文・写真=鈴木栄一

12月中旬に行われた『女子ナショナルチーム合同キャンプ』。これはA代表、ユニバーシアード代表、U-19代表と3つのカテゴリーのメンバーを集めてのキャンプだった。大会もない時期に何をやるのか、選手たちも曖昧なままに集まったようだが、世代を問わずに日本代表が掲げる『Japan's Way』を共有するのが目的。フル代表の選手たちが指南役となり、下の世代への選手たちへと伝えることで、女子日本代表ファミリー全体の意識を高める素晴らしい機会となった。

この新たな試みについて、『Japan's Way』を若手に伝えたA代表の大﨑佑圭(JX-ENEOSサンフラワーズ)、先輩から伝えられたユニバ代表の田中真美子(早稲田大学)に話を聞いた。2人は同じインサイドプレーヤーとして、サイズ面ではハンディを背負いながら世界と戦う選手であり、なおかつ東京成徳大学高校の先輩後輩でもある。

大﨑「トムが何を求めていて、どうすべきか」

──今回の合宿で、大﨑選手は指導する側に回りました。そして田中選手はA代表の選手から教わりました。まずは今回の合宿の感想を聞かせてください。

大﨑 合宿をするという時点で「何をするんだ?」と。30人でどれだけの練習ができるんだろうっていう不安や期待、楽しみといろいろな気持ちでした。トム・ホーバス(女子日本代表ヘッドコーチ)の分身として今まで教わってきたことをしっかり教えることは、自分たちにとっては再確認になります。また、チームジャパンとしての土台をしっかりさせることにもなります。教えるのはすごく楽しくやれました。思っていたよりみんなスムーズに、ちゃんとしっかり伝えたいことを表現してくれていたので、今後につながる一歩になると感じました。

田中 最初は、どういう形で練習するかを全く聞いていなかったので不安が大きかったです。ただ、実際にやってみると、トップの人たちがわざわざ自分たちを見て教えてくれる。これまでにないすごい状況です。直接、自分を見てくれてアドバイスをもらえるというのが、本当にうれしかったし、いろんなことを吸収しないといけない。とても良い経験でした。

──大﨑選手は、日本代表のスタイルを若手に教える中で、特に意識していたことはありますか。田中選手は教わってみて、特に印象に残っていることはありましたか。

大﨑 トムのスタイルを教えるというよりは、自分が代表でどうしたらやりやすいか、トムが求めるのが何で、それに対してどうすべきか。「トムのやり方はこうだよ」ではなくて、「トムはこれを求めているから、こうしたらトムの目に入るよ」ということを意識して教えました。

田中 細かいところまで気にかけて、徹底してやっているところに驚きました。フル代表の方々がこんなにこだわっているのに、下のカテゴリーの自分たちが疎かにしていたら本当にダメだなと。そこに気付けたのが大きいです。細かいところにこだわるのはどのチームでも徹底できることなので、そこは大学のチームでも生かしていけたらと思います。

──大﨑選手はアンダーカテゴリーの代表も経験してきました。当時こういう取り組みがあったら良かったと思いますか。

大﨑 「なんで今までなかったんだろう」と思いますよ(笑)。スタッフを含め、日本のバスケットボール全体で東京五輪の金メダルを目指すための第一歩なのかと感じました。最後のミーティングでトムも言っていましたが、極端な話、トムのバスケットが浸透していれば、U-19からの飛び級だってあり得ることです。こういう取り組みを行うことで、アンダーカテゴリーの選手たちにフル代表の中に入っても自分がやっていけるという意識を植え付けることもできるので、今回はすごく良い機会だったと思います。

田中「大﨑さんみたいにゴール下の大黒柱に」

──ちなみにお2人は、東京成徳大学高校の先輩、後輩です。今回の合宿の前から接点はありましたか。

大﨑 全然なかったです。ただ、JXが高校生の合宿を受け入れているので、そこで成徳が来た時に自分も顔を出して、ちょっとポストの練習を教えたことはあったので面識はありました。

田中 ただ、その時の1回だけだったので、覚えてくださっているのか不安はありました。

──田中選手にとって大﨑選手はどういう存在ですか。また、互いに実際に話してみて、どんな印象を持ちましたか。

田中 高校の時、練習中に先生から「間宮(大﨑の旧姓)はこういうプレーしていた」という話を聞いて、雲の上の存在という意識でした。だから、同じコートに立てるとは思っていなかったのです。いや、実際は一緒に試合をしているわけではないんですけど(笑)。同じ空間にいることができてびっくりなくらいです。

大﨑 早稲田に行ったという情報は入ってきていました。教える中でも『成徳の後輩』となるとちょっとプラスの、愛が入っちゃうことがありました(笑)。そして、個人的には一つプレーを教えてくれと言われたのはうれしかったです。それは今後も必要な精神だと思いますし、私も求められればどんどん下の子たちに伝えたいです。

田中 大﨑さんに教わってみて、あらためて雲の上の存在なんだと。身体の当たり方を教わった時に、実際に当たりを受けた時はやっぱりすごいなと思いました。今までは自分のことを覚えていてくれるかなと心配でしたが、この次に会った時は自信を持って挨拶に行きます(笑)。

──短い期間ではありましたが、この合宿を通して、大﨑選手から見て田中選手にここをもっと伸ばせばなどアドバイスはありますか。

大﨑 正直、思っていたよりできていました。もっと当たりが弱かったり、外を好むプレーヤーかなと思っていましたが、5対5ではなく分解練習の中ではありましたが、当たりの強さだったり、ボックスアウトの徹底だったりがすごく伝わってきたのはプラス材料でした。そして、ちゃんと聞きに来るっていうのは、さすが後輩だと思いました(笑)。

田中 やっぱり代表となると背が小さくて5番ではないんですが、大学の中では自分は大きくて、中でゴリゴリやっていかないといけない立場です。大﨑さんみたいに力強く、ゴール下の大黒柱みたいな感じになりたいと思います。

大﨑「メダル獲得の目標にガッツリ乗っかってほしい」

──名門の東京成徳大高校の卒業生として、後輩にもっと代表に上がってほしいとの思いは?

大﨑 もちろんあります。東京五輪でメダルを獲るという目標に、ガッツリ一緒に乗っかってきてほしいです。代表に入るようなメンバーが成徳から出てほしいっていうのはありますし、今入っている人たちも大切にしたいという思いがあります。

──田中選手にとって、ユニバーシアードはどういう大会でしたか。

田中 バスケットボールに対して考え方がすごく変わった大会で、もっと上を目指したい、2年後の大会にも絶対に参加したい、もっとバスケ頑張ろうって思えた大会でした。そして、吉田(亜沙美)さんがお話された時に、自覚と責任を持つことを言ってくださいました。そこには結構ハッとして、代表のユニフォームを着ている以上はやっぱりもっと上を目指していかなかればいけないと感じました。

──フル代表はアジアカップで優勝しました。フル代表の最前線で活躍している大﨑選手から見て、アンダーカテゴリーの代表が結果を残していることをどう見ていますか?

大﨑 刺激になりますし、プレッシャーにもなります。楽しみでしかないですね。自分たちも(アジアカップの時に開催地の)インドでU-19の試合をネットで観戦したりしていました。「良い戦いをしたけど残念だったね」ではなく、ちゃんと結果を残すバスケットをしていたと思います。今回のように一つになって合宿をやることで、アンダーの選手たちにとって、もっと先が開けてくる。視野が広がると思います。

──それでは最後になりますが、田中選手は来シーズンに向けてどんなオフシーズンを過ごしていきたいか。大﨑選手は皇后杯とリーグ後半戦に向けた意気込みをお願いします。

田中 今回学んだことをしっかりチームに還元するのが私の仕事です。今回、日本代表が一つのチームになっているチーム愛というのをすごく感じました。そういうコート外のところでも学んだことを持って帰って、良いチームを作れたらいいなと思います。

大﨑 皇后杯、これからのWリーグでも、チームだけでなく頭のどこかで常に代表を意識してプレーします。世界と戦うための心と身体の準備をしっかり続け、また代表活動が始まった時にスッと入れるように意識していけたらと思います。