『橋本竜馬のオリジナル』で価値を出す
シーホース三河はホームにアルバルク東京を迎えた先週末の試合を1勝1敗で終えた。リーグ勝率1位と2位の対戦に相応しく、2試合とも締まった展開になり、第1戦はA東京が、第2戦は三河が勝利している。この2試合を振り返り、三河の橋本竜馬は「お互いにスカウティングして相手のやりたいことをやらせず、その中で自分たちのバスケができた2日間でした」と振り返る。
長く続いた連勝が土曜で途切れたが、「それだけに絶対に負けてはいけない試合でした」と橋本は言う。「僕たちは連勝を目指していたわけではなくて、目の前の試合に集中してきただけです。それでも僕は連敗しないチームが強いチームだと思っていますし、ここで自分たちのバスケを実行して勝てたことは、本当にチームの力になると思います」
負けてはいけない日曜の第2戦、三河が誇るタレントが個々の持ち味を発揮した。金丸晃輔は立ち上がりから果敢なシュートでオフェンスを引っ張り、桜木ジェイアールは流れが悪い時間帯に個人技でつないだ。アイザック・バッツは要所でのオフェンスリバウンドで存在感を発揮し、そしてエースの比江島慎は終盤の勝負どころでチャンスをことごとく決めて見せた。
両チームを通じて誰よりも長い36分間コートに立った橋本は、チームメートを鼓舞しつつ、ゲームの流れを読み取りながら仲間たちの持ち味を引き出した。このスタイルはずっと代表候補として練習に参加しながら、最後の最後でワールドカップ予選のメンバーから漏れたことで、あらためて認識した『橋本竜馬のオリジナル』だ。
橋本は言う。「今回落選したことで、逆に自分のバスケットボールを突き詰めることで価値を高めようと思いました。代表にはスタッツの出せる選手がいますが、そこを真似するんじゃなくて、仲間を鼓舞しながらゲームの流れを考えてプレーする、そんな自分自身のオリジナルを高めていくほうが『こいつは違うぞ』とアピールできると。それはシーホースでも同じです。試合を決める得点やたくさんのアシストではなく、試合の要所要所で、振り返ってみればこの選手が出ているなあ、というインパクトを残し続けたいです」
「代表でもシーホースでも、得点を取れる選手がたくさんいます。そこをいかに束ねていくかが僕自身の面白いところ。そこはブレずに、自分自身のバスケットボールを突き詰めていきたい」
様々な局面でのコールの理由を「僕は全部言えます」
ゲームメークの評価はパッと見では分かりづらいし、スタッツにも残らないだけに判断が難しい。だが、日曜のA東京戦を振り返る中で、橋本がどう考えてゲームを組み立てたかが明らかになってきた。「試合としては立ち上がり、(金丸)晃輔が最初に攻撃を仕掛けることが、流れをつかむ上で非常に大きかったと思います」と橋本。前日の敗戦を受けての第2戦、何としてでも先手を取りたかった。ここでチームとして金丸のシュートチャンスを作り出すことで主導権を握った。
その後に得点ペースが落ちた時間帯、桜木が得意のポストプレーからコツコツと得点を重ねたのだが、橋本は桜木一辺倒の攻めを避けた。A東京が桜木の個人技に手を焼いているのは承知の上で、桜木にパスを出さなかったのだ。「あそこは意図的にやりました。ポイントになるのがジェイアールのところだとは思っていましたが、他の選手にも責任感を持たせたかったからです」と橋本は説明する。
その橋本のゲームメークを助けたのは、他ならぬ桜木だった。橋本はチームの大黒柱に気を遣い、ハーフタイムに「もっとボールを回そうか」と声をかけたのだが、その回答は「お前の判断を尊重する。俺がボールを欲しそうな顔をしていても、自分のチョイスでやり続けていいから、自信を持ってやれ」だった。橋本は言う。「それは信頼感につながるし、自分のやり方が間違っていなかったという自信にもなります。それで後半も良い形で入っていけました」
そして試合終盤、鈴木貴美一ヘッドコーチが「終盤勝負だと思ったので」と温存した比江島をコートに送り出すと、橋本は比江島にボールを集めて、その得点力を生かした。チーム全員の能力を存分に引き出し、勝たなければいけない試合で難敵を撃破。「それぞれの場面でどういう理由でそのコールをしたのか、僕は全部言えます」と橋本は胸を張った。
「シーホース三河は自分たちのバスケを貫く」
橋本はチームメートそれぞれの持ち味を引き出しつつ、チームに常に刺激を与え、試合全体の流れを読みながら勝利へと導いた。そんな司令塔の働きとしては『副産物』かもしれないが、自身が決めた得点も非常に満足のいくものだった。橋本の最初の得点はファストブレイクから自らアタックしたもの。「45度で晃輔が走ってボールを呼んでいたのですが、ザック(バランスキー)が付いているのも見えて。一度ヘジテーションして、自分で行けると判断しました」
橋本のフィールドゴール成功は2と決して多くない。だがその最初の1つは「自分で作り出した状況をちゃんと見て、確率の高いプレーを選択できました」と満足できるものだった。「2つ目も、行くと見せて行かない、と思わせて行く。流れの中でああいった形で得点できたのは自分としては大きいです。たくさん点数を取っているわけではないですが、試合の中でインパクトの大きい得点ができました」
あくまでチームファーストだが、その中で重みのある得点ができた。自ら得点を量産するのではなく、得点力のある選手を束ねるスタイルを突き詰めたいと言う橋本だが、チームの勝利に重要な意味を持つ得点を自ら決めれば、当然のように喜びはある。「自分としてもファストブレイクから点数が取れたのは収穫ですし、試合のポイントで『ここで攻めてくるのか』という部分で得点できたらチームとしても楽になります」
連勝が止まったからこそ、絶対に連敗しない。頼りになる桜木に頼りすぎることなく、チーム全体のポテンシャルを引き出す。そして試合の中でインパクトのある得点を自ら決める。あらゆる観点で、チームにとって大きな勝利だったことを橋本は喜んだ。
「相手もあることなんですけど、『シーホース三河は自分たちのバスケを貫く』というイメージを与えることが大事です。それで相手にプレッシャーを与えられるし、自分たちには自信になる。それを続けていきたいです」
「負けも収穫ですし、勝ちも収穫です。すべてが自分にとってもチームにとっても良い週でした」と、橋本は満面に笑みを浮かべた。