取材・文=鈴木健一郎、写真=バスケット・カウント編集部

今年の岐阜女子は26回目の挑戦でインターハイ初優勝を成し遂げ、国体でも優勝。初めて『3冠』を狙える位置につけてウインターカップ開幕を迎えようとしている。190cmの長身エースのバイ・クンバ・ディヤサン、キャプテンの石坂ひなたを筆頭にタレントが揃い、勝利を積み重ねることで自信も揺るぎないものとなった。

「やっていることは変わっていません」と語る安江満夫監督の心境は「周りに惑わされることなく、我が道を行くこと」。それでもこのウインターカップがチームの真の実力を問われる場だと認識している。初の『3冠』が懸かった大会への意気込みを聞いた。

[INDEX]ウインターカップ2017プレビュー 出場校インタビュー

「1回の練習を決勝戦のつもりで取り組む」

──ここまでインターハイと国体で優勝しました。これまでのチームとの違いは何でしょうか。

基本的に違いはありません。選手の駒に合うようなチームを毎年作っていて、この1年2年のスタイルは大きく変わってはいないです。

──それでも、去年と今年では桜花学園に負けるか勝つか、という大きな差があります。

確かにそうですが、たまたま結論が逆になっているだけだと私は思っています。より強いスタイルになったのではなく、正確性が増してきた。フィジカルの部分、選手の意識も上がってきた。その結果として結果が好転したと言えるんじゃないでしょうか。

ここは選手それぞれの個の部分が伸びています。一番伸びているのは2年生の池田沙紀と木下七美ですね。石坂(ひなた)もフィジカルが弱くてディフェンスを心配していたのですが、合格点に近いレベルに到達してくれました。センターのクンバ(ディヤサン)も得点力がさらに上がっています。

選手たちには常に頭で考えることを要求しています。1回の練習を決勝戦のつもりで取り組むようにと。話としては面白くないかもしれないけど、新しいことをやるよりは今までやってきたことを伸ばし、良い状態で大会に臨みたいです。もう一つは周りに惑わされることなく、我が道を行くということを貫き通して戦いたいです。やはりウインターカップとなると、あの東京体育館の舞台の大きさは特別ですから。ただ、そう考えると生徒たちは幸せです。私も選手たちと一緒に挑むことができることを、指導者として誇りに思います。

──あの桜花学園に勝つのは並大抵のことではありませんよね。

それを言うのであれば、チーム力は今年度だけのものではないということです。それは岐阜女子が長年培ってきたベースとなるものですね。桜花さんが60回以上の全国優勝をしているベースに私たちは到底太刀打ちできない。例えばそれは選手のリクルートにつながってきます。それがチーム力です。今年勝ってると言っても試合で勝っているだけで、チーム力で桜花さんと肩を並べるところまでは行けません。

じゃあ私たちに何ができるか。過去に戻ることはできないので、その穴埋めはできません。だから新たな歴史を作り上げていくしかない。その中で今、クンバだとか3年生は1年生の時にウインターカップで勝たせてもらい、2年生では決勝で負けています。勝った喜びと負けた悔しさ、その両方を知っているのが今のチームには大きいです。ただ、それは桜花さんも同じです。この12月の勝負はそんなに簡単に勝てるとは思っていません。

「岐阜女子でやりたい」子を集めて大舞台へ

──今の勢力図は岐阜女子と桜花学園の『2強』です。やはり桜花学園はライバルとして意識するところですか?

それは間違いないです。客観的に見れば実力的にもそう言えるでしょう。ウチにも長年積み重ねた強みがあります。他のチームには失礼かもしれませんが、桜花さん以上のことをやっているチームがあるでしょうか。それを企んで、やろうとしているのはウチです。だから勝つことができている。

ただ、桜花さんの積み重ねたチーム力というのを考えると、1回は勝てても3回、4回とはなかなか勝てないはずです。だからこそ選手たちには「まぐれも3回続けば実力になる」と言うんです。私にとって『3冠』とはそういう意味で、そこを成し遂げて初めて、チームの実力で勝てたのだと考えています。

桜花さんをマークはしますが、あくまで自分たちのバスケットを最後までできるかどうか。今まではうまく行ったけど、次どうなるかは分かりません。そういうことも踏まえて最大の準備をしてウインターカップに臨みたいと思います。

──桜花学園との比較というわけではありませんが、やはり実績の面でスカウティングでは不利があると思います。

そうですね。桜花さんは優勝回数の実績が突出していますし、日本代表にもたくさん選手を送り込んでいます。ウチは日本代表に入っていませんから。でも私は日本代表から声がかからない子供もバスケットボールの選手として、しっかり育てたいと思っています。実際、今は「岐阜女子でやりたい」という子が来てくれています。そういう子を鍛えて大きな舞台に挑ませてあげたいと毎年思っています。

本当はスカウトしていますけど、最後は「桜花学園に行きます」ということもあります、正直に言うと(笑)。でも、そのチーム力の差は致し方ないところで、変えることができないわけですから、ウチを選んでくれた選手で頑張るんです。

「習慣ほど恐ろしいものはありません」

──留学生はいつから取っているんですか?

きっかけになったのは2000年の岐阜インターハイで、その何年か前から「現状のままでは勝負できない」と考え、最初は中国に行って選手を取りました。今、三菱電機にいる王新朝喜も、私が天津に行ってスカウトした子の一人です。彼女が中3の時に会って、ただ大きかっただけなんですよ。中国の代表に入っているような選手は来てくれませんから。

当然、最初は大変です。文化習慣が違う、食べ物が違う。それを選手として育てられたのは、親代わりの覚悟で指導したからです。すべての責任は俺が負うんだくらいの覚悟でやりました。その王はリオ五輪に出て、今年はオールジャパンで対戦しました。もうベテランですが、1年1年頑張る選手だというのは岐阜女子にいた頃から変わっていませんでした。

──今のチームのエース、クンバはどうですか?

ウチの卒業生がセネガルにいて、知り合いを紹介してもらった縁でこちらに来てくれました。彼女が中2の時に見て、シュート感の良い選手という印象でした。ただ、来た時はただ大きいだけで何もできませんでしたが、日本に来て真面目にコツコツ努力をしてくれたんです。日本に来て悩むこともあったと思いますが、あの子たちにとってはその環境も含めて日本ですから。あの子たちなりに自然と受け止めてやってくれたと思っています。

──それでは、ウインターカップに向けて岐阜女子のどんなところを見てもらいたいですか?

人並みなことしか言えませんが、ひたむきにバスケットに取り組む姿勢を見ていただきたいです。そういうことがいかに大切か、結果を出すことでいろんな人に伝わればと思います。姿勢はどこも一緒で、みんな勝ちたい気持ちで一生懸命やっているでしょう。でも、これはバスケットに限らず、一生懸命のやり方が分からない子がいっぱいいます。そこは指導者が、その次の階段があることを踏まえて、目の前の一段を上がらせてやらないといけないです。

そういうことも踏まえて、学校生活や寮生活の中で学んだことが、コート上の姿勢に表れると思います。バスケットは『ハビットスポーツ』、つまり習慣のスポーツと言うんですが、習慣ほど恐ろしいものはありません。悪い習慣が付くとそう簡単には直らない。だから良い習慣を身に着けさせる。バスケットはその戦いだと私は思っています。

インターハイという大きな山を、自分たちで良い準備をして登りきることができました。国体という次の山も、同じように準備してきました。ウインターカップは3つ目だからといって特別なことはしません。ちゃんと準備をして、最後にザイルは大丈夫か、結び目はちゃんとしてあるかどうか。装備をもう一度自分たちで点検して、いざ山頂を目指します。