[INDEX]ウインターカップ2017プレビュー 出場校インタビュー
インターハイの雪辱を誓う『冬の明成』
インターハイ決勝で福岡大学附属大濠(福岡)に60-61の1点差で敗れた明成が、1年の総決算であるウインターカップに向けて燃えている。明成といえば、4度のウインターカップ優勝を誇る『冬に強いチーム』。その理由は、佐藤久夫監督が「365日×3年間かけて」と言うように、高校3年をかけて基本から徹底的に作り上げるチーム力にある。今年も高校生活のすべてを懸けて勝負をする大会がやって来た。
ウインターカップやインターハイの前になると、明成が必ず行う強化試合がある。それは、高校生たちが卒業した大学生たちに胸を借りる『OB戦』だ。
ここ数年で全国屈指の強豪へと上り詰めた強さを見ると忘れてしまいそうになるが、明成は今年で創部13年目となる比較的新しいチームである。2009年に創部5年目で達成した全国制覇を筆頭に、13年という歴史の中で急速に力をつけた背景には、先輩から後輩へと受け継がれてきた強い絆がある。明成にとってOB戦はただの強化試合ではなく、先輩たちが作った『最後まであきらめない』というチームカラーを引き継ぐ場でもある。こうして信頼関係を築いてきたからこそ、驚異的なスピードで結果を残してきたのだ。
八村塁も参加を希望している熱いOB戦
今年のOB戦は、12月16日と17日に開催された。集合した大学生は2013年から2015年にかけてウインターカップ3連覇に貢献した選手たち。2013年に優勝した大学4年生(7期生)と、3連覇を達成した大学2年生(9期生)の12人。いわば明成史上、最強のメンバーたちだ。現在、アメリカのゴンザガ大で奮闘している八村塁の参加は当然ながら見送られたが、八村自身は参加を熱望し、今夏にはこう語っていた。
「大学生になったらOB戦に出るのを楽しみにしていました。特に今年は僕が1年生の時に組んだ3年生とプレーする最後の機会だし、同期とバスケがしたかったし、弟(阿蓮)とも対戦したかった。どうして僕を呼んでくれないのかと、久夫先生に言いたいほどです(笑)」
現実問題、アメリカで戦っている八村を招集することは無理な話であっても、本人が参戦を熱望しているのは、母校や佐藤監督への恩返しの思いもあるのだろう。2013年に優勝した時のキャプテン、植村哲也(法政大4年)は卒業生としての思いをこのように語る。
「OB戦は高校時代のメンバーに会えて楽しいですけど、ただの仲良しゲームではないです。僕にとっては大学の公式戦と同じくらい重要で、OB戦に備えて身体も気持ちもしっかり作って仙台に向かうほど。それは後輩のためでもあるけれど、大学で成長した姿を久夫先生に見せたいからです」
OBに3戦全勝した高校生、だが佐藤監督は「まだまだ」
自分たちも通ってきた道だとばかりにOB戦の重要性を語るのは、ウインターカップ3連覇を遂げた代のキャプテン、納見悠仁(青山学院大2年)だ。「高校時代のOB戦はウインターカップで勝つための最後の関門でした。大学生相手に良い状態で乗り切れば自信になるし、大会の良い入りにつながります」
また、同じく3連覇メンバーで中央大に進んだ三上侑希と足立翔は「明成に帰ってくると刺激を受けて、もっと頑張らないといけないという気持ちになる」(三上)、「高校生に負けたくないので気持ちを出してやります」(足立)と口にする。卒業生にとってのOB戦は原点回帰の場でもあるのだ。
今年のOB戦は高校生の3戦全勝だった。後輩たちが速攻を出せば、先輩たちは球際の強さを見せる本気のバトルが展開されたが、高校生が全勝したのはOB戦史上初めてのことだという。今年は大学生たちが年明けの天皇杯に出場しないため、インカレを終えて試合から遠ざかり、トレーニング期に入っている選手が多い。ゆえに、高校生たちの体力が勝ったのだ。しかし、大学生に連勝しても佐藤監督は「まだまだ」と合格点を出すことはない。
「ディフェンスは良くなったが、オフェンスでは絶対的とか、ぶっちぎるだけのものがない。ミスをなくして、負け材料を減らすことは大会までの練習でも、大会中でもやらなくてはならない」と気を引き締める。もっとも、例年のこの時期に佐藤監督の口から自信めいた言葉を聞いたことがない。八村塁の代もそう。公式戦が終わるその日まで成長することを求めているのだ。
勝負どころを逃さない戦いをウインターカップで
昨年のウインターカップで初戦敗退したことを思えば、今年の明成は急成長を遂げた1年だった。機動力あるディフェンスから畳みかける速攻は破壊力抜群。走れている時の明成は強い。だが、インターハイでは福岡大学附属大濠のゾーンディフェンスを崩すことができずに足が止まり、ガードのゲームメークと、八村阿蓮や相原アレクサンダー学といったエースたちのここ一番での積極性に課題が残った。それを受けて冬に向け打開力をつけるために、ハーフコートの5対5の攻防練習を例年より多くやっている。
「オールコートで走って打開するのではなく、ハーフコートでゲームを作るには、バスケットボールの動きを理解しないとできない」と語る佐藤監督は、決して身体能力任せにせず、『高校生にはバスケットボールという競技の本質を知り、ゲームの組み立てを理解して卒業してほしい』との願いを込めて毎年指導している。さらに今年は「八村塁の代と同じくらい追い込んで身体作りのトレーニングをした」と高橋陽介アスレティックトレーナーが語るように、軸がしっかりした強い身体も武器である。
八村は力強いインサイドのみならず、今では留学生を前にして3ポイントシュートを打つようになり、相原は得意のドライブインだけでなく、ルーズボールやリバウンド、ブロックショットなど、身体を張った仕事でチームを助ける場面が増えた。
「今年の3年生は自分たちの心の弱さや技術の弱点を分かっていて、その課題をクリアしたい思いで頑張った代」と佐藤監督は言う。「まだまだ」という言葉は「もっともっと成長できる」という意味にも言い換えられる。最強のOBたちを破った自信を胸に、夏より一回りも二回りも成長した姿を東京体育館で見せたいところだ。
明成の伝統はOB戦のみならず。ウインターカップのメインコートに立ったときには、歴代の先輩たちがコートサイドに並び、声援を送る姿も冬の風物詩になっている。そんな心強いOBたちからのメッセージを最後に紹介したい。
「僕らがOB戦で後輩たちに伝えたかったのはゲーム展開。ここはアーリーオフェンス、ここはプレッシャーをかけるところとか、ここ一番での頑張りどころをOB戦から感じ取ってほしかった。僕たちもOB戦で先輩たちから勝負どころの強さを学んだから、本番に生かすことができました。それができればこの代は本当に強い。ウインターカップでは全員で戦う明成バスケを見せてほしいです」(植村哲也)