先発ポイントガードの座を譲れない思いは強い。しかし、ポイントガード4名の中における今の自身の位置については「去年からケガなくWリーグのシーズンをプレーできていたら、自信を持って自分がポイントガードの1番手で出たいと思えます。ただ、今は半年以上も試合形式の対人練習をやっていないので、一歩下がったところにいます」とコメント。「気持ちと現状は別に把握してとらえないといけない」と続ける。

「正直に言うと、思っていたより早かったというタイミングだと思いました。ただ、リュウさんから代表から外れた気持ちはストレートに聞いています」と後継のタイミングについては驚いた部分もあったと藤岡は言う。ただ、気持ちの切り替えはすでにできている。

「けど、そういうことは言っていられないですし、いつかはこういう時がきます。やっぱり若い時から、そういう経験をしていた方が、その後のキャリアも積んでいけるのでプラスに考えています。去年はアジアですが、あそこまでできたのは自信になっています」

若手からリーダーへ「引っ張ってやっていくしかない」

代表だけでなくJX-ENEOSでもチームメートである藤岡は、他の誰よりも吉田イズムを体感しており、だからこそ譲れないという思いも強調する。「リュウさんが今まで代表で築いてきたもの、JXでやってきたことを自分は分かります。代表の人は、代表でのリュウさんの姿しか分からないですが、自分はチームでも見てきました。今はそういうものをなかなか示せていませんが、全部のメニューに入れた時はリュウさんが示してきた思い、それに加えて自分の考えているメンタリティ、大事にしてきたことを含めながらやっていけたらいいかなと思います」

そして実際、今も吉田と連絡を取っており、早く復帰したいと焦ってしまいがちな中で大きな助けになっていると明かす。「リュウさんと電話をしたりしますが、一番にケガのことを考えてくれています。合宿が進むにつれていろいろな葛藤が絶対あると思うけど、ここまで我慢したのにまたケガをするとこの先に何もなくなってしまう。最悪は大会に間に合えばいいと思うから、そこを考えてコンディションを上げてほしい、みたいなことは言ってくれています」

今回、吉田に加え、大﨑も不参加となり、代表メンバーも必然的に若返りを図る。1993年生まれの藤岡は、自分たちがリーダーシップを発揮すべき時が来たと考える。

「もうJX-ENEOSでも引っ張っていかなければいけない。代表でも中堅といっても自分たちより年上の選手は現段階で4人しかいないので引っ張ってやっていくしかない。アジアカップの時も最後に出ていたのはリツさん(高田真希)と自分と(長岡)萌映子、アース(宮澤夕貴)、(町田)瑠唯さんと自分たちの世代がメインで、これなのかと感じたものがありました。東京五輪で自分たちの世代が年齢的にも良い時期になっていると意識するのはネガティブではなく、プラスだと思うので、引っ張っていきたいという気持ちは強く持っています」

今の藤岡は、試合形式のメニュー参加に向け階段を一つずつ登っている。ワールドカップ本番に間に合う確約はないというのが客観的に見た状況だろう。ただ、本人は吉田の後継者として、新な日本代表のフロアリーダーとしてワールドカップの舞台に立てることを信じている。その断固たる思いが実現することを我々も信じて、これからも代表活動を見続けていきたい。