全中優勝の西福岡、鶴我隆博の指導法(前編)「苦しい時こそ顔を上げる選手に」

2018/01/11
プレイヤー
1049

取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎

昨年夏に沖縄県で開催された全中(全国中学校バスケットボール大会)を制した西福岡は、鶴我隆博が監督を務めるようになったこの7年間で決勝に4回進出し、2回優勝している『最強の公立中学校』だ。鶴我はそれ以前にも百道中、姪浜中で全中に出場し、竹野明倫(西宮ストークスコーチ)や橋本竜馬(シーホース三河)といったタレントを育て上げている。昨年2冠の福岡第一で活躍した重冨周希と友希、今年のインターハイ優勝校である福岡大学附属大濠の永野聖汰、中田嵩基も西福岡での鶴我の教え子だ。その鶴我に選手育成の手法やポリシーを聞いた。

「指導をするのもバスケを続ける道だ」と説かれて

──まずは鶴我先生の自己紹介をお願いします。

西福岡中学校でバスケットを教えております、鶴我です。福岡大学附属大濠から大阪体育大学に進み、卒業後は大濠に戻り、恩師の田中國明先生だとか、当時のアドバイザリーコーチだった笠原成元先生に指導者としてのハウツーを教えていただきました。すぐ近くには中村学園の吉村明先生だとか尊敬する先生方がたくさんいる、恵まれた環境で過ごしました。その後に公立の中学校に来ています。もう30年を超えまして、今は西福岡中学校を指導して7年目になります。

現役時代は大した選手ではなくて、教育実習で大濠に行った時に田中先生から「指導をするのもバスケを続ける道だ」と説かれました。就職してプレーを続けるとしても、ずっとバスケットと携わっていけるとは限りません。指導者を目指すのも一つの道として素晴らしいと思ったし、また自分が成し得なかったことを教え子に託していくのも興味深いと感じました。

大濠での3年間、田中先生や笠原先生の指導を見て学び、そこから中学校の採用試験に通ってそちらに移りました。大濠で続けたいという気持ちもあったのですが、中学校でイチから頑張って、そうやって育てた選手を送るのも良いと思ったんです。

「来る者は拒まず」の姿勢で部員52名の大所帯に

──2000年には百道中で全国3位、西福岡に移って2012年に全中を制し、準優勝も2回。そして今年度は2回目の優勝を果たしています。全国大会で何度も結果を出す、しかも公立中学校のバスケ部です。これはかなり特別だと思うのですが、何か秘訣はあるのですか?

正直に言えば「なぜ勝てているのか」も「なぜ勝てないのか」もよく分かりません。大したことはやっていないんです。だから指導法ではなくて生徒が良いんです。今の3年生なんか誰が指導しても優勝しますよ。そういうチームです。

──先ほど練習を見ましたが、普通の公立学校の体育館で、コートは1面。環境は他の学校と変わらないし、52名の部員を鶴我先生が一人で教えています。これでなぜ強いのかと……。

ウチの選手たちは覚悟を決めて西福岡に来ていますから、意識が高いです。全員ランク付けするわけじゃありませんが、極端に言えば1番から52番までいます。選手の中には「こいつを抜かなければ試合に出れない」という意識があります。そういった競い合いは大きいです。

──では、なぜ西福岡に良い選手が集まるのでしょうか。リクルートはするんですか?

公立校なのでリクルートはできません。それに「来なさい」と言ったら試合で使わなければいけませんが、そんな約束はできないです。地区によっては校区を比較的自由に選べる学校もありますが、福岡市は政令指定都市ですから、認められません。校区に住居がないと西福岡には入れないので、だから家族で引っ越して来るんです。だから親は相当大変だし、それを見ているから子供たちも意識が高いんです。

ウチは「来る者は拒まず」なので、ミニバスの指導者から練習参加に来たいと打診があればすべて来てもらいます。それで西福岡で頑張りたい、親も大丈夫と言うのであれば、背が低いからダメだとか、県大会での実績がないからダメだとは言いません。だからこうやって大人数になってくるんですね。

『一人が一人をブチ抜く能力』を身に着けろ

──先生の定義するこの年代の『良い選手』はどんな選手でしょうか?

ミニの監督に相談を受けた時には「苦しい時に顔が上がる選手を作っていただきたい」と言っています。偉そうな言い方になりますが、それが先々に一番伸びていくと思うからです。背が伸びたり足が速くなったり、成長とともにいろんな可能性が出てきます。ただ、下を向いてしまうプレーヤーはなかなか直しづらいところがあります。

技術はすごく上がっています。私たちの時代は何かやると指導者が「カッコつけるな」と怒ったものですが、今は中学生でも平気でレッグスルーやスピンムーブができます。それでも、世界のレベルは加速度的に上がっているわけですから、小手先のレベルが多少上がったところでチーム力にはならないんです。

──なるほど。ではチーム力を備える、あるいは高めるためには何をしますか?

これは笠原先生に教わったのですが、選手に能力がないから「チームとして何とかしなきゃいけない」と考えるのは監督のエゴです。チームとしてごまかすのではなく、選手の能力を上げなければいけないのだと。その最たる例が当時のドリームチームですよ。集まって2週間でちょっと味付けすればオリンピックで圧勝です。個々の力があれば勝てるんです。

「ごまかし」という表現は言い過ぎかもしれませんが、選手の能力が足りないからセットプレーやディフェンスのローテーションを工夫するだとか、悪いことではないですが、やはり『一人が一人をブチ抜く能力』、『一人がガツンと守る能力』です。小手先の技術とはまた別です。

まず中学生はそれを身に着けない限り、次の段階はないんじゃないかと思います。それで高校に行った時に身体作りをして、スピードやパワーがついて、それぞれコーチの考える動きを身に着けていけばいい。そう考えています。

(後編)「チームのごまかしは指導者のエゴ」