シュートタッチは戻らず、それでも打ち続けた大会に
アジア選手権に挑んだU-16男子日本代表は6位で大会を終えた。上位4チームに与えられる来年のU-17ワールドカップの出場権を逃したことは、この年代の選手たちが国際経験を積む上で極めて大きな損失となる。それだけに、今大会で得られた『アジアの力を肌で感じた経験』を次に生かすことが大事だ。
日本代表は昨日帰国。チーム最年少ながらエースとして活躍した田中力は「ミドルシュートが大事になってくるというのは思いました」と、アジアで戦った実感を語った。
田中の持ち味は卓越したボールハンドリングから繰り出すドライブ。今回のアジア選手権でもこの武器は大いに機能しており、ヘッドコーチのトーステン・ロイブルからもドライブを仕掛けろと指示されていたという。だが、ドライブ一辺倒になっては相手に下がられて守られてしまう。そのバランスを崩すためにミドルシュートが必要だった。
このため積極的にシュートを放ち続けたが、最後までシュートタッチは戻らなかった。ドライブで仕掛ける積極性、シュートまで持っていく能力で強烈な印象を残したのは確かだが、成功率は2点シュートは40.7%、3ポイントシュートは21.4%と及第点以下だったのも事実である。
「行く前に体調を崩して、調子が悪かったのもありました。でも調子が戻ることを信じて、自分のシュートだと思ったら打ちましたが、調子は戻らなかったです」と田中は言う。「ドライブだけになってしまうと、あのレベルだと抜けないので。外と中のバランスを良くしないとと思い、とりあえず打っていきました」
シュート試投数は大会4位、得点は8位という結果に
成功率には改善の余地があるとしても、シュート試投数14.5は大会4位の数字。それで大会8位となる15.2得点という数字を残してもいる。外れても打ち続けるメンタルの強さは評価していいはずだ。少なくとも必要な場面で弱気になって打ち切れないシーンはなかったし、多少不利な状況でも可能性があると判断すれば迷わず打っていく姿勢は印象に残るものだった。
「練習で身体が重くて、絶対シュートダメじゃんって。練習中でも全然入らなかったし、試合で打つのも怖いなって気持ちになっていました」と田中は胸の内を明かした。
それでもシュートを放ち続けた田中の思いが、ベスト4を懸けたフィリピンとの大一番で花開いた。216cmのセンター、カイ・ソットに手を焼き、日本は最終クォーター残り3分半で2桁のビハインドを背負ったが、田中がここから11連続得点を挙げ土壇場で同点に追いついた。「チームを勝たせたい気持ちがあって、打たなきゃ入らないし打つしかないと吹っ切れて、入っていった感じです」とその時を振り返った。
だが最終盤に勝ち越され、最後は田中のフェイダウェイシュートが外れて2点差で敗れた。責任を背負ってラストショットを放った田中は、それが外れたのを見届けるとコートで泣き崩れた。「周りの人たちに八村(塁)さんみたいに日本のチームを勝たせてねって言われていて、どうしても勝たせたかったので」と貪欲な勝利への執念があの涙に凝縮されていた。
来月からアメリカへ「とりあえずバスケします」
アジア選手権で結果を出すことはできなかった。しかし、アジアの国々との真剣勝負は彼に新たなモチベーションをもたらした。「ディフェンスもオフェンスも全部をレベルアップしなきゃダメだと思いました。フィジカルも技術もそうですし、このままじゃ活躍できないなって」
その気持ちを胸に、田中はアメリカへと旅立つ。この春に中学を卒業した田中の進路は、フロリダのIMGアカデミー。全寮制の寄宿学校で、世界最高峰のスポーツアカデミーとして知られる。日本では錦織圭がIMG出身、アンドレ・アガシやマリア・シャラポワを輩出していることもありテニスのイメージが強いが、ゴルフや野球、アメフト、そしてもちろんバスケットボールでもエリート養成機関だ。
NBA選手のビッグネームはまだ輩出していないが、デューク大のトレボン・デュバルは今年のドラフトで1巡目指名も期待できる1年生ポイントガード。またIMGから直接NBA入りを狙うアンフェニー・シモンズ(高校卒業後、1年間IMGでプレーした19歳でNBAドラフトのエントリー資格を有している)と、全米が注目される若手を育成している。
「8月に始まりますが、その前にトレーニングや勉強もしなくてはいけないので、早くて5月から」と、田中の新たな挑戦はすぐに始まることになりそうだ。
渡航準備期間に何をするかの問いに対して、「とりあえずバスケします」という発言が飛び出すほど、バスケを愛してやまない田中なら、一回りも二回りも大きく成長していくだろう。